文学少女育成計画
図書室を後にした俺達は帰宅途中〇ニクロに寄り、予備の黒タイツと下着、ついでにシャツなどを購入した。
昨今は下着だけでなく黒タイツもコンビニで購入することが可能だが、流石に種類が限られていることと、複数買うとそこそこ高くつくため、節約の意味でも可能な限りセット購入したかったのだ。
幸い、下着と違って黒タイツはデザイン面のバリエーションは少ないようなので、少しだけ安心する。
「一応確認するが、ゴッちんも我が家に住むということでいいんだな?」
「うむ。情報の改変はなるべく限定した方が良いからな」
まあ、アチコチ改変するとつじつま合わせが大変になるだろうからな……
神のくせに少しみみっちく感じるが、どうにも節約精神のようなものがあるようなので、エネルギーの節約的に見れば改変箇所を限定するのは理にかなっている。
「貴様というヤツは、本当に失礼というか、恐れ知らずな男だな……」
「だからこそ、俺はゴッちんに出会えたのだと思っているぞ?」
「……ふむ、一理あるな」
そんな他愛のない会話をしながら歩いていると、我が家の車庫に派手な赤い車が入っていくのが見えた。
どうやら、大変珍しいことに母親が帰ってきたようだ。
もしかして、これもゴッちんの影響か?
「母さん」
「あら龍二、おかえりなさい」
「それはこっちのセリフだ。急に帰ってくるなんて、どうしたんだ?」
母さんも父さんも家には滅多に帰ってこないが、時々帰ってくるときは必ず事前に連絡がある。
それがなかったということは、急用か何かの可能性が高い。
「そんなの、神楽ちゃんとダー子ちゃんに挨拶するために決まってるでしょ? 本当は昨日のうちに準備して帰りたかったんだけど、ちょっと立て込んでてね……」
「そのためにワザワザ?」
「ワザワザって、人様の大事なお子さんを預かるんだから、ちゃんと挨拶して住みやすい環境を提供するのは当たり前のことよ?」
人様の大事なお子さん……
ダー子が「問題無いように調整されている」と言っていたが、そういう設定か。
まあ、実際に腹を痛めて産んだワケじゃないのだから、その方が自然と言えば自然だ。
しかし……、そうか、血は繋がっていない設定か……
いや、だからナニという話ではあるが、しかしぃ、しかしぃ……
「だったらメールで俺に頼めば良かったじゃないか」
俺は気持ちを落ち着けるためパッと浮かんだ疑問を投げかけるが、母さんはそれに呆れた表情で答える。
「龍二じゃ女の子に必要なものわかんないでしょ?」
「それは否定しないが、だからこそメッセージで質問したんだろ?」
「メッセージ……? あ、ホントだ」
俺は最初から女子に対する知識に自信がなかったため、母さんに相談メッセージを送っていた。
しかし全く反応がなかったのできっと忙しいのだろうと思っていたが、単純にズボラだっただけのようだ。
「ま、まあ口で説明するのも難しいし、男の龍二に知られるより私が準備した方がいいでしょ!」
そう言って母さんは誤魔化すようにバシバシと背中を叩いてくる。
こんな大雑把な人間が研究所ではトップクラスの頭脳を持つというのだから、知性とは一体なんなのだろうな……
「で、その後ろに隠れてるのが神楽ちゃんとダー子ちゃん?」
隠れて? と思い振り返ると、確かに何故かゴッちんとダー子が道の角に隠れていた。
「ゴッちんにダー子、何故そんな所に?」
「だ、だって~、あーし、その、お母様とは初めましてだしぃ?」
「我はこやつに引っ張られただけだぞ!」
よくわからんが、ダー子は何故か恥じらいを感じていたらしい。
相変わらず見た目とのギャップが激しいヤツだ。
……だが、それがいい! ギャップ萌え最高!
「遠慮するなダー子。お前は最高の女だと俺が保証しよう」
「りゅ、龍ちん……! お、お母様、初めまして! あーしがダー子です! よ、宜しくお願いしましゅ!」
最後の「しましゅ」はわざとか?
実にあざとい!
だが、それがいい!
「神楽です。これからお世話になります」
ゴッちんはゴッちんで完全に余所行きモード!
中身はクソガキだというのに!
だが、これもまたいい!
「宜しくね、二人とも♪ さて、色々準備やお話もあるし、続きは家の中でやりましょ?」
「「はい!」」
◇
……ある程度予想はしていたが、案の定俺は女同士の話し合いをするからということでリビングから追い出された。
俺だって正直女子トークを聞かされてもどんな反応をすればいいかわからないのだが、完全に邪魔者扱いをされると理由が何であれ少し悲しい気持ちになる。
一人でいるときより強く孤独感を感じるので、俺はどうやら誰もいない草原で一人ぼっちではなく、街の人混みの中で一人ぼっちの方が泣きたくなるようだ。
しばらくスマホを弄っていると、ノックとともにダー子とゴッちんが入ってくる。
「待たせたな」
「お待たせ~」
「べ、別に待ってなんかいないんだからね!」
「「……?」」
何だコイツ? みたいな顔をされてしまった。
ツンデレの概念はまだ早かったようだ。
……まあ、ゴッちん達には今のが照れ隠しなことくらいバレバレなのだろうが、俺が何に照れてるかまではわかるまい。
「まあ気にしないでくれ。それより、本当に俺は待ってなどいなかったのだが、何の用だ?」
「龍ちん忘れてるの~? 今日のノルマだよ~」
「ん? ……ああ! そういえばメインイベントを忘れていたな……」
母さんが帰ってくるというまさかのレアイベントのせいで、本当に頭の中から抜け落ちていた。
それに、家に家族がいるとなんとなくエロはNGというイメージがあるので、無意識に性欲が抑えられていたのかもしれない。
「それで、我は貴様の言う文学少女としては問題無いのか?」
「大丈夫だ。問題無い」
とは言いつつも現状色々と問題はあるが、素養については十分だ。
あとは今後の教育次第といったところだろう。
文学少女メーカーの始まりだ。




