表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレンジ色  作者: Aju


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/79

59 愛された子ども

 市川先生は紡ぐべき言葉を見出せないまま、口だけをあうあうと動かして目を泳がせている。

「泉深ちゃん・・・?」

 亜澄海が声をかけてみるが、泉深は全く反応しない。


 どうしよう・・・?

 守るって、約束したのに・・・。


 亜澄海はまた涙がこぼれ落ちそうになるのを懸命にこらえた。子どもだったら、わんわん泣いてしまいたい。

 でも、そんな無責任は許されない。何としてでも、この2人をお世話できる状況に持っていかなくては——。

「陽子さん? 降りてください。泉深ちゃんを連れて・・・。」

 今度は母親の方に声をかけてみる。

 と、陽子が少しだけ反応を見せた。

「い、ズみ・・・」

 陽子が片手を泉深の頭の上に乗せて、そっと撫でるような仕草をみせた。泉深もそれに反応するように、少しだけ頭を陽子ははおやの方に寄せる。


 それだけだった・・・・。


「オフクロ。アネキを連れて降りろよ!」

 大樹が少し涙声のままで呼びかけてみるが、やはり反応がない。姉の泉深が銀行で声をかけた時には陽子ははおやは反応したのに・・・。

 オレには反応なしかよ・・・? 根っこのところでは、オレはいなくていい子だったのかよ——?


「2人とも!・・・」 死んじまえ! と悪態を吐きそうになって、大樹はその言葉を喉元で呑み込んだ。

 それを口に出したら・・・、その言霊が呪いになって、本当に2人を大樹から奪い去ってしまいそうな気がしたのだ。


「泉深さん?」

 美緒も呼びかけてみたが、やはり無駄だった。


 その頃になると、異変に気づいたみんなが玄関から1人、2人、と様子を見に出てきた。

「泉深さん・・・、感染したんですか?」

 誠が遠慮がちに大樹に訊ねると、大樹は無理やり笑顔を作ろうとして顔を歪めた。

「この人は・・・、お母さん?」

「ふっ・・・2人して、あっちぃ行きやがった・・・。」


「大樹が呼びかけても反応しないんだ・・・。」

 美緒が誠に説明する。

「誰かが・・・、2人との間の窓口にならないと・・・。」


 誠は眉間にシワを寄せて少し考えていたが、やがてふっと顔を上げて新しい呼びかけを試してみた。

押忍おす! 泉深先輩!」

 泉深がぴくりと反応した。

 皆が、あっ、という顔をする。これは、上手くいくかも・・・。

「押忍! 先輩! お母さんを連れて、車から降りてください!」

 誠が続けて話しかけてみたが、泉深はそれ以上の反応は見せなかった。そこまでだった。


 無理やり降ろすか・・・?

 亜澄海はそんなことを考え始めた。

 みんなで担いで、家の中に連れて行って・・・。

 それで、どうする?

 誰にも反応しないのに・・・。どうやって食事を摂らせる? トイレは? お風呂は? 着替えだってさせなきゃ・・・。

 誰が・・・・?


 佑美が感染した時は、佑美が美緒の呼びかけに反応してくれたことで、わずかにコミュニケーションが取れる窓口が残された。

 しかし、今回・・・。泉深さんも母親の陽子さんも、あれほど仲のいい姉弟に見えた大樹の呼びかけにさえ反応しない。コミュニケーションの窓口がない。

 このまま、みすみす衰弱してゆくのを見ているしかないのか?


 万策尽きたかに思えたその時、大樹の顔が大きく歪んで、真っ赤になった。

 そして・・・。

 大きく開かれた口から、その言葉が飛び出した———。


「ねえちゃん! かあちゃん!」

 人目も構わずに、中学生の大樹が小さな子どもみたいな泣き声で叫んだ。

「こっち向いてくれよお————!」


 すると・・・。

 その声に、陽子と泉深が反応した。


「ヒロ・・・くん?」

「ひロく、ン。」

 2人がゆっくりと車から降りてくる。

 そして・・・。

 それぞれ大樹のそばにやって来て、頭の上に手をそっと乗せたり肩を抱いたりした。

「ひろクん・・・泣いテルの?」

「だい、ジョうぶ。・・・ねえチャん、こコに、イるよ。」

 陽子が小さい子にするように、頭の上の手をぽんぽんする。


 大樹が目をぎゅっと閉じて口を大きく開け、声を出さずに泣き出した。大粒の涙が、ぼろぼろと長靴の上にこぼれ落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] (´;ω;`)ううう‥
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ