で、パンティーどうする?
昼休みになり、俺は早々に席を立つ。
食事は静かにしたいタイプである俺の昼食は、基本的に人気のない場所でボッチ飯となる。
……のだが、今日ばかりはそうも言っていられない。
「闇崎さん、ご飯は? 良かったら一緒に食べない?」
「学食だったら俺達が案内するぜ!」
ダー子の周囲には早速人が集まり始めているが、完全に取り囲まれる前に腕を掴んで引っ張り出す。
「行くぞダー子」
「あ、うん。みんなゴメンね~、あーし龍ちんと一緒に食べるから~」
しっかりと謝罪するあたり、ダー子は俺よりもコミュ力が高そうだ。
俺はまた周囲の評価を落としそうだが、元々低いので今更気にしても無駄だろう。
「龍ちん、龍ちん、どこに向かってるの~?」
「売店だ。どうせ飯も金も用意してないんだろう?」
「そうだけど、どうしてわかったの~?」
「簡単な推理だ」
ダー子は教科書どころか筆記用具の類すら用意していなかった。
恐らくはこちらの世界に来る際、必要最低限のものしか持ち込まなかったのだと思われる。
金については必要最低限に含まれてもいいとは思うのだが、ゴッちんは確か「物質は現存物のコピーしか用意できない」ため大金持ちのような願いは叶えられないと言っていた(通貨偽造となるため現在では問題になるからだ)。
同じ理由で用意はできなかったのだろう。
「さっすが龍ちん、頭い~」
「…………」
俺は決して自分の頭が良いとは思わない。
本当に頭が良ければ、もっと偏差値の高い学校に入れていたハズだからだ。
無論単純な学力の高さイコール頭の良さとは思わないが、少なくとも頭の出来が良ければ効率的に学習することができるのは間違いない。
それを踏まえれば、俺の頭は良くて中の上くらいだろう。
「龍ちんは謙虚だな~♪」
「そんなつもりはないのだが……」
ダー子のこの全肯定感はなんなのだろうか?
もしかしてこれもオプションの一つだったりするのか?
……正直疑問はあるが、美少女に褒められて気を悪くする男はいない。
ありがたく堪能しておこう。
「チッ、やはり人が多いな」
「本当、人間ってこんな群れるんだ~。やっぱ動物だな~」
「ダー子も今は人間だということを忘れていないか?」
「あ、そうだった」
視点が人間っぽくないが、俺もダー子と似たり寄ったりな感想を抱いている。
理性のある人間なのだから、もう少しこう、整列したりすればこうもゴチャゴチャはしないのではないだろうか。
まあ、どちらにしろ俺は人が多いのは苦手なので、こういう場所からは早々に立ち去りたいところだ。
「流石に女子をこの中に突入させるのは酷だから、俺が買ってくることにしよう。ダー子は甘いのとしょっぱいの、どっちが好みだ?」
「あ~、あーし達って基本食事ってしないから、その辺のことよくわかんない」
……確かに、あの夢幻界という空間には草すら生えていなかった。
何の食料もなくあの巨体を維持できるとは思えないので、栄養という概念すらないのかもしれない。
「わかった。両方チョイスしてくるから、食べ比べてみてくれ」
そう言って、俺は戦場に突っ込んでいく。
中学時代、本気で気功を使おうとトレーニングしてたこともあり、フィジカルには自信がある。
「……か、買ってきた、ぞ……」
「りゅ、龍ちんだいじょ~ぶ?」
「大丈夫だ。問題ない」
フィジカルには自信があったが、アレはもうそういうレベルの問題ではない気がする。
集団の重さと力により発生する圧力の前では、個人のフィジカルなどほとんど役に立たなかった。
「とりあえず、場所を変えよう」
俺はいくつかある候補の内、人目も少なくそれなりに広い体育館裏の階段にダー子を案内する。
「なんか、薄暗いね~」
「気になるか?」
「ん~ん、あーし、こ~ゆ~とこ好きぃ」
ダー子は元がダークドラゴンなので、こういった暗いところが好きなのかもしれない。
「好みがわからないので、とりあえずフルーツサンドと焼きそばパンを買ってきた。問題無ければ両方食べてみてくれ」
高校生の男子ならこの程度ペロリと平らげるが、女子はどの程度食べるのか不明なのでダー子の判断に任せることにする。
もし食べれないようであれば、俺が食べればいいだけの話だ。
「これ、どうやって食べるの~?」
「そこからか」
ダー子が人間社会についてどの程度学んでいるかはわからないが、こういった細かいことまで覚えていないという可能性は高い。
しばらくは面倒を見てやる必要がありそうだ。
「じゃあ、いただきま~す…………っ!? な、何コレ!? メッチャ美味しいんだけど~!?」
まず最初にフルーツサンドを口にしたダー子が、今までで一番のテンションで反応する。
そしてそのままバクバクと凄い勢いで口に含んでいき、二つあったフルーツサンドをあっという間に平らげてしまった。
「どうやら、口に合ったみたいだな」
「それどころじゃないよ~? あーし、こっちの世界の時間感覚で言えば数億年生きている計算になるんだけど、こんな感動初めてなんですけど~?」
「それは凄まじい数字だが、食事自体初めてなんだろう? ならば仕方のないことだ。それより、次はコッチを食べてみてくれ」
俺は袋から出しておいた焼きそばパンを手渡そうとする。
するとダー子は、それを手で受け取らず、そのまま噛り付いてきた。
「ん~♪ ほれもおいひ~♪」
「っ!?」
なんだこの凄まじい背徳感は……
ただパンを直接食べさせているだけだというのに、とてもイケないことをしているような恥ずかしさがこみ上げてくる。
ダー子は最終的に、掴んでいた俺の人差し指と親指まで一緒に口に含んでから、満足そうに口を放した。
「どっちも美味しかった~♪ ……てあれ、龍ちん、なんでエッチなことぉ? 考えてるの~?」
「……男とはそういうものなのだ」
「ふ~ん? 人間ってやっぱり面白いね~」
まあ確かに、人間ほどバリエーションに富んだ性癖を持つ生物は存在しないだろう。
一応口などでどうこうする生物はいるらしいが、せいぜいその程度が限界だ。
「さて、やっと落ち着いて話せる状況になったんだ。色々聞かせてもらうぞ」
「うん、なんでも聞いて~」
なんでも、という魅惑のワードを聞くと色々想像してしまうのが男というものだ(女もそうかもしれんが)。
とはいえ、まず第一に聞いておかなければならないことがあるので、欲望は抑え込んでおく。
「では、単刀直入に聞こう。パンティーをどうするかについてだ」