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オレンジ色  作者: Aju
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5 小学校

 助手席には大樹ひろきが座っている。後部座席はそもそもが2人用なので、女子3人と1年生の玲音れおんが文字通りぎゅうぎゅう詰めだ。

「わりーな。オレばっかりゆったり座っちゃってよ。」

 大樹が後ろをふり返って、口の端だけを上げた。


 気にすんな。あんたなんかとくっついて座りたい女子が1組にいると思うか? かわいい1年生の男の子だから後部座席に受け入れてんだって、悟れよ。


 その玲音は、美緒と香鈴かりんに挟まれた形になって居心地悪そうに肩を前にすぼめるようにして両手を膝の上で合わせている。

「平田クン、嬉しいでしょ。年上のお姉さんに挟まれる機会なんて滅多にないぞ ♪」

 香鈴が小さくなっている玲音をからかった。イジんなよ。こんな時に——。

「お母さん、仕事大丈夫なの?」

 美緒は話題を振った。

「ばっか。仕事より、大事なひとり娘だろ? それより、うちに帰る人は?」

 誰も声をあげない。

「うち、働いてるんで——。さっきLINE送ったら返事きたから、2人とも無事だと思う。」

 沙緒里が言うと、香鈴も同じようなことを言った。あとの2人も親は働いていて、昼間はいないらしい。


「妹が・・・。」

 少し間を空けてから玲音が小さく言った。

「小学校にはいるけど・・・」

「寄っていこう。東小だね?」

 亜澄海あすみがハンドルを切った。美緒は(どこに乗せるの?)とは思ったが、放っておくわけにもいくまい。ここには玲音が乗っているし、わたしたちはもう運命共同体になってしまったんだし——。

「他に兄弟とかいる人は?」

 亜澄海が運転しながら聞くと、大樹が返事をした。

「アネキがいるけど、高校生だから大丈夫だろ。さっきLINE送ったら返事きたし、空手もやってるし。」

 スポーツ系の血筋らしい。香鈴も後に続いた。

「わたしもアニキいるけど、拾う必要ない。高校生だから。ばかアニキだし——。」

 沙緒里は美緒と同じ一人っ子だから、とりあえず拾うのは玲音の妹だけでいいわけだが。・・・しかし、どこに乗せるの?


 美緒がそんなことを考えているうちに、小学校の駐車場に着いた。

 水たまりがある。しかし、まだそこにはあれはいないようだった。美緒が用心深く扉を開けて車を下りる。

 美緒と香鈴に挟まれていた玲音が、やっと息がつけたような顔をして下りてきた。乗るときに美緒が最後になったから、あの形になってしまったのだった。細々(こまごま)と考えているほど、みんな余裕はなかったのだ。


 亜澄海も車から下りる。

「子ども1人じゃ信用されないかもしれないから、一緒に行ってあげるよ。」

「ちょ・・・ちょっと、お母さん。その間に何かあったら、どうすんの? 誰も運転できないよ?」

「ドアに鍵かけて、中に閉じこもってなさい。それでもヤバい状況になったら、キミ。」

と大樹を指さした。

「キミの判断でなんとかして。いちばん判断力ありそうだし、強そうだから。」

「お・・・オレ?」



 桜蓮市立東小学校は、職員室の前を通らないと教室の方には行けない造りになっている。

「あの、すみません。」

 亜澄海は窓越しに声をかけたが、中には誰もいない。

「授業中・・・だからかな?」

と玲音が言う。

「そうかもしれないけど、用心して。」

 この造りにしたのは、学校の児童の保安を考えているからのはずだ。なのに入り口の「関所」に当たる部分が無人になっている、というのは違和感がある。


 辺りに目を配りながら、ゆっくりと進む。

「何年何組?」

「よ・・・4年2組です。あの階段上がってすぐ・・・。」

 それにしてもなぜ誰もいない? 子どもの声すら聞こえない。 嫌な感じだ。

 すでに手遅れだったのか?


 階段を上がろうとしたその矢先、上から誰かが下りてくる足音が聞こえた。それがひどく奇妙な音だ。


 ずるっ。 ぺたっ。 ずるっ。 ぺたっ。 ・・・・・・


 スリッパを引きずるような足音がゆっくりと近づいてくると、やがて踊り場に40がらみの教諭らしき男性が現れた。

 その瞳が、オレンジ色に光っている。


「キミたちは誰デす? この学校の人じゃアりませんね?」


 手には何も持ってはいないようだったが、ゆっくりこちらに向かって下りてくる。

「逃げるよ!」

 亜澄海が玲音の手を引いて、さらに建物の奥へと走り出した。スリッパが邪魔だが、ストッキングをはいたままの足ではこの床は滑るかもしれない。

「い・・・妹は、さっきの階段を上がってすぐの教室です。」

 玲音が泣きそうな声で言う。

「別の階段で上がってみるから。」


 それにしても、なぜどの教室にも生徒がいない? なぜ、こんなに静かなんだ?

 奥の階段を駆け上がり、階段室の角から顔を半分だけ出して廊下を覗く。誰もいない。


 そのまま4年2組の教室を目指して走る。

 途中、亜澄海は1組の教室をチラと横目で見て、思わず足を止めた。生徒がいる!

 ・・・・・・

 だが、人数は10人くらい。大人しく椅子に座っていたが、一斉にこちらを見た目はオレンジ色に光っていた。

 他の子はどこに行った?


 玲音に手を引っ張られて、亜澄海はすぐに意識を2組の方に戻した。玲音くんの妹は無事か?

 2組の教室を覗く。

 こちらには15人ほどの生徒がいて、やはり大人しく椅子に座っていた。皆、机の上で授業用のタブレットをいじっている。

 全員が一斉にこちらを見た。瞳がオレンジ色に光っている。数人がゆっくりと立ち上がった。

「妹、いる?」

 亜澄海が聞くと、玲音が不安をいっぱいに溜めた目で答えた。

「れ・・・玲奈れいなは、いない・・・・。」


 立ち上がった数人が、給食用のコップを持って窓際に行く。そこに置いてあるメダカか何かの水槽の水面に、あのオレンジ色がいくつも走り回っていた。

 その水をコップですくおうとするのを見て、亜澄海は反射的に玲音の手を引っ張った。

「玲奈ちゃんは上手く逃げたんだよ、たぶん。 探そう。」

 亜澄海は玄関に向かって走り出す。とりあえず靴に履き替える必要がある。スリッパでは動きに制約がありすぎる。


 最初の階段を覗くと、そこにさっきの男性教員はいなさそうだった。用心しながらも、足早に階段を下りる。

「玄関で靴を履くよ。スリッパでは走りにくい。」


 階段を下り切ると、職員室前の廊下にあの教員がいた。手に刺股を持っている。

「不審者。ふシンしゃ。」

 叫ぶわけではなく、淡々とした口調でその言葉を吐く。言葉は・・・、場面に適切ではあるが、中身が感じられない。

「不審者ではありません。この子の妹を連れに来たんです。」

「ふ、シン者。おとナしくシろ。」

 教員は亜澄海たちに向けて刺股を構えた。ゆっくりした動きで前進してくる。


 やはり通じないか——。


 亜澄海は職員室の扉を開けて、中に逃げ込んだ。

 教員が首を曲げて、そのオレンジ色の視線で亜澄海たちを追う。教員は刺股を構えたまま、亜澄海たちが今しがた入ってきた入り口に向かって廊下を歩き出した。

 その動きは、ひどく緩慢だ。



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