神様ってそういうとこあるよな
ゴッドドラゴン――通称ゴッちんは、その名の如く神に位置する龍だ。
ややヘッポコなうえに融通も利かないので自称かと疑ったこともあるが、一応ダー子も神と認識していたため、まあ一応神なのだと思う。
「おい! 貴様、何か失礼なことを考えているだろう!」
「……ふむ、一応認識阻害は行ったが、それでもニュアンスくらいは伝わるのか。流石はゴッちんだな」
ダー子の読心は、同時に他のことを考えることで認識を混在させ読み取ることを困難にさせることができる。
しかしゴッちんの場合、雑念をノイズキャンセリングのように取り除いたうえで本心を把握できるようだ。
やはり、存在の格としてはダー子よりも上ということなのだろう…………、ん? いや待て、だとしても少し違和感があるな?
「っ!」
俺が疑念を抱いた瞬間、ゴッちんがビクリと反応する。
それはつまり、俺の疑念が確信に近い部分を突いたということなのではないだろうか。
「……ゴッちんよ、何故かは知らないがお前、かなり弱体化してるんじゃないか?」
「~~~~っ!?」
「あ~、それな~、あーしもちょ~っと違和感あったんだよね~」
「違和感?」
「うん。だってゴッちん、どう見ても小っちゃいじゃん?」
「ち、小っちゃい言うな!」
小っちゃい……?
大きさが関係あるのか?
確かに、ダー子のおっぱいは非常に大きいが、まさか格の大きさで胸のサイズが変わる?
だとしたらゴッちんは……、弱体化しなければ一体どれ程のモノをぶら下げて受肉することになったのか……
「き、貴様、我でそのような妄想をするなど、万死に値するぞ!」
「何人たりとも、俺の妄想を止めることはできない」
「わ、我は人間じゃ――」
「今は人の身だろう」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
プンスカ怒っているゴッちんは、まるで小学生の女の子である。
黙っていれば大人しそうな文学少女だというのに……、いや、これはこれで一粒で二度美味しいと考えるべきか?
「き、貴様……、今の我にすら欲情するのか!?」
「無論だ。俺は小っちゃなロリババアも大好きだぞ」
「だ、だから小っちゃい言うなと! ……ん? 貴様今、ババアと言わなかったか!?」
「ゴッちんは知らないだろうが、昨今ババアは肯定的な意味で使われることも多いぞ」
「え? そ、そうなのか……?」
BBAと書かれていると怪しいが、ロリババアなどはオタクに好まれやすい属性と言えるだろう。
それはそれとして、この程度のことで少し嬉しそうな顔になるゴッちんが可愛い。愛でたい。
「な、な、な、貴様、またしても我によくじょ――」
「それよりも、流石にそろそろ時間がない。さっさと机を運んでしまおう」
このままゴッちんを弄り続けたら日が暮れてしまいそうだ。
楽しみはあとに取っておくとしよう。
◇
「どうだ? 俺のは美味しいだろう」
「んぐ……、く、悔しいが、美味いと言わざるを得ぬ……」
昼休みとなり、俺達三人は後者裏で一緒に昼食をとっている。
案の定ゴッちんは金を持っていなかったので、今は俺のおにぎりさんを食べているところだ。
こんなこともあろうかと、多めに準備しておいて正解だった。
「そうなんだよ~、龍ちんの、とっても美味しいんだよね~」
あえてオープンにした俺の思考に乗ったのか、ダー子まで意味深な言い回しをし始める。
実にナイスだが、からかい対象のゴッちんはおにぎりに夢中で全然気づいてくれない。
お子ちゃまめ……
「ね~ね~、どうしてゴッちんがコッチに来たの~?」
「そうだ、俺もそれが聞きたかった」
ゴッちんをからかうのが楽しすぎて、つい聞くのを忘れていた。
「そ、それは、だな……、その、条件に一致する者がいなかったというか……」
「ブラ姉は? あーし、絶対ブラ姉が来ると思ってたんだけど?」
「ブラ姉……? ああ、ブラックドラゴンのことか」
ブラ姉とはブラックドラゴンのことで、ダー子が姉のように慕っていることからそんな愛称で呼ばれているらしい。
説明されていたから理解できるが、普通の人間がブラと聞いて、まさかブラックドラゴンのことだとは思いもしないだろう。
健全な男子高校生であれば、ブラジャーを想像するに決まっている(断言)。
「あヤツはには断られた。お前もいると言ったら、妙に気まずそうな顔をしてたぞ? 何かしたのではないか?」
「え~、あーし何もしてないよ~?」
どうやらブラックドラゴンは、ダー子が原因でコッチの世界に来るのを拒んだようだ。
先日冗談で口にした仮説だが、意外と的を射ていたのかもしれない。
「……ふむ。しかし、だからといってゴッちんが来る理由にはならないんじゃないか? 神という立場であれば、無理やり従わせるくらいできるんだろう?」
「い、いや、他の者達もみな、それぞれ役割があってだな……」
無理やり従わせられるのであればそれも理由にならないのだが、できなかったのだから何か理由があるのだろう。
何にしても、やはりゴッちんはあまり人徳――龍徳か? がないらしい。
「つまり、一番暇だったゴッちんが来たというワケだ」
「ち、違うぞ! 我は決して暇ではない!」
「しかし、実際ここにいるではないか」
夢幻界で出会った際も、ゴッちんは山のように丸まって居眠りをしていたように思う。
こんな俺のような人間の願いに付き合ってくれているのも、きっと暇だったからに違いない。
「ち、違う! アレはああして、様々な世界を監視しているのであって――」
「それはつまり、暇だから動画を見ていたというのと変わらないんじゃないか?」
「だから違うと言っておるだろーがぁぁぁぁ! 実際今も、我は夢幻界で他の様々な世界を監視しておるのだぞ!?」
「……ん? どういうことだ?」
ゴッちんは今ここにいるのに、夢幻界で監視している?
……っ!?
ま、まさか、分身しているのか?
「フン! 貴様が想像しているのとは少し違う。神と同格の存在を作り出すなど、神にすらできるワケあるまい!」
そう言われると確かに、と納得してしまう。
なんせゴッちんは、俺の一番の願いすら叶えられなかった程度の力しかないからな。
「き、貴様~! またしても我のことを馬鹿にして――」
「そんなことはない、可愛いぞゴッちん。で、どういうカラクリなんだ?」
「そ、そうか? ……フン、いいだろう、では特別に教えてやる」
心配になるチョロ可愛さだな……
「分けたのだ。我という存在を、二つにな」
存在を……、二つに…………っ!?
そ、そうか! そういうことか!




