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オレンジ色  作者: Aju


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33/79

33 コミュニティ

 3日目の朝が明けた。


 平田母子も誠も、睡眠不足の顔をしながら亜澄海たちと同じように起きてきた。

「眠れるわけないよ……。」

と玲音が言う。

 無理もない。と悠は思う。

 棺桶のご遺体と対面するのとは違うのだ。泥酔した人をベッドに運ぶのとはワケが違うのだ。生気のない皮膚と冷たい感触。全ての筋肉(括約筋もだ)が緩んでしまった体……。死に化粧さえしていない……。

 他に誰もする人がいない状況で必死だったとはいえ、この子たちはよくやったよ。

 大人のわたしだって、ちゃんと眠れなかったんだもの……。


 冷凍食品を温めて朝食にする。財田さんのお母さんの陽南さんには、佑美ちゃんがスプーンを使って上手に食べさせている。


 そうか……。感染者に対しては、こんなふうにすればいいのか——。感染させようとしてくることを除けば、要介護者のように扱えばいいんだ。悠はそれをぼんやり眺めながら、そんなことを考えている。

 市川先生の話では、近くにオレンジ色が発生していなければ『感染拡大行動』も取らないようだという。


 また、あそこに行くのか……?


 行きたくない。

 と駄々をこねる悠を、もう1人の悠がたしなめる。行かなきゃダメだろう。わたし以外、あの人たちをお世話する人はいないんだから……。



「7時になったら、お寺回りを始めよう。市役所や消防署や警察署なんかも行ってみよう。無事な人がいれば何かわかるかもしれない。金森クンたちのご両親や平田クンのお父さんの職場も、もう一度行く必要があるし、手分けしよう。車、3台あるから。」

 亜澄海がチンした混ぜ込みご飯を食べながら言う。

「そろそろ、自分たちの食糧確保の心配もしないといけないし……。マップは見れる?」

「うん。まだ見れる。」

 美緒がスマホを操作しながら答えた。

「お寺って、けっこうあるんだね。」

 普段はあまり意識していないので、美緒は桜蓮市の中にこんなにお寺があるとは思っていなかった。

「どこかには無事なお坊さんがいるんじゃないかな。」


 いろいろなSNSの投稿も、昨日の午後からはほとんど止まってしまっていた。政府やマスコミ関係の「お知らせ」や「ニュース」も昨日の夕方くらいから更新が止まっている。

 情報社会と言われた日常から、わずか2日で美緒たちは情報のない灰色の世界に放り出されてしまった。


 朝食を食べ終わって出発の準備にかかろうとしていた時に、誠のスマホが着信音を鳴らした。

「あ、お父さんだ。」

 誠が電話に出る。


「もしもし。……あ、うん、わかった。スピーカーにするよ。」

 誠がスマホをテーブルの上に置く。そこから誠の父親の貴志さんの声が流れた。


「市川先生は近くにいらっしゃいますか?」

「はい、ここにいます。」


「ああ、よかった。まずは昨日のお礼を言わせてください。おかげで、避難していた人たちの家族も——ああ、もちろん感染してるんですが——ここに集めて食事を摂らせることができまして。本当になんてお礼を言っていいか。こんな遠くにまで来ていただいて。」


「あ、いや……。私たちも、一緒に避難した生徒たちの家族の安否を確認したかっただけで……。まだ、3人ほど確認できてないんですが。」


「そうですか。こちらも集められたのは、とりあえず見つけることができた家族だけです。スマホは昨日から使い始めていますが、政府や行政の発表も報道各社のニュースも、全て更新が止まっていますね。」


「そうなんですよ。いったい今、世界では何が起こっているのかまるで分からなくなってしまいました。ここに集まっている人が実際に動いて見聞きしてきたもの以外……。」


「こういう災害時は、顔の見えるコミュニティがあるのは心強いです。」

 貴志さんがそんなふうに言ったのは、消防職員という仕事柄、普段からそういうことを考えているからだろうか。


 たしかに……。

 と、そこにいた皆も思う。1人だったらメゲてしまったに違いない。


「あと、電話で遠方の知り合いと連絡が取れるのも助かります。でも今、入ってくる情報はそれだけですね。社会の機能が2日で麻痺してしまった……。」


「そういえば、なぜ電話は普通にできるんでしょうね?」


「そういえば、そうですね。通信手段は普通に使えるし、電気も普通にきています。このインフラは、なぜ無事なんだろう……?」


 市川先生が顎に手を当てて少し考え込んでいると、電話から貴志さんの声がした。


「システムが自動化されてるからじゃないでしょうか。消防署でも、かなりのシステムは自動化されていますが、それが人につなげられて初めて『消防』として機能します。役所も同じように、感染者が一気に増えてマンパワーが不足してるんじゃないでしょうか。その点、通信事業や発電所はシステムの自動化が進んでいるんじゃ……」


 市川先生は相変わらず、眉根に皺を寄せている。

「いや……。発電や送電は、電力需要に応じて出力を調整しないと停電を起こしてしまいます。この異常事態で電力需要は急激に落ち込んだはずなのに、停電も起きていません。ということは、ちゃんと調整できてる——ってことです。」


 また、新たな謎が立ち上がってきた———。



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