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オレンジ色  作者: Aju


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14 動物実験

 夜になって、NETの情報もいよいよ訳が分からなくなってきた。何が本当で、何がフェイクやデマなのか・・・。


 デマを本気で信じて拡散している人もいるようだったし、不謹慎とさえ言える悪質ないたずらもあった。

 目をオレンジ色に光らせて「スリラー」のダンスを踊っている動画などは明らかにフェイクだと分かるのだが、実際にこの現実を目の当たりにしている美緒たちにしてみれば、心が折れそうになるほどの悪ふざけだ。

 おそらく、身近な人が感染してしまった体験を持っていないのだろう。そうでなければ、こんなフェイク動画作って遊べるはずがない。

 大樹などは目を怒らせて

「作ったヤツ探し出してボコにしてやる。」

と低い声で唸るように言っていた。


 ただ、テレビの方は情報が増えてきていて、どうやら同じような現象が全国で起こっているようだと伝えていた。

 それどころか、ヨーロッパやオーストラリア、東南アジアなどでも起こっているらしいということも伝えられ始めていた。たまたま現場にいた特派員が映像を送ってきたもので、SNSに出回っている情報がフェイクではないと確認できた——とキャスターは話していた。

 お隣の中国の情報がないのは、おそらく情報統制だろう。アメリカにいるジャーナリストは「昨日の夕方から始まった。何が起こっているのか分からない。水が飲めない。」と報告していた。

 世界中の情報が混乱、錯綜していて、正確な状態は分からないが、どうやら地球規模で同時多発的に起こったらしかった。


 一方SNSには、宇宙からの侵略という説も出回っていれば、マスコミはDSの陰謀を隠すためにウソを流している、といった説まで流れて混乱を極めている。

 全国規模で起こっているらしいとは言っても、現象の起きている場所とそうでない場所があるようで、その認知格差は埋め難いほど大きいようだ。

 なにしろ起こっていることは、話だけ聞いていればなんだかバイオハザード系の映画か何かみたいなのだ。初めに大樹が笑ってしまったように、直接見てない人にとっては、何か胡散臭い話のようにも感じるのだろう。

 情報が錯綜する原因はそのあたりにもあるのかもしれない。


 市川先生は、というと・・・。床に座って、何か大きな虫かごのような物をペンチや針金を使って改造している。

「何を作ってるんですか?」

と玲音が聞くと市川先生は

「罠だよ。」

と答えた。

「ネズミを捕まえられないかと思ってね。人体実験するわけにはいきませんから。」


「感染させるんですか?」

 玲音の質問に、先生は顔を上げて答えた。

「感染したら何が起こるのか? 治療はできるのか? 知りたいことは山のようにあるので。実験用マウスなんて手に入りませんし、誰かのペットを使うわけにもいきませんしね。とりあえず、家ネズミでもドブネズミでも・・・。基礎的な実験だけでもできれば——。」



 7時半頃、亜澄海のスマホに小学校の白藤先生から連絡が入った。

「小学校には市役所の職員が防護服を着て、支援物資を持って来てくれたって。中学校の方は・・・、誰にも連絡がつかないらしい。」

「感染した先生や生徒たちは・・・?」

 美緒が聞くと亜澄海は要領を得ない顔をした。

「それが、いつの間にかいなくなってるらしいんだ。とりあえず調べられる範囲では、学校は無人だったらしい。中学の方も受電設備が壊されてて、停電してるんだって。」


 逃げられる人はきっと、わたしたちみたいに逃げたんだろう。 では、感染した人たちは? 香澄はどこに行ったの?

 感染者は、何のために停電させるわけ? 電気を止めようとするわけ? 何か、感染者にとって電気が来てるとマズいことがあるんだろうか?

 美緒には、起こっていることの脈絡がつかめない。


 大樹も同じことを考えていたらしい。

「感染者は、感電してまで停電させようとするなら、変電所や発電所は、なんで無事なんだろうな? なんで、ここにはまだちゃんと電気が来てるんだろう?」

「そういうところは警備がしっかりしてるんじゃないの?」

 大樹のお姉さんの泉深いずみが言うと、大樹は露骨にバカにした顔をして言った。

「へっ。発電所はともかく、変電所はたいてい無人だぜ? 高圧線の鉄塔にトラックぶつけてぶっ倒すだけで、広域停電させられるんだぜ?」


 大樹は街を遊び場にしているだけあって、そういうことにも詳しい。

 たしかに大樹の言うとおり、停電が目的なら簡単に広域を停電させられるだろう。それなのに、感染者は学校施設の受電部分だけを破壊している。

 ここに電気が来ているということは、発電所などはまだ無事だということだ。



 夜9時頃、上手い具合に家ネズミが1匹罠にかかった。

 市川先生はタライに張った水にネズミをカゴごと浸けて、スマホを使ってその水面にオレンジ色を発生させた。

 それはすぐにネズミに吸収されたようだったが、ネズミに変化は現れない。瞳がオレンジ色に光ることもなければ、動作が緩慢になることもなかった。

「これは、人間だけにしか影響を及ぼさないんでしょうかね・・・?」


 だとしたら・・・、ここから先は手詰まり?


「感染者を・・・、観察することでしか情報は得られませんかね・・・。」

 捕まえて、隔離して・・・・。たぶん、市川先生も他の何人かも、同じことを思い浮かべたであろうが、誰もそれは口にはしなかった。

 ここには佑美がいる。


「人権侵害になってしまいます・・・よね?」

 市川先生はすがるような目で亜澄海の方を見た。亜澄海はそれに気がついて、少しだけ口の端を上げた。

「街に感染者がいたら、その人たちを観察しましょう。あれをかけられて感染させられないようにだけ気をつけていれば、動き自体はゆっくりになるようだから——。

何をするか。どんな状態になるのか。少なくとも、すぐに死んだりするわけではなさそうだし。」

 それを聞いて、市川先生も少し勢いづいたようだった。

「そうですね。食事はするのか? 衰弱するようなことはないのか? 時間が経つと、どんな症状が現れるのか・・・?」


「いずれにしても、今日はもう遅い。明日の朝からだな。みんな、今日は寝よう。戸締りしっかりして。」

 そう言って、亜澄海は窓から外を見る。オレンジ色に光る目は見当たらないようだった。感染者も夜は行動しないのか。それとも、この辺りにはたまたまいないのか——。


「感染したら・・・、どんなふうに見えるんだろうね? こっちの世界・・・。」

 木田誠きだまことが、ぼそり、と独り言のように言った。


「僕らは、こっち側の世界からしか見ていないけど・・・」



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