二つ目の願いは……
「それはつまり、ナメック星方式だったということか?」
「そのナメックなんとかはわからないけど、願い事は三つ叶えるのが決まりなんだって」
「しかし、あのときゴッちんは確か「なんでも一つ願いを叶えてやるという"しきたり"がある」と言っていた気がするが……」
夢の内容とは本来忘れやすいものだが、あのときのゴッちんとのやり取りについては鮮明に覚えている。
やはり通常の夢とは違ったということだろうか。
「それがね~、なんかその"しきたり"が少し古かったんだって~」
「"しきたり"というのは大体において古いものなんじゃないのか?」
「ん~とね、こっちの現代風に言うと"マニュアル"みたいなものらしいよ? 」
「……なるほど、そういうことか」
マニュアルと言われれば、確かに納得できる気がする。
そもそも、この願い事システムは迷い人――つまり人間向けに設けられたシステムだ。
それはつまり、戯れやご褒美でも理由は何でもいいが、とにもかくにも人間をもてなそうという思想から生まれたシステムだと予想できる。
要は、接客業のようなものである。
そして接客業であれば、マニュアルを時代やニーズに合わせてアップデートしなければ、客に満足なサービスを提供し続けることは不可能だ。
商売ではないので厳密には同じと言えないだろうが、少なくともこのシステムが人間のために用意されているのは間違いないため、現代人向けにアップデートされているとしても不思議ではない。
ただ、超常の存在が人間のためにわざわざそんなに手厚いサービスをするだろうか? という疑問はある。
しかも、その話が本当であれば、マニュアルを書き換えているのは夢幻界における神的存在であるゴッちんではなく、それ以上の存在であるハズだ。
主神とか上位神なのか、世界そのものかはわからないが、なんにしても人間に甘い存在であることは間違いないだろう。
しかし、そういう意味ではゴッちんは雇われ店長的な立場にあると思われるが、やはり使えない上司のイメージがぬぐえない。
恐らく何百年ぶりくらいの迷い人だったのだろうが、願い事の説明や受け答えも下手くそだったし、マニュアルは読まないし……
もしかしたら今の俺の思考も覗き見られているかもしれないが、あえて言おう。ポンコツであると!
「うわ~、ゴッちんが知ったら絶対怒るようなこと考えてる……」
「ん? ということは、ゴッちんでも流石に別世界の人間の思考までは読めないということか?」
「うん。でも、音声は聞こうと思えば聞けるから、監視されてたら失礼なこと考えてたのはバレてると思うよ~」
「そうか。しかし、事実ゴッちんはポンコツだと思うぞ」
願い事を叶えるというシステムにおいて、その数というのはかなり重要な情報である。
何故ならば、初めから三つ願い事を叶えてくれるとわかっていれば、願い事の内容も変わる可能性があるからだ。
例えば三つの願い事を、シナジーを意識した内容にすることなどが考えられる。
色々制限があり融通の利かない内容しか叶えられない願い事だが、シナジーを意識すればより理想に近い願いを叶えられたかもしれない。
それならば、俺もあえてネタに走ることはなかった……と思う。多分。
「うわ、うわ、龍ちん怖いもの知らず過ぎだよ~」
「俺だって言いたくてこんなことを言っているワケではない。そう思われたくないのであれば、神らしく有能なところを見せて欲しい」
「そ、それは……、まあ確かにそうかも……」
何気にダー子も、少なからずゴッちんが抜けていることを認めているようだ。
ゴッちん……、情けない子!
「とりあえず、ゴッちんが聞いているかわからないので、俺が文句を言ってたことと、今言ったことを伝えておいてくれ」
「え、いいの? 天罰とか下っちゃうかもよ?」
「まさか、この程度で天罰を下そうとするほど小さなヤツではあるまい。……一応、これも伝えておいてくれ」
別にビビったからではなく、ゴッちんであればこう言えば絶対にやらないという確信があるからだ。
たった一度会っただけだというのに、俺の中で謎の信頼感がある。
「あ、あれ? もしかして龍ちん、ゴッちんのこと、す、好きなの?」
「ん? そんなことはないが、そう感じたのか?」
「う、うん、なんかポワ~っとした安心感みたいな、好意みたいな感じ?」
そういえば、ダー子が心を読めるのはあくまでも少しだけだと言っていた。
恐らく、俺がゴッちんに対して感じている謎の信頼感を誤認したといったところか。
「まあ、実際ゴッちんのことは憎めないヤツだと思っている。ちょっと抜けている部分も、可愛いと言えば可愛いかもしれない」
「ふ、ふ~ん? そう、なんだ~?」
「おい、だからと言って小動物じゃないんだし、愛らしいとは思っていないからな。そしてコレは伝えなくていいぞ」
あのゴッちんのことだから、馬鹿にされていると勘違いして怒り出す可能性もある。
その方が余程天罰を下される可能性があるので、口に出したのは失敗だったかもしれない。
「それより、だ。肝心の願い事についてだが、とりあえず一つは思いついたので伝えておいてくれ」
俺はこれ以上この話を続けるとボロを出しそうだったため、早々に話を切り替える。
「それはいいけど、一つなの?」
「いきなり言われても、すぐに二つも思いつかないからな。既に一つ目の願いから時間が空いているのだから、今更もう一つくらい時間をかけても問題無いだろう。それとも、時間制限でもあるのか?」
「う~ん、それは言われてないからわからないかな~」
「だったら、納期を伝えない方に問題がある。指定しなかったゴッちんの落ち度だ」
両親が昔よく愚痴っていたが、納期を言わずに依頼をしてくるバカというのが社会には一定数存在するらしい。
急な依頼も困るが、納期指定のない依頼というのも相当タチが悪いのだそうだ。
わざわざこちらから確認するのも二度手間になるし、かと言って優先順位を下げて後回しにしたらしたで文句を言ってくるのだという。
上司の口癖が「なるはやでお願い」だったことから、俺は絶対そんな大人にはなるなと耳にタコができるほど教え込まれた。
……まあ、立場的には俺が願いを叶えてもらう側なので、これ以上は言わないでおこう。
「あ~、うん、そだね~。伝えておくよ~。それで……、とりあえず決まってる二つ目の願い事は~?」
「今から言うから、一字一句違わず伝えてくれ」
喋っている最中に咄嗟に思いついた内容だが、試みとしては面白い願いだと思っている。
今回もネタ感満載だが、結果どうなるかは非常に興味深い。
「二つ目の願いは「文学少女の黒タイツお~~くれーーーーっ!!!!!」だ」




