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永久に永遠に

今年もツツジが綺麗に咲いた。

太陽の光を沢山取り込んで育った濃い緑色をしている葉と相まって美しいピンクの花が並んでいる。どの花も水分も日光も存分に受けて育ったのだろう。手を広げているかのように伸びている花弁には朝露が垂れ下がっている。


4月中旬から5月初旬 日本全国では桜の開花に騒がしい頃。

この街には桜は一本とない。いや、あるにはあるのだろうが桜とは比較にならないほどあたり一面に白、赤、ピンクと葉の緑のコントラストが美しいツツジが咲き誇る。今は。


観光名所の本善寺だけではなく学校や病院などの施設から一般家庭やこの老人ホームにまでもいたるところにツツジが並んでいる。そのことを気に留めている住人がいるのだろうか。そもそも市の大事な観光資源の一つにもなっているのはわざわざ確認するほどでもない。


普通、ツツジには花見で浮かれる日本人をほかにこれといった名物らしい名物もないこの地に呼び寄せる力はない。

それらよりも何倍も桜のほうが私たち日本人にとって一種の信仰のようにも思えるほどありがたいと思わせる。メディア一つとってもそうだろう。

だが見守るようなかたちで私たちが過ごすはるか昔から存在する崎野宮山から市の中心部までに放射状に様々な色のツツジが違和感なく人間と共存していて街に溶け込むかのように広がっている光景は一度見た者の心を奪う。

それもこの街では桜ではなくツツジで行われている。


だが一介の花が日本の象徴とも呼べる桜に肩を並べるのには理由があった。

『先祖返り』それがその理由だ。


帰先遺伝ともいわれ先代や先々代その個体の祖先が持っていた遺伝子上の色や葉の形がある日急にその子孫にあらわれてしまう。花だけではなく草木全般、野菜などでもみられる現象だ。

獅子唐などもたまに辛い物を食べた経験があると思うが元は唐辛子であるために先祖返りしてそのようなことが起こる。

この『先祖返り』を防ぐ方法は切り取ってしまうしかない。


この街のツツジはそれが毎年起きている。

様々な色をしたツツジが日数が経つにつれて一様に白やピンクからほとんどすべてが誰かの血を飲み込んだかのように赤黒く変色していく。それもゆっくりと。山から市の中心部に行くにつれて。色濃いグラデーションを伸ばしながら。ある一定の一部のものだけでない。自生しているものから市で管理されているものまですべてが私たちを引きずるように。


この街ではそれが当たり前だった。特段気に留めることではない。たまたま起きたことだから。その土地の持つ何かに影響を受けてこのような現象は起こりえると皆そう思っていた。当たり前なことに違和感を持つものはこの世界ではマイノリティーだから。

だが、外部からやってきた何代も前の市長が気味悪がってこの『先祖返り』を止めようと少数の地元住民の反対を押しのけて行政的にツツジを伐採した。晴れ晴れとした顔で今年はこの街では他の街のように桜が楽しめますよと述べていた市長。

その翌年には代わりに植えた桜を押しのけて例年通り『先祖返り』したそれらが街一面に広がっていた。もちろん市長はツツジとは正反対に青ざめた。だが逆にそのことを生かして観光業にシフトしたことはやはりやり手だったと言うほかない。それ以降この街ではこのツツジを使った観光業に力を入れている。


あと何回この街中から崎野宮山へ続く『先祖返り』が見られるだろう。

もしかするとこれが最後なのかもしれない。

街ではお祭り騒ぎで浮かれている者、別れ話をしているのか泣きじゃくりながら電話を片手に泣いている者、母親に今日書いた絵は猫と象が合体した「ねぞう」というものなんだと説明している者など何処にも溢れていそうな日常であふれていた。

何かに上書きされそうな気配はその日常で上書きされているようにも思えた。

自分にはもったいない余生だったかもしれない。それともあのツツジのように一層のこと自分も『先祖返り』してみようか。そう目を閉じた。

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