メインディッシュはこれから
充実した昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
授業中はベッタリのダー子だが、休み時間はしっかり他のクラスメートの相手をしていたのでコミュニケーション能力については問題ないだろう。
俺などよりも、余程上手くクラスに溶け込めそうだ。
人間関係や常識について問題ないのであれば、あとは学校生活に必要な物を取りそろえるだけである。
放課後、クラスメートに取り囲まれる前にダー子を連れて教室を飛び出す。
またしても俺の印象は悪くなっただろうが、最初からマイナスなので大差はない。
俺はまず職員室と売店に向かい、教科書や体操服の注文を行う。
「ナニからナニまでゴメンね~」
「気にするな。元々は俺の願いが原因だからな」
実際、俺があんな願い事をしなければダー子が派遣されることはなかったハズなので、責任は俺が持つべきであろう。
ただ、コッチで生活が送れるだけの資金くらいは用意してやってもいいと思うので、やはりゴッちんは使えないと言わざるを得ない。
「問題は衣服だな」
「それな~」
「普通なら店に連れていくべきなのだろうが、残念ながら俺はそういった店に一切行ったことがない」
「ん~? じゃあ龍ちんは自分の服はどうしてるの~?」
「全てネット通販だ」
昨今は何でもネット通販で手に入る。
それは、服や靴などの身に着けるものであっても例外ではない。
衣服の通販自体は昔から〇シールなどが存在していたが、今はネットで気軽に注文できるうえ、サイズが合わなければ返品するだけで支払いも発生しないシステムがあったりと非常に便利だ。
なので俺は、衣服どころか食品すらも全て通販で済ませており、コンビニ以外の店には4年近く入っていないのである。
「じゃ、あーしもそれでいいよ~」
「しかし、今日着る服はどうする?」
いくら最近の通販が早いといっても、流石に注文品が届くまでには日を跨ぐことがほとんどだ。
今から注文したとしても、届くのは最速で明日の午前中くらいになるだろう。
「それは、龍ちんの服貸して~」
「……まあ、ダー子がいいのであればそれで構わないが。ただ、下着は無理なので買った方がいいだろう。悪いが、コンビニでいいか?」
「あーしは全然オ~ケ~だけど、むしろ龍ちんが良いのかな~って」
「? 俺がNGを出す理由はないだろう」
「え~、だって、最終的には龍ちんのモノになるんだよ~?」
……そういうことか。
ダー子としては、俺に渡すパンティがコンビニで買ったもので良いのかという点を気にしているらしい。
「何も問題ないな」
「そうなの?」
「ああ。下着のデザインや可愛さにこだわるのは、実際のところ女子側だけだったりする。男はむしろ、シンプルな下着の方が好みという者が多い」
男は、純白のシンプルなパンティに幻想を抱いている者が多い。
特に思春期だったり、童貞の男子だとその率が高い傾向にある。
ド派手で真っ赤な下着だと萎えてしまうという者も、まあ一定数いるだろう(個人的には、逆に清純そうな女子がド派手な下着を着けてると興奮するが)。
「そうなんだ~」
「そうなのだ。それに、重要なのは履いている人物だからな」
「……それって~、あーしが履いたパンティならなんでもオ~ケ~ってこと~?」
ダー子が少し嬉しそうな笑みを浮かべて聞いてくる。
そう言われると少し恥ずかしさが込み上げてくるが、事実なので否定しようがない。
「その通りだ……、いや待て、いくつか例外はあるな。とりあえず、毛糸のパンツだけはやめてくれ」
個人的に、アレをパンティと認めたくない気持ちがある。
いや、私生活で履く分には全然問題無いのだが、その姿を見てしまうと自分の中の何かが壊れるような気がするのだ。
「りょ~! まあ、どうせ龍ちんのモノになるんだから、龍ちんが好きに選べばいいと思うよ~」
「いや、それでは風情がない」
もしダー子に一般的な感性が培われていたら、お前は何を言っているんだ? という顔をされたかもしれない。
しかし、ここは譲れない部分だ。自分で全て選んでしまったら、何もお楽しみ感がなくなってしまう(ただし時々選ぶのはアリだ)。
「人間は難しいな~」
違う種族らしい意見だが、俺としても人間は難しいと思う。
だからこそ面白いのだが、人間関係を考えると疲れることが多い。
……本当に、面倒な生き物だ。
◇
コンビニで下着や飲み物などを購入し、我が家に到着する。
「……当たり前のように付いてきたが、ダー子の家は?」
「もち、ないよ~」
「それはつまり、ここに住むということか?」
「うん♪ あ、ちゃんと問題ないように調整はしてあるから安心して~」
それは、俺の両親の脳を弄ったということだろうか?
いや、何か世界の情報を書き換える的なことをやったのだろうな……多分。
そうじゃないと、人がいきなり増えるという世界の矛盾に対する整合性が取れない。
「……まあ、問題にならないのであれば構わない。入ってくれ」
「お邪魔しま~」
迎えには誰も現れない。
ウチの両親は共働きなうえほとんど家に帰ってこないので、実質一人暮らしのような生活をしている。
「ダー子、目新しいのはわかるがベタベタ触るな。家に帰ってきたら、まずは手洗いうがいが基本だぞ」
「は~い」
ダー子は素直に従い、洗面所で手洗いうがいをしている。
やはり一般常識的なものはインプットされているようだが、その基準はどうやって選ばれたのだろうか。
細かい制約が多いくせに、説明できない謎技術も使われているのが何となくモヤモヤする。
ウチは両親とも高給取りで、一般家庭よりは裕福だ。
この家も三人家族で住むにしては広く、空き部屋がいくつかある。
その内の一つにダー子を案内し、俺は自分の部屋に戻りベッドへ倒れ込む。
(中々に刺激的な一日だったな……)
こんなにも刺激的な一日を過ごしたのは、小学生の頃以来かもしれない。
……いや、衝撃を受けたという意味では、恐らく人生で一番だろう。
今まで妄想をすることはあっても、現実にこんなことがおこるとは全く想像していなかったからだ。
俺は常々現実はクソだと思っている。
だからこそ異世界転生を期待していたのだが……、正直現実を見直した。
やればできるじゃねぇかと、上から目線な感想が浮かんでくる。
「龍ちん、入るよ~」
「ダー子か。さっきも言ったが、夕食は19時過ぎだぞ」
「ん~、違くてさ~? そろそろ今日のノルマを達成しようと思って~」
ノルマ……
ああ、そういえばメインディッシュがまだだったな。
どうやら刺激的な一日は、まだ続きそうである。