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オレンジ色  作者: Aju


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21 感染者は食事をできているのか

 結局、見に行った木田誠の家も巫女内亮太の家も無人で、両親との連絡もつかないままだった。

 もちろん平田兄妹の両親も連絡がつかない。それぞれの職場に電話をしてみても、誰も出ない。

 職場にいるのか、それともどこかへふらふらと行ってしまったのか……。いずれにしても、家には戻っていなかった。


 感染したのだとすれば、彼らの両親はそれぞれ何に固着してしまったのか。それが『家』でも『子ども』でもない、ということが、誠や涼太、平田兄妹の心に鈍く突き刺さっているであろうことは容易に想像できた。

 (おもて)には出さないが、彼らは佑美の母親を見てしまっているのだ。


 峰平香鈴の家は静まり返ってはいたが、家族は全員中にいるようだった。午後は窓から覗いても特に誰も反応はせず、水をかけてくることもなかったし、こちらに注意を向けることもなかった。

 食事はちゃんと摂っているのだろうか? 佑美の母親の陽南は、目の前に食べ物を持っていってやらなければ自分で能動的に食事を摂ろうとさえしない。

 もし他の感染者も同じだとするなら、数日で衰弱してしまうのではないだろうか?


 学校に通学していた小学生たちだって、給食があるわけではない。家でも、親が感染しているなら食事を作っているとは思えない。そもそも親が家にいないかもしれないのだ。

 今、感染していない私たちがあの子たちにできることはあるのだろうか? 市川先生の居間では、そのことも話題にのぼった。


 小学校の白藤先生には連絡がついて、市役所から食料や毛布の支援があったということだった。現在は、親と連絡の取れない生徒たちとお泊まり保育中だと冗談めかして話してくれた。

 亜澄海は、こちらで感染した母親を1人引き取って()ていることと、食事に能動的でないことなど新たに分かったことを伝え、『通学』に固着している生徒たちが食事をちゃんと摂れているのかが心配であることを話した。

「たしかに、おっしゃるとおりです。もし食事を摂っていないとしたら、数日で衰弱してしまいますね。そちらの生徒に対しても様子を見てみます。」

 白藤先生は、そう応じてくれた。

「ただ、『登校』していない生徒の家を訪問するだけの余裕はありません。市役所も保健所も警察も、どこも人手が足りてないのです。あらゆる場所に感染者がいるので……。」

 こんな状況でも、東小学校は白藤先生たちの奮闘でなんとか子どもたちを守っているようだった。


 市役所も保健所も、人手が足りないと言いながらも、なんとか機能させようと頑張っている人たちがいるらしいことが分かった。

 テレビは相変わらずテロップのみだが、それでも電波は止まっていない。電気もまだきている。

 どこで誰が何をしているのかは分からないが、それでも社会を維持しようと頑張っている人たちがいるのは確かだった。


 とりあえず市川先生宅では、香鈴の家族の話になった。

「峰平さんのところは、香鈴ちゃんと一緒に食事を持って行ってみるのはどうでしょ?」

 亜澄海がそう言って香鈴を見る。香鈴もすがるような目で亜澄海を見返した。


「さっき窓から覗いた時はじっと座ってたし、目の前に食事が置かれれば食べるんじゃないかな。佑美ちゃんのお母さんみたいに——。」

「あそこは電波塔が近過ぎるから、移動させた方がいいんじゃないか? 下手にお茶も飲ませられないんじゃねーの?」

 大樹がそんな意見を言う。学校の授業なんかじゃ、まず絶対に自分から発言なんかしないやつだが、この2日の間に大樹の言動は驚くほど頼りになるものに変貌してきている。

 美緒は、金森大樹に対する見方を変えざるを得ない。が、それは不思議に嫌な感覚ではなかった。


「ここはもう、さすがに無理だと思う。あと3人が寝泊まりするのは……。」

 美緒も臆さずに、思ったことを言ってみた。

「学校の教室に連れていく? お布団とかも持っていけばいいし、子どもたちの食事もついでに運べるし、一石二鳥なんじゃない?」

 亜澄海の提案に、美緒は異論を唱えた。

「それはどうだか……。佑美ちゃんのお母さんと違って、夜通し歩いて家まで帰ってきた人たちでしょ? たぶん『家』に意識が固定しちゃってるんじゃないかな……。だとしたら、どこに連れてっても『家』に戻っちゃうんじゃないかな。」


「うん……。あの家に、こだわってると思う……。」

 香鈴が弱々しい声で、ぽつりと言った。

「わたし、佑美ちゃんみたいに愛されてないから。お父さんもお母さんも、家の方が大事だから……」

「そんなことないよ! そんなことないって——!」

 美緒は自分の言ったことが香鈴を傷つけたと思って慌てた。

「そんなの、香鈴が声をかければ絶対ついてくるって!」


「電波塔、ぶっ壊せばいい。それで移動しないで済む。」

「ぶっこ……」

 大樹がまたも乱暴だがシンプルな答えを出した。それが美緒と香鈴の間の気まずい何かを吹き払ってしまう。あるいは、一見乱暴に見えるこんなやり方が、大樹なりの優しさなのかもしれない。


「そうだな。金森クンさすがだ、シンプルで合理的だ。でも別に塔自体ぶっ壊さなくても、電源を切ればいいんだ。電線を切っちゃえば電波塔はただの鉄塔だよ。問題は、ビルの中に入れるか、だな。鍵が開いてればいいが……。」


 亜澄海の言うとおり、大樹の着眼点はいいがその問題がある。ビルのオーナーがまともに話のできる状態とは限らない。むしろ基地局の真下なら、感染している可能性の方が高い。

「へっへ……。オレに任せとけよ。」

 大樹が親指を立てた。


 そうか。大樹、パルクールやってるんだった。それも『街』で——だ。

 っって、あのビルの壁を屋上まで登る——ってか?


 それは……、ちょっと見てみたいかも……。と、美緒は思った。

「わたし、食事持って香鈴についてっていい?」


 そんな美緒の反応に、亜澄海がにっと軽く意味ありげに笑って見せた。

「いいよ。帰りにうちにも寄って、食料品を運んでこよう。この状況が長く続くなら、この先の食料の心配もしなくちゃいけなくなるな……。」



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