低身長クール系文学少女が転校してきた
ダー子と一緒に登校すると、予想通りかなりの反響があった。
先日下校した際も一部では騒がれていたが、登校時の方が生徒が多いためより目立つからである。
当然これは予想していたため別々に登校することも考えたが、冷静になると俺は元々意識している女子もいないうえに照れるという感情も希薄なため、あえて隠す必要もないという結論に至った。
ご近所についても両親と同様謎の認識補正が行われているようで、変な噂にはならないと思われる。
「チッ! クソが……」
唯一問題があるとすれば、この橋本を含む男子の嫉妬だろう。
黒ギャルという好みの分かれやすいタイプとはいえ、ダー子はそれを補って余るほどの美人だ。
そのうえスタイルも良く、胸の大きさについてはこの学校で一番大きいと目されている神奈川先輩に匹敵するレベル。
そんな女子が俺のような陰キャにベッタリであれば、嫉妬されない方がおかしいと言ってもいいだろう。
しかも、伊藤 誠のような彼女持ちですら敵意を向けてくるからタチが悪い。
「あ~、またしてもいきなりだが、転校生を紹介する」
……来たか。
待ってたぞ、この瞬間を。
検証結果がわかる瞬間というのは、何歳になっても興奮するものである。
この興奮が忘れられないがために、研究職を目指す人間もいるのではないだろうか。
そんなことを考えながら扉を凝視していると、控えめな様子で女子生徒が入ってくる。
まず何より驚かされたのが、その制服だ。
この転校生は、なんとセーラー服を着ていたのである。
(そ……ッッ、そうきたかァ~~~~~ッッッ)
実際にあるかは知らないが、フィクションでは急な転校だったため転校先の制服を用意できなかったという、定番のパターンが存在する。
これはビジュアル面だけで言えば非常に有効で、他校の制服は目新しく非常に目を引くのと同時に、最終的には転校先の制服に着替えることとなるため、一粒で二度美味しい演出が可能となるのだ。
しかも、チョイスしたのがセーラー服ということで、文学少女との親和性は非常に高いときている。
……俺は少々、ゴッちんのことを侮っていたのかもしれない。
「……黒崎 神楽です。宜しくお願いします」
転校生は、それだけ言って自己紹介を終えてしまう。
その冷たさを感じる態度は、いかにもクール系女子といった感じだ。
これはダー子の予測通り、ブラックドラゴンが派遣されてきたのかもしれない。
「それじゃあ黒崎は、この列の一番後ろ――闇崎の隣に座ってくれ」
「……わかりました」
「畑山、連日で悪いが席の準備を手伝ってやってくれ」
「了解しました」
「あーしも手伝う~」
◇
ということで再び空き教室に来たのだが、話しかけても黒崎はツーンとそっぽを向いて返事をしてくれない。
俺だけでなく、ダー子が話しかけても同じ反応だ。
「おいダー子、アレは一体何を考えてるんだ?」
「ん~、あーしにもわかんない~」
「心は読めないのか?」
「無理~。余程存在の格に差があれば別だけど~、基本相手が許可しなきゃ読めないんだよ~」
つまり、少なくともダー子とあまり格差がない程度の存在ではあるということだ。
まあ俺程度でも対策の練れるレベルの能力なので、そこまで強力な性質はないのだろう。
「それで、実際どうなんだ? ダー子の予想通り、ブラックドラゴンなのか?」
「それが~、ちょっとわからなくて~。なんか、隠されてるっぽい?」
隠されてる、か……
だとすれば、やはりそれ相応に格の高い存在なのだろうが、隠す理由はなんだ?
俺はともかくとして、ダー子にまで正体を隠す理由がわからない。
可能性があるとすれば、同族同士の確執や制約……、あとは単純にダー子が嫌われているとか?
「ふむ、ダー子はブラックドラゴンのことを姉のように慕っていたそうだが、実は嫌われてたということはないか?」
「な、ないよ~! た、多分だけど……。だ、だってブラ姉、あーしのこと優しく面倒見てくれてたんだよ~?」
随分と良くしてもらっていたようだが、そうやって面倒を見ていたからこそ嫌っているという可能性は十分にある。
あくまでも人間の感覚だが、世話疲れなどで関りを絶つということは、血の繋がった親子関係ですらあることだからな……
「まあ、それについてはまた後程考察しよう。とりあえず今は、その子にあった机を選ぼうか」
黒崎は、同学年の女子の平均身長を大分下回るくらいに小柄である。
机もそれ相応に小さいものを選ばなくてはならないが、小さい机というのはそんなに用意されていないため探すのが大変だ。
「龍ちん、これなんてど~ぉ?」
「ほぅ? これは中々……」
ダー子が引っ張り出してきたのは、小学生用かと見まごう程小さな机だ。
しかし、サイズ感的にはこの子にピッタリである。
「よし、コレに――っ!?」
決定だ……と言おうとした瞬間、尻にバチンと衝撃を受ける。
振り向くと、今までジッとしていた黒崎さんがファイティングポーズのような構えを取っている。
どうやら俺は、彼女に尻を蹴られたらしい。
「き、貴様ら……、我を……、子ども扱いするなぁ!」
「っ!?」
我……?
俺はつい最近、この一人称を聞いた覚えがある。
まさか、この転校生の正体は――、
「お前、ゴッちんなのか……?」
「嘘~……? マ、マジでゴッちんなの~?」
「ゴ、ゴッちん言うなーーーーーーーっっっ!!!」




