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オレンジ色  作者: Aju


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60 コミュニケーション

 感染者が4人に増えた。

 さっきまで香鈴の家と通信がつながって明るい雰囲気だった市川先生の家は、重苦しい雰囲気に変わってしまった。


「伝えないと・・・。沙緒里たちに・・・」

 美緒が市川先生の手作り通信機の前に行って座る。

「そ・・・そうですね。・・・そのために作ったんですから。」

 市川先生が、やっと会話の糸口がつかめたことに少しほっとした表情を見せて言った。

「先生は、もっと作ってください。あちこちと連絡がとれるように・・・。」

 美緒は、そう言ってから通信機の通話ボタンを押して先方を呼び出した。

「こちら市川基地(ベース)、峰平基地(ベース)聞こえていますか? どうぞ。」


 「ベース」と呼ぶようにしたのか・・・、と大樹がちょっと顔を上げる。

 そうだな。オレたちがこんな結果で帰ってくるまでは、通信機の成功で結構はしゃいでいたんだろう。

 大樹は、美緒や市川先生が明るい顔ではしゃいでいるところを想像して、少しだけ口の端を上げた。


 ばかアネキがもう少し慎重だったら、こんな塞いだ空気になんかならなかっただろうに。

 何が黒帯だよ——!

 とりあえず感染した2人と最低限のコミュニケーションができることが分かったら、大樹はだんだん腹が立ってきた。

 美緒をあんな表情にしちまいやがって。


 その美緒は通信機の前に座っている。

『こちら峰平基地(ベース)。感度良好。どうぞ!』

 古い映画の言い回しを真似て、沙緒里の弾んだ声が返ってくる。

「感染していた金森くんのお母さんを見つけて保護しました。その後、泉深さんが感染しました。・・・どうぞ。」

 ・・・・・

 美緒が通話ボタンから手を離しても、通信機は黙ったままになってしまった。


 しばらく間が空いてから、打って変わった沙緒里の声が聞こえた。

『どこで・・・? どうして・・・? ・・・・・あ、どうぞ。』

「感染者に追いかけられて、道路の死体につまずいたらしいの。駅前では感染者が大勢集まっていて、亡くなっていた感染者も結構いたそうです。・・・どうぞ。」

 少し空いてから、また沙緒里が返してくる。

『お世話は・・・、その、美緒が佑美を動かすみたいなことは、できるの? どうぞ。』

「うん。大樹が呼びかけると反応するんだ。なんとかなりそう。どうぞ。」

『そっか。なら、よかった・・・。じゃ、そっちは美緒と大樹くんが4人を守るキーマンなんだね。こっちは香鈴を守るのが最優先だ。』

 沙緒里が『どうぞ』と言う前に、後ろで『おまえも最優先だ!』と言う吉朗さんの声が聞こえた。

 美緒の口角がちょっと上がる。ちょっと話題を明るくしようと思った。

「反応する大樹の呼びかけの言葉、なんだと思う?」

 少し面白そうな声で言う。

「『おかあちゃん』って言うんだよ。どうぞ。」

 後ろで大樹が真っ赤になった。

「お・・・『お』は付いてねーぞ?」



 通信を終わらせてから、みんなで遅い夕食をとった。陽子さんと泉深さんは、目の前に皿が置かれて、大樹が「ごはんだよ」と言うだけで食べ始めた。

 もちろん手づかみだ。泉深さんが先に手を出し、それを真似るようにして陽子さんが食べ始める。

 このあたりの感じは、佑美ちゃんとお母さんの陽南さんの関係と似ている。

 おそらく、佑美ちゃんと泉深さんは市川先生の家にしばらくいたから、その感覚が残っているのだろう。


 食べ終わった後、しばらくして陽子さんが立ち上がった。歩き出そうとして、戸惑ったように周りを見回す。

「お手洗いですか?」

と亜澄海が声をかけてみるが、全く反応しない。

「かあちゃん、トイレか?」

 大樹が声をかけると、陽子さんは反応した。

「ひ、ロ、クん。・・・こコ、どコ?」

 自宅のトイレへ行く風景と違っていることに戸惑ったのかもしれない。

「せんセイの、ウち・・・。」


 皆が一斉に顔を上げた。

 驚いたことに、答えたのは泉深だったのだ。


 感染者同士の会話はできるのか? そういえば車の中でも・・・、少し会話が成立しているようなやり取りがあった。

 亜澄海は車の中での陽子さんと泉深ちゃんの「会話」のようなものを思い出した。

 そう考えて思い出してみると、佑美ちゃんと陽南さんも言葉ではないが何某かのコミュニケーションをとっているように見える。


 しかし、陽子さんと泉深の「会話」はそこで止まってしまった。

 陽子さんはもじもじしている。

「かあちゃん、トイレならこっち。」

 大樹が手を引くと、陽子さんは素直に従って歩き出した。

 美緒が立ち上がって後に続く。

「手伝おうか?」

「お・・・おう。頼むわ。パンツとか自分で脱げなかったら、オレがやるんか? と思ってたところだ。」

 大樹が少しほっとした顔で美緒をふり返った。。


 しかし大樹の心配をよそに、陽子さんは普通に自分で用を足すことができた。

「陽南さんは世話してあげないとできないけど、大樹のお母さんや佑美は自分でできるんだね。このへんも人によるのかなぁ。」

「アネキが自分でできると助かるがな。」

 大樹がちょっとしかめ面で言う。


 トイレから戻ると、市川先生が通信機の前に座っていた。

「そうです。こちらでは金森さんの母子おやこ間で、意味のあるような『会話』が2度ほど見られたんです。そちらの峰平さんの家族間では同じようなことは見られますか? どうぞ。」


 市川先生が沙緒里の家族とやりとりした結果、感染した香鈴の家族の間でも似たようなことが時々起こるらしいことが分かった。

「これは、新しい重要な情報です。もっとサンプル数が必要ですね。みさ・・・久留原さんと連絡が取れるといいんだけど・・・」

 もし、感染者間でもコミュニケーションが可能だとするなら、それがどんなに希薄なものであっても「感染者」を保護する上で力強いツールになる可能性がある。

 場合によっては「治療法」を探る入り口にも・・・。


「自衛隊に——、秋場基地に行かなきゃ。あそこの収容棟は、今どうなってるんだろう?」

 亜澄海が、目に力を取り戻して言った。



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