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オレンジ色  作者: Aju


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62 対策会議

「美緒? 何ニヤついてんだよ、おまえ?」

 市川先生を乗せたジープが玄関前から走り去ってから、なにやら頬の筋肉が弛んでいる美緒に大樹が話しかけた。

「だって・・・、だって・・・。推し(・・)が最高レベルで評価された・・・。」

 美緒はもう市川先生ファンであることを隠そうとしない。

「あ、それ、分かる気がします。」

 玲音がそう言って、少しだけ笑顔を取り戻した。


「こちら市川基地(ベース)。峰平基地(ベース)聞こえますか? どうぞ。」

『こちら峰平基地(ベース)。何かあったの? 美緒。 どうぞ。』

「さっき稲生先生が迎えに来て、市川先生が政府の対策会議のメンバーとして呼ばれて官邸に行きました。どうぞ。」

『え? また? 対策会議のメンバー? それって、政府の中枢メンバーになったってことだよね? すごっ! それで嬉しそうな声なのか、隠れファンの美緒としては(笑)。 どうぞ。』

「もう隠れてないよ。どうぞ。」

「無駄に電気使うなよ——。」

 大樹が呆れ顔で言う。




 市川は目をキョロキョロさせていた。

 偉い人ばかりじゃないか。


「美沙都ちゃんもメンバーになってくれたんだけど、患者を診てて来ることができないから、電話回線で声だけの参加になる。オンラインの画像はヤバ過ぎて使えないんだ。」

 稲生渉の説明に改めてテーブルを見てみると、空席のところに「岐阜大学病院教授 久留原美紗都くるはらみさと」という名札が立ててある。

 そういえば、巫女内くんのお母さんは美沙都ちゃんのことを「脳神経内科の権威」って言ってたな・・・。

 ここに集まってるのは、そういう人たちばっかりなんでしょ?


 市川はだんだん居心地が悪くなってきた。

 イノちゃんだって、すぐに防衛省に呼ばれるほどの「専門家」だし・・・。自分なんて、ただの中学校の教員じゃないか。

 場違いだ・・・・。こんな場所・・・。


 テーブルの上には、よくテレビなんかで見かける会議風景にありがちなペットボトルは置いてない。

 口の中が乾いてきたが、たぶんオレンジ色の発生を危惧して飲み物は何も出てこないだろう。

「いっちゃん、緊張しなくていいよ。みんな肩書きと見かけだけのやつばっかりだから。」

 隣の稲生が、顔を寄せて小声で言う。


 全体で20人くらいいるようで、それぞれ見知った顔があるんだろう、あっちで2人、こっちで3人と挨拶したり話をしたりしている。

 席に着いている人も隣同士で話をしたりしている人が多い。

 偉い人というのは、こんなふうにそれぞれ一度は会ったことのある顔見知りだったりするものなのか——。

 市川は稲生以外、誰の顔も知らない。自分の顔を知っている人も、おそらく稲生しかいないだろう。


「そろそろ時間になりますので、皆様席にお着きください。まもなく総理が挨拶にまいりますので、その前にお飲み物——コーヒーかココアのどちらかしかご提供できませんが——お飲み物のご希望を伺って回りますので、ご希望される方はおっしゃってください。」

 事務方であろうか、30代くらいの男性が部屋の前で話すと、皆少し緊張した面持ちで席に着いた。

 市川はガチガチに固まっている。

 稲生がそんな市川を、学生時代みたいな表情で少し面白そうに横目で見た。


 程なく、総理と何人かの男女が部屋に入ってきた。ボディーガードだろうか、補佐官だろうか?

 皆、ビシッとスーツ姿である。市川は自分の格好が場に相応しくないと今ごろ気がついて、身を縮めた。普段着にジャケットを羽織っただけだ・・・。

 稲生もジャケット姿だ——ということは、市川はすっかり忘れている。


「皆様、本日はこのような大変な状況の中、お集まりいただき有難うございます。」

 菱田総理は、集まったメンバーの顔をぐるりと見回した。市川の顔を見つけると、軽く目だけで会釈をする。

「状況が状況ですので、簡単な挨拶だけで済ます失礼をお許しください。この異常事態からわずか6日で我々の社会はこの有様です。今後、政府はどのような対応をとるべきか、その方針を策定するために各界の専門家のお知恵を借りたく、皆様に集まっていただきました。どうか忌憚のないご意見、ご提案をいただければ、政府としては有難い限りです。」

 それだけを言って、総理は正面の椅子に腰を下ろした。


 その後、隣に立っていた40代くらいの女性が前に出て話し始める。

「総理補佐官の柏原陽真里かしわらひまりと申します。会議の司会の労を取らせていただきます。よろしくお願いいたします。なお、総理は1時間ほどしましたら、他の執務のため執務室に戻りますのでご了承ください。」

 一見物腰の柔らかな雰囲気を持つこの女性は、しかしその眼の奥に鋭い光を持っている。そのまま総理に並ぶ前面の席に座り、会議の進行を始めた。


 この間に事務方がそれぞれのテーブルの上に資料を配っていった。A4ペーパー3枚だけのものだったが、その1ページ目に自分の名前が書かれていることに市川は驚いた。

「まず、ここまでの経過を簡潔に説明いたします。」

 プロジェクターが前面のスクリーンに文字ばかりの画像を映し出す。

「お配りした資料の1枚目です。」


 4日目の項に、「市川弘夢氏のブログ発見」の項目がある。

「3枚目が、氏のブログに書かれた仮説の部分を抜き出したものです。まずは皆さんに、どういう現象が起きているのかの概略を理解していただくことから始めたいと思います。」

 ペーパーをめくってみると、秋場駐屯地でこの現象に関する自分の見解を書いたブログの文章がそのままプリントしてあった。


 全員の視線が自分に集まるのを感じて、市川は冷や汗が出てきた。



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