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オレンジ色  作者: Aju


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11 ニュース

 市川先生が亜澄海あすみのスマホを使って小学校の白藤先生に電話している間、美緒たちは顔を寄せ合ってスマホでニュースを検索して見ていた。


 皆で話し合って、スマホはできるだけ1台ずつ使うことにしたのだ。この先充電の機会が減るとすれば、皆がてんでに使わずになるべく1台ずつ使って情報を得るようにした方がいい。最悪充電機会がなくなっても、情報を得られる時間が引き伸ばせる。


 今は大樹ひろきのスマホを使って、検索されたニュースやSNSの投稿を皆で回しながら覗き込んで読んでいた。

「やっぱり、フェイクとか言ってるヤツもいるな——。」

「ディープステートの陰謀だって——。何でもそれにくっつけちゃうヤツって必ずいるんだよね。」

「うちのクラスにも約1名いたよね。」

「某 矢野下か? そういえばあいつ・・・感染しちゃったのかな?」

「ここにいないってことは、そうなんじゃね?」


 子どもは認識が浅いから、こんな時でも軽口をたたいてる。って、オトナは言うかもしれない。

 違うよ? 不安な空気をかき混ぜてるだけだよ。


 情報は相変わらず錯綜しているが、それでも少しずつわかってきたのは、この現象は大都市圏を中心に起こっているらしいことだった。

 地方の田舎や過疎地では、東京や大阪で何か騒ぎが起こっているらしいことはわかっても、水面を走り回るオレンジ色の映像は俄かには信じられないのかもしれない。実際にそれを見ている美緒たちですら、まだ夢ではないかと思ってしまいそうになるくらいなのだ。


 フェイクだとか言っている投稿は、どうやらそういう地方の住人らしかった。新宿や池袋だとはっきりわかる投稿は、かなりリアリティのある内容のものになっている。

 ぞっとするのは、そういう投稿の中で、ある時点を境にピタッと投稿が止まってしまっているアカウントがあることだった。


 この人・・・、感染しちゃったのかな・・・?

 誰もがそう思ったが、口には出せない。口にしたら最後、自分も同じ運命に呑み込まれてしまうんじゃないか?

 強がった軽口をたたいていても、そんな不安がなんとなく皆の周りの空気に漂っていた。


 既存メディアのニュースはほとんど何も伝えられていない。現場に取材に出たテレビクルーがそろって音信不通になるという事態まで起きているようで、テレビ局はSNSの情報を拾い集めて「報道」しているような有り様だった。

 とりあえず、オンラインで登場した「専門家」とやらが(何の?)、C国やR国の新兵器による攻撃だとか、太陽の活動の影響だとか、適当なことを(ほとんどデマだ)しゃべっている。

 どこから見つけてくるのかね。こういう「専門家」・・・。

「市川先生の実験を見てるわたしたちの方が、情報的には進んでるのかもしれないね。」


 しばらくして、その市川先生と亜澄海が電話を終えてみんなの方に歩いてきた。

「ニュースで何か新しい情報はありますか?」

 そんなふうに聞いてきた市川先生は、さっきのあの『静かなヒーロー』のオーラはなくなっていて、いつものちょっと頼りない先生に戻ってしまっていた。


「ニュース番組は、あまり役に立ちません。SNSの投稿を見てると、騒ぎが起きてるのは大都市圏だけみたいです。」

 美緒が先生に答える。

「それ以外の情報については、先生の実験を見ているわたしたちがいちばん知っているのかも・・・。」


「も・・・戻らなくていいでしょうかね・・・?」

と、市川先生が急に弱々しい声で言った。

「とりあえず・・・、ここにいる生徒たちだけ連れて逃げてしまったんですけど・・・。他の生徒たちは・・・どうなったんでしょう? わ・・・私は教員なのに・・・・」


 市川先生は、小学校に残って生徒たちを守っている教員たちと話をして、自分が中学校の生徒たちを見捨てて逃げたんじゃないか・・・と、自責の念のようなものに駆られたようだった。

 だからといって、この気の弱い40代の教諭には、自ら再び中学校に戻って生徒たちの様子を見に行くというような勇気も湧いてはこない。

 それが市川先生の背中をさらに小さく丸めさせてしまっている。


 そんな市川先生の背中を、亜澄海が後ろから軽くぽん、と叩いた。

「先生、姿勢悪い。それだと考えも後ろ向きになっちゃいますよ? わたしたちが先生の道具を取りに戻った時には、中学校はもう停電してましたし、暴れてるような音も聞こえず静かでした。逃げられる子は、みんな逃げたんじゃないでしょうか。

感染したらどうなるのか、というのもまだよく分からないし。今はできる限り情報を集めるしかできることはないと思います。市川先生の実験と推論は、わたしたちにはかなりの武器になっています。胸を張ってください。」

 そう言って亜澄海は追い越しざま市川先生に向かって微笑んで見せた。市川先生は少しだけはにかんだような表情を見せて、無理やり背中を伸ばした。


「全員は救えません。とりあえず、ここにいる子たちの安全確保が最優先です。中学校へ戻るにしても、まずここにいる子どもたちを安全な場所に降ろしてからにしましょう。」

 亜澄海の言葉に市川先生もうなずく。


「私の家に行きましょう。四角い箱をくっつけたみたいなプレハブですが、広さだけはあるのでこの人数でも大丈夫です。実験道具なんかもありますし・・・。」

 少し考えてから市川先生がそう言うと、佑美ゆみが手を上げた。

「うちに寄ってもらえます?」

「ああ、手回し発電機——。」

と市川先生は佑美の話を覚えていた。それがあれば、停電になってもずっとスマホを充電し続けられる。

「防災袋もありますから。」



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