未亡人風ダウナー系黒ギャル
俺は闇崎に、廊下の奥にある空き教室に連れ込まれた。
「男子的には、ドキドキのシチュエーションっしょ~?」
確かに、空き教室に男女二人というのは学園モノでは定番のエロシチュエーションである。
男子高校生であれば誰もが妄想をしたことのあるエロスポット――そんな場所に色気ムンムンのギャルに連れ込まれたというのに、俺は極めて冷静だった。
最初は混乱していたが、ここに辿り着くまでに僅かながら考える時間があったため落ち着くことができた。
「戻るのが遅ければ怪しまれる。御託はいいから、さっさと本題に入れ」
「……へぇ~、龍ちんは冷静だねぇ? その反応から察するに、あーしがどんな存在なのか予測できてる感じかな~?」
「あくまでも予測だが、思い当たる節がそれしかない以上答えは限られてくる。お前は、俺の願いにより生み出された存在だな?」
正直信じ難いことだが、突如ギャルが転校してきて、しかもそのギャルが俺のことを知っているとなると、昨夜の夢と何か関係あると考えるのが普通だろう。
「ピンポ~ン♪ 正解――って言いたいところだけど、厳密にはちょ~っと違うかな~?」
そう言って闇崎は俺に顔を近づけてくるが、まず先に豊満な胸が接触したためか「おっと」と言って身を引く。
「その言い方だと、願いに関係あることは間違いなさそうだな。違うというのは、生み出された存在という点か?」
「龍ちんは頭の回転が速いな~。その通りで、あーしは生み出されたんじゃなくて、派遣されてきたんよ~」
闇崎は自分に合った机と椅子を物色しなら説明を続ける。
「夢幻界の存在がコッチの世界に干渉する方法は限られててさ~、元々存在するもののコピーを作るか、正規の手順で生み出すしかないんよ~。それはゴッちんですら破れないルールなんだわ~」
「ゴッちん?」
「ゴッちんはゴッドドラゴンちゃんのことね? 一応夢幻界では一番力の強いドラゴンなんよ。だからゴッちんにできないことは、他の誰にもできないってこと~」
流石にゴッドと名乗るくらいだから、本当に神のような存在だったようだ。
正直本人(龍)の口から聞いたんじゃ信じられなかったが、他者の口から聞くと信憑性が増してくる。
しかし、そんな存在をゴッちん呼ばわれするコイツは何者なんだ?
「あ、あ~しはね、ゴッちんの幼馴染みたいな? でも神とかじゃない感じで~。まあ言うてあーしもアッチじゃ5番目くらいには力あるんだけど~」
「ということは、お前もドラゴンなのか。名前から察するに、ダークドラゴンと言ったところか?」
「そうそう、さっすが龍ちん! わかってる~」
こいつらのネーミングセンスが終わっているだけなので、別に俺の推察力が高いワケではない。
「しかし、そんな高位の存在であるお前が、何故こんなところに派遣されてきたんだ?」
「それはあーしが暇だったのと~、ゴッちんああ見えて友達少ないから、あーしにしか頼れなかったみたいな?」
ゴッドドラゴンのヤツ、ぼっちなのか……
そういえば、昨日もアイツは一匹で寝ていた。
普通神なら、傍らに護衛とかがいてもおかしくなさそうなものなのに。
「ゴッちんって一応神だからプライドは高くてさ~、龍ちんが挑発したせいで退くに退けなくなったみたいで、あーしに頭下げに来たんよ~」
「成程、大体見えてきたぞ。ゴッドドラゴンは俺の願いを叶えるため、まずはパンティの持ち主であるギャル自体を作成しようとした。しかし、それをするには現存する人物のコピーか、誰かに産ませたうえで一定年齢まで育つのを待つしかない。当然どちらも問題があるため、お前をギャルにしたうえで派遣することにしたと」
「正解~♪ あと、あーしのことはダー子とかダーちんって呼んで欲しいかも~」
恐らくはダークからきているのだろうが、やはりネーミングセンスは壊滅的だと感じざるを得ない。
そもそもコイツは、何故名前のあとに「ちん」を付けたがるんだ?
コイツの中のギャル像がわからん。
「お前――ダー子がギャルとして派遣されてきたのはわかった。だが、そのギャルの定義はどうやって作られたんだ?」
ダー子は、制服の着こなしだけ見れば確かにギャルっぽさを感じる。
しかし、口調や雰囲気のせいで妙な違和感があるのだ。
俺もギャルに詳しいワケではないので細かいことはわからないが、見た目だけで言えば髪色とルーズソックスにも違和感を覚える。
まず髪色だが、基本的にギャルは髪の毛を染めている傾向にある。
進学や就職を控えた3年生であれば可能性はあるが、全く染めていない黒というのは滅多にいない。
そしてルーズソックスについては、その履き方が少し古い気がするのだ
制服ギャルの着こなしは20年以上大きく変わっていないハズだが、ルーズソックスについては一度流行から消え去り、最近になって復活したという経緯がある。
しかし、その履き方は平成の頃と現在では少し違っている。
平成時代のルーズソックスは、ソックタッチというものを用いて少し上の方で止めていたが、現在は下の方にまとめている傾向にあるのだ。
「あーしもよくわかんないんだけど、ゴッちんが少し前の漫画を渡してきて、それを参考にキャラ作りしろって~」
「……成程、それでか」
「もしかしてあーし、なんか変だった?」
「色々とな。まず、言葉遣いが微妙に古いというか、少しリアルと異なっている」
「マヂぃ?」
「ああ。現実で「チョリーッス」を使う者はもうほとんどいない。自分を「あーし」という者もな」
ごく稀には存在するようだが、基本的にはフィクションの中でしか聞くことのない言葉と言ってもよいだろう。
「それに、ルーズソックスの履き方も古い。何の漫画を参考にしたかはわからんが、間違いなく平成時代の作品だろうな」
かく言う俺も、そういった作品を見てきたからこそ現代との違いを把握しているだけだ。
決して俺はルーズソックスに興味など抱いていない。
「そうなんだ~。まあでもメンドイし、とりま今のままでいくよ~。実は髪もメンドくて黒のまんまなんだよね~」
「そうなのか。俺はてっきりダークドラゴン的に譲れなかったからだと思ったぞ」
「あ、じゃあそういうことにしておいて~。あと、よくゴッちんに怒られるんだけど、この話し方も素なんでスルーしてね~」
この間延びした喋り方は、演技とかじゃないらしい。
結果的に、未亡人風ダウナー系黒ギャルという謎ジャンルが生まれてしまった……、ということか。
平成の香りが強いのに、ジャンルとしては新しい感があって少し面白い。
「……ふむ。聞きたいことは他にもあるが、これ以上は色々と怪しまれる。とりあえず机を運ぶぞ」
「あ、あーしが持つからいいよ~」
「駄目だ。それでは俺が一緒に来た意味がないだろう」
「……龍ちん、やさしぃ~」
ダー子は顔を赤らめてニコニコしている。
なんだ? チョロイン設定までついてるのか?
ゴッちんはどうやら、豪華オプションをテンコ盛りにしてくれたようだ。
……そう、これはあくまでもオプション。
何故ならば俺の願いは、あくまでもギャルのパンティなのだから……