夢の中でドラゴンに「ギャルのパンティおくれーーーーっ!!!!!」と願ってみた
多分長引かせずに完結予定です……
気付くと俺は、紫色のグニャグニャとした空間に立っていた。
いや、地面はないので漂っているというのが正しいのか?
しかし、感覚的に上下はわかるし、何となく何かを踏んでいるような感触もするので、とりあえず立っているということにしておく。
さて、一体何故こんな状況に立たされているのか?
俺は確か、さっきまでベッドに寝転んでスマホのアプリに興じていたハズだ。
だというのに、いつの間にかこんな世界に飛ばされていたのである。
ワケがわからないが、可能性として想定されるのは二つだ。
一つは、俺があのまま寝落ちしたという可能性。
つまり、ここは夢の中というオチだ。
普通に考えれば、これが最も可能性が高い。
夢であれば何が起こってもおかしくないし、この状況にも説明がつく。
しかし、夢にしてはやけに意識がハッキリしているため、俺はその可能性は低いと思っている。
確かに夢の中で自分が夢を見ていると気づくケースはあるのだが、それは基本的に半覚醒状態で発生し得る現象で、今の俺のように冷静に状況を考察するような真似はできないハズだ。
となると可能性はもう一つに絞られる。というか、そっちの方が嬉しい。
「俺にもついに、異世界転移する機会が訪れたか……」
そう、もう一つの可能性とは俺が異世界転移or異世界転生したということだ。
そう考えればこの状況にも説明がつくし、俺のテンションも爆上がりである。
恐らくここは、異世界に転移or転生する前の領域と思われる。
テンプレ通りならここで神にスキルなどを授けられるハズだが……、肝心の神が見当たらない。
どうやら体の自由は利くようだし、自分で探せということだろうか。
「随分と不親切だな……」
今どき自動案内やスキップ機能がないなど流行らないと思うのだが、神界は現代風にアップデートされていない可能性も高い。
なんにしても文句を言ってもしょうがないので、とりあえず勘で探索を開始する。
探索を開始してから、かなりの時間が経った。
周囲には何も無いため時間の計測は正確ではないが、俺の体感では5時間以上経っている気がする。
既に俺の精神状態は焦りを超え、絶望になりつつあった。
「クソ……、こんなことが、あってたまるか……」
今俺の頭に過っている可能性は、ここが既に異世界だということだ。
異世界だからといって、必ずしも地球と同じ環境だとは限らない。
こんな風に何も存在しない異世界があったとしても、不思議ではないのだ。
そして、だとしたら……、最悪だ……
ずっと同じ無地の景色を見続けるというのは、精神的にかなりクルものがある。
似たような拷問が存在するくらいなので、何の訓練も受けてない俺では耐えようがなかった。
限界を意識した瞬間、人の心は容易く折れるものである。
俺は膝をつき、そのままうつ伏せに倒れ込んだ。
ここには水も食料もない。
俺はきっと、このまま死ぬ――――いや待て。
よくよく考えてみれば、これだけ歩いて喉も乾かないし、腹も減らないというのはおかしくないだろうか?
というか、そもそも自分が肉体的に全く疲れていないことに、今更気付く。
これはつまり、今の俺は肉体を持たず、精神体のような状態なのではないか?
であれば、俺はまだ異世界転移をしたワケではないのかもしれない。
そんな仮説が頭に浮かんだ瞬間、俺は再び活力を取り戻し、立ち上がっていた。
「なんとしても見つけてやるぞ! 神!」
そう叫んでから、俺は全力で走り出す。
肉体的疲労がないのであれば、体力の温存を考える意味もない。
今出せる全力で、俺はこの紫色の空間を駆け回った。
そして、数十分ほど駆け回ったところで、視界に金色の輝きを捉える。
ついに神に出会えるかと近づくと、それは神ではなく黄金が積み重なった山のようであった。
「黄金の山か……、夢のような財宝ではあるが、今更こんなものを手に入れてもな……」
そう言いつつも財宝というのはやはり胸がワクワクするもので、俺は惹かれるように黄金に触れた。
『キャン!?』
何か頭に直接犬の鳴き声? のようなものが聞こえてくる。
それと同時に、黄金の山が動き始める。
『な、なんだお前は、どこから入ってきた』
「ド、ドラゴン!?」
俺が黄金の山だと思ったのは、なんと金色に輝くドラゴンだった。
その圧倒的存在感に俺は内心ビビりつつも、平静を装って尋ねる。
「アナタが神か!」
『え? いや、まあ神と言えば神だが……』
「やはり!」
諦めないで良かった!
やはり神はいた!
『……もしやお前、迷い人か?』
「迷い人?」
『ごく稀にあるのだ。眠り人が、この夢幻界に迷い込むことが』
「待て。眠り人? つまりこれは、夢ということか?」
『厳密には違う。しかし、お前は寝ている間に意識だけここに迷い込んだのだろうから、似たようなものだろうな』
「そんな……」
これは間違いなく異世界転移キタコレと思ったのに、結局は夢なのかよ……
『おい、我と相見えておきながら落胆するとは不敬ではないか?』
「だって、これは夢なのだろう? 異世界転移じゃないんだろう?」
『そ、そうだが、我、これでも凄い存在なんだぞ? 一応この世界では神的存在だし』
「っ! じゃあ神だというのなら、何かできるのか!?」
『う、うむ』
俺が食い気味に尋ねると、ドラゴン(神)は若干引き気味に反応する。
威厳がありそうで、どこか軽い雰囲気のあるドラゴンだ。
『おい、お前今、失礼なことを考えただろう』
「っ!? 心を読めるのか!?」
『まあな。ただ、別に読まなくてもお前は顔に出まくりだ』
「それは失礼した。根が正直なものでな。それで、アナタのことは何と呼べばいい?」
『うむ……、そうだな、我は一応ゴッドドラゴンと呼ばれている』
ゴッドドラゴン……
まんまじゃないか。ネーミングセンスがなさすぎる……
『おい』
「失礼! それでゴッドドラゴン殿は一体何ができるのだ!」
『お前……、まあいい、我は寛容なのでな。一応我の元に辿り着いた者には、なんでも一つ願いを叶えてやるという「しきたり」がある。別に守る必要はないんだが、まあ暇つぶしのようなものだ」
「なんと! では、異世界転移させてもらうことも可能なのか!?」
『いや、それは無理だ』
「なんでやねん!」
思わず関西弁でツッコミを入れてしまった。
『お前の意識――魂と言い換えてもいいが、は今も肉体としっかり結びついている。これを切り離すことは、我であっても許されていない』
「それはつまり、直接人は殺せないってことか?」
『そう捉えてもらって構わない。まあ間接的であれば可能ではあるのだが、そうした場合規模が大きくなり大勢の人間を巻き込むことになる』
まあ言いたいことはわかる。
要するに天変地異を起こすことは可能だが、ピンポイントで一人を殺すような真似はできないということだろう。
干渉できる範囲とか、管轄みたいものもあるのかもしれない。
「しかし、そうなると微妙だな……」
『び、微妙とは言ってくれるな』
「じゃあ、魔法を使えるようにしてくれとかは?」
『特殊な技能を身に付けさせることは可能だが、その世界において起こり得ない現象を起こすことはできない』
「じゃあ、大金持ちにしてくれってのは?」
『その世界で扱われている通貨を直接増やすことはできない。いや、厳密にはできるが、模倣品などとして扱われる可能性があるため、堂々と使うことはできないだろう』
「地味に面倒だな……」
いきなり大金を得たとして、それを派手に使えば調査が入る可能性が高い。
そうなれば模造品ということがバレてお縄になってしまう。
バレないようにするには細かく使うしかないが、それだと大金を得た意味がない。
「ゴッドドラゴン殿、地味に使えないな……」
『そ、そんなことはない! 通貨でなく金銀や宝石などの鉱物を発生させることはできるぞ!』
「そんな物を捌ける技術もコネも、あるワケないだろう! もっと他に、運気を上げるとかないのか!」
『運気などというものはそもそも存在しておらん! 全ての事象は、各個体の行動や考えなどによって結果的に生まれるものに過ぎないのだ!』
夢の世界で、そんな夢も希望もないことを言わないでくれ!
「いずれにしても、なんでも叶えると言っておきながらその体たらく、神の名が泣くぞ?」
『ぐぬぬぬぬ……』
しかし、折角叶えると言っているのだから何かはお願いしたいところだ。
なんでも言うことを聞く奴隷少女でも頼んでみるか?
……いや、どうせゴッドドラゴンのことだから、国の法律は曲げられないとか色々言ってくるに決まっている。
であれば、いっそネタに走ってしまうか?
以前真剣に考察したことがあるので、丁度いいかもしれない。
「よし! 決めたぞゴッドドラゴンよ! 俺の願いはこれだ! ギャルのパンティおくれーーーーっ!!!!!」
『……は? 今なんて』
「だから、ギャルのパンティおくれーーーーっ!!!!! と言ったのだ」
ゴッドドラゴンは、俺が改めて願いを言うと固まってしまった。
そして1分程経ってから、ようやく再稼働する。
『本当に、そんな願いで良いのか?』
「フフン! そう言うと思ったぞ! 考えが甘いなゴッドドラゴンよ!」
『ど、どういうことだ』
「この願いには、いくつか解決しなければならない課題がある!」
『課題? パンティ――女性下着を出すだけではダメなのか?』
「ダメだ。何故ならば俺の願いは『ギャル』のパンティだからな! ゴッドドラゴンよ! お前はパンティを『ギャル』のものだとどう証明するつもりだ!」
『っ!? そ、それは、写真を付けるとかか?』
「そんなもの証明になるワケなかろう! いくらでも謀ることが可能ではないか!」
今となってはその名を聞くことはほぼなくなってしまったが、日本にはかつてブルセラショップというものが存在した。
俺も世代ではないため詳しくはないが、そこでは女性――特に若い女子学生の使用済み下着や制服が売られていたのだという。
なんとも業が深い商売だが、世の中変態は多いので一定の需要はあったそうだ。
そしてその問題の売り方なのだが、下着と一緒に履いていた女性の写真などが添えられていたりするらしい。
俺はそれを聞いたとき、「そんなの捏造し放題じゃね?」と思った。
かつての男達はそれを信じ……、あるいは真実だと思い込むことで下着などを購入していたようだが、何かあればソースを出すことを求められる現代においては正直成り立たないシステムだと思っている。
『で、では、どうすればいいのだ……』
「神ともあろう者が俺に尋ねてどうする! そのくらい自分で答えを導き出してみろ!」
『グッ……』
「課題はそれだけじゃないぞ! 時系列の問題についても考えねばならない!」
『時系列……?』
「そうだ。まず『ギャルのパンティ』とは、その呼称の通りギャルが所持、または履いているパンティが該当する。しかし、仮にそれが俺の手に渡った場合、それはもう『俺のパンティ』になってしまったと捉えることもできる」
『そ、それはまあ、そうかもしれんが……』
「ああ、わかっている。こんなこと考え出せばキリがない。そこでポイントとなるのが、時系列だ」
時系列とは、「自然現象や社会現象の時間的変化を継続して観測して得た値の系列」という意味だ。
この場合、時間的変化によって誰のパンティかという定義が変わっていくと考えることになる。
ギャルのパンティが俺の手に渡った時点でその所有権は俺に移るが、本質的にはまだギャルのパンティと定義しても差し支えはないだろう。
その後は俺がどう扱うかによって、ギャルのパンティという本質が維持できる時間が変わってくるが、仮に何もしなかったとしても時間とともにその在り方は変わっていく……と俺は考える。
『……つまりお前は、時系列的にギャルのパンティだと観測できる状態が維持されている必要がある、と言いたいのか』
「そうだ。無論、無理難題であることは承知の上だ。しかし、神であればそういった時間的制約を解決できるのではないか? 例えば、時間に影響されない性質をもったパンティ、とかな」
〇プリガンでそんな感じの物質があった気がするので、ワンチャンあるんじゃ? と思ったのである。
そうすれば、脱ぎたてホカホカの状態を維持できるかもしれない。
まあ、正直このゴッドドラゴン(笑)じゃあまり期待はできないが……
『お、お前、完全に我を舐めているだろう!』
「あれもできない、これもできないと言われれば、そう思われても仕方ないだろう?」
『ぐぬぬぬぬ……、いいだろう! 我の全力で、お前の願いを叶えてやろうではないか!』
「是非そうしてもらいたいな――ん?」
俺が挑発的にそう返した瞬間、俺の手……、いや体が薄っすらと透けてきていることに気付く。
『どうやら、お前の本体が覚醒しようとしているだな』
「なにぃ!?」
つまり、夢から覚めてしまうということか!?
願いが叶う前に!?
「クッ……、まだまだ調整したい内容があったというのに……! おいゴッドドラゴンよ! さっさとパンティをよこせ!」
『それはできぬ。流石の我も、此度の願いは色々と調整しなければならないのでな』
「しかし、夢から覚めてしまっては意味がないだろう! 早く俺にギャルのパンティを――」
――俺は、何かを求めるように天井に手を伸ばした状態で、目を覚ました。