有能追放~スキルを沢山授かっても何故か無能扱いされました~
俺、ライゼル=フォールトは『モリス王国』の貴族である。
この年、成人である15歳となった俺は双子の弟と父と共に教会へと来ていた。
目的は成人になると神から授けられるという『スキル』を教会にて儀式を行い、自身の体に付与をする事だ。
スキルは自分の魂に馴染むものや、日頃の行いによって決まる。一部【勇者】等の神からの使命による特殊スキルを除けば、侯爵家であるフォールト家に恥じないスキルを得る事が目標である。
スキルの数も重要で、誰もが1つは確定だが2つであれば500人に1人。3つであれば1万人に1人と確率が低くなる。
さて、俺はいったいどのようなスキルを授かるのだろうか。そして幾つ持つことができるのだろうか……。
「ライゼル=フォールト。次は君の番です」
そしていよいよ俺は今、教会の司祭の前に居た。
15歳の成人の儀式でスキルが神より与えられるのだ。
スキルというのはこの世界で職業を選ぶ基準としてとても重要になってくるものである。
例えば農民であれば【農業】スキル。兵士であれば【剣士】スキルは大きく役に立つだろう。
しかし、剣士に憧れ日々剣の稽古に明け暮れていたとしても【魔導士】のスキルが与えられてしまえば剣士としての道は厳しくなる。
【剣士】スキルが無い剣士と【剣士】スキルがある剣士との差は大きいのだ。
望んだスキルが神より与えられなかったからといってその道が経たれるというわけではないのだが、スキルというのは便利なもので【剣士】のスキルであれば剣の扱い方。【魔導士】のスキルであれば魔法の使い方が習わなくても得ることができるのである。
俺が狙うスキルは【剣聖】のスキル。我が一族は代々剣に関するスキルを付与される家系で、父上も3年前に亡くなった祖父も【剣聖】であった。
「(神様お願いします! 【剣王】などの超上位スキルは望みません! ですがどうか、【剣聖】のスキルを! 【剣聖】のスキルを下さい)」
そう心の中で何度も祈りながら司祭の言葉を待つ。
すると、
「ライゼル=フォート。スキル――――」
いよいよ司祭によって俺のスキルが読み上げられる。
スキルは司祭の手前にある水晶玉に表示されるようだ。
「【剣王】――――」
「は!?」
司祭は今、なんと言った?
【剣王】? 今、【剣王】と言ったのか!?
湧き上がる喜びの感情。しかし、司祭の言葉は更に続いた。
「――――――――【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】です!」
「「「「「……」」」」」
はぁぁあああああああああああああああああああああ!?
どういう事だ? なんの冗談だ?
今スキルが幾つ読み上げられた!?
俺は今夢を見ているのか? 周囲を見ると父上だけではなく周囲の付き人もポカーンと口を開けて驚いている。
うん。俺だけに聞こえた幻聴ではないらしい。
司祭の方を見れば、なんだか申し訳なさそうな顔をしている。侯爵である父上に「今言ったことは本当なんです。信じて下さい」と言っているかのようだ。
「ど、どうなっているんだ……」
思わずそんな言葉が出てしまう。
それだけのスキルを授かる人間なんて歴史上初めてなのではないだろうか。
これから俺はどうなってしまうんだ?
「兄さん。邪魔だよ」
「へ?」
俺の弟アクセル=フォールトが嫌らしい笑みを浮かべながら近付いて来た。
あれぇ? なんでそんなに余裕なの? アクセルはこの異常事態に対し何とも思わないの?
「ほら、早くしてよね。【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】しか神に与えられなかった兄さんよりも、僕の方が上だって証明してあげるから」
「え? なんて?」
途中、ものすごく早口でスキルを読み上げたアクセルは、俺を突き飛ばして司祭の前に立つ。
「うぉっほん。神の前でそのような振舞いはよくありませんよ」
「ははっ。申し訳ございません」
司祭がアクセルの行動を注意したが、アクセルはなんてこともないかのように笑って適当に返した。
あれ? もしかして俺ってそんなに強力なスキルを手に入れてないのか?
確かに【料理人】とか【釣人】といった貴族にはあまり必要ないスキルもあった気がするが……。いやいや、それでも【剣王】のスキルは授かっていたぞ??
アクセルはあまりの事態に脳の処理が追いついていないのか?? いや、俺もそうだけどさぁ!
「はぁ……。では読み上げます。アクセル=フォールトのスキルは――――」
あまりにもアクセルが余裕の態度を見せるので、貴族として見習うべき姿だと感じつつ、アクセルが授かるスキルも気になり始めた。もしかして【剣王】よりも上の【剣帝】か? いや、それよりも【剣神】か!?
「【剣聖】【速力微向上】【体力微向上】【風魔法】」
「「「「「おぉおおおおおお!!!」」」」
「えぇぇええええ!?」
教会内の感嘆の声はこの場に集まった者達の声。
驚きの声は俺のものだった。
「4つのスキルを神から与えられるとは!」
「素晴らしい! 素晴らしすぎるぞ」
「フォールト家の次期当主の座は決まったようなものですな」
などとアクセルを褒めたたえる声が聞こえてくる。
「いや、私は4つどころか10個以上なんだけど!?」
思わず俺は会場で大声でツッコミをしてしまった。
数どころかスキルの性能も上である。なのにどうしてみんなアクセルばかりを褒めたたえているのだろうか?
もしかして俺のスキル性能や数がすごすぎて理解されていない?
「あのぉ~。私のスキルをもう一度確認をお願いできますでしょうか?」
俺は司祭に恐る恐る頼み込んでみた。
間違いはないであろうが、念のために確認をしてみることも必要だ。
「えっ……あ、はい。かまいませんが」
司祭は感動から我に返った様子で、渋々といったようすで俺をもう一度確認しなおそうとした。だが、
「はーーーーっはっはっはっはーーー。無駄だよ、無駄無駄。兄さんは何をやっても【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】だけの無能! 司祭様をそんなことで困らせるなんてやっぱり兄さんは低能なんだねぇ」
「えっ? お前早口過ぎない?? どうしちゃったの?」
俺は再びアクセルの異常なまでの速さで俺のスキル一覧の読み上げを行った後、暴言を吐いてきた。
ってか、よく覚えられたな。
「いやいや、これだけの数のスキルがあるのに無能とか低能とか……。これでダメなら世の中の殆どの人間が無能扱いになっちまうぞ!?」
アクセル自信を貶しかねないその発言はいろいろと大丈夫なのだろうか。
「やめろ。見苦しいぞライゼル」
「おと――いえ、父上!」
俺とアクセルの言い合いに入ってきたのは父のグリーゼル=フォールトであった。
フォールト侯爵家現当主であり、出世欲の塊。そして力のない者を異様に嫌う人物である。
俺を庇ってくれるのかと期待したが、『見苦しい』という発言に若干の不安を覚えた。
「ライゼル。アクセルの言う通りスキルが【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】のみのお前には失望した。
これが平民であればよかったのだが、お前は貴族の人間だ。更には名門とうたわれるフォールト家の人間なのだぞ?
だというのに、たかが【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】のみのスキルとは恥もいいところ。先祖に顔向けできんわっ!
よって貴様は本日より勘当の身とする。恨むのであれば【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】しか取得できなかった己の未熟さを恨むがいい!」
「は!? えっ!? もしかして3回繰り返した!? 嘘だろ。3回も!? ……よく言えましたね。って、それよりも肝心セリフがよく分かりませんでしたよ!?」
何度も父上が俺のスキル一覧を述べるので、何が言いたいのかさっぱりであったが、
「何度も言わせるな! 勘当だと言っているのだ! たかが【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】のみの分際で!」
あ、勘当だと言ってたのね……。って、これだけスキルがあっても"たかが"かーーーーい!
「って、勘当!? 何故です!? 私が人外のスキル数持ちだからといって危険人物扱いをしているんですか!?」
と、咄嗟に思いついた俺を勘当する理由を述べると、
「何が人外のスキル数持ちだ。お前はたった『59』個のスキルしか持っていないというのに。これでは平民と変わりがないではないか!」
「平民どころか世界中の人類でもそんなにスキル持ってないですよ!?」
訳が分からない事を言う父に対し、俺は思わずツッコミを入れてしまう。
というか、59個もあるのかよ俺のスキル!
「そうだよ兄さん。【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】――――――――」
「うるせえよ! なんだよそれ。絶対に全部言わなきゃいけないルールでもあるのかよ!?」
なんかイライラしてきた。何度も何度も不気味な早口を聞きたくはない俺はアクセルの口を塞ぎ、バタバタと暴れるアクセルが涙目になってギブアップを宣言した後解放し、その場を後にしようとした。
すると、
「ライゼル」
と、再び今世の父から呼び止められる。
「……なんでしょうか?」
俺は不満げにそう答えると、
「餞別くらいはくれてやる。屋敷の自室にある持ち物くらいは持てるだけ持っていけ。そして第二宝物庫の資材も分けてやろう。同じく持てるだけ持っていけ」
と言った。
「えっ……? 本気なんですか? 私を勘当するというのは」
あまりにも信じられない事態にスキル数といい現実として受け入れられない俺。
「だからそう言っている。何度も言わせるな。お前は今日から……いや、明日から平民だ」
しかし、父から帰って来た言葉は無情にも俺を突き放す言葉であった。
「【剣王】ってすごいスキルですよね? 私はそれを授かったんですよ?」
「【剣王】は素晴らしいスキルだ。だが、お前が授かったスキルは【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】ではないか。何度も言うように我が侯爵家にはふさわしくない」
「(なんでそうなるんじゃ、ボケぇぇえええ!)」
だめだ。アクセルだけではなく父上もおかしくなってる。
ここで、俺のスキルを10回復唱していただけませんか? とお願いしたらどうなるのだろうか。
「わ、わかりました……」
残念がら父の意思は固いらしい。
何故俺が家から追い出されなくてはいけないのだろう。
理由は59個のスキルを持っているからなのだそうだが、だからなに? と理解できない。
そして自室にある私物や第二宝物庫の物資を持って行って良いと言っている。
第二宝物庫は領内で獲れた魔物素材置き場である。そこそこ貴重な素材も置かれているため売ればかなりの金額になるだろう。
のまさか【アイテムボックス】スキル持ちの俺にそんなことを言ってくれるとは思わなかったので驚いてしまう。
いや、まだだ。俺のアイテムボックスの容量がどのくらいか分からない。
それを見越して父は言っているのだろうか?
「ぷーくすくす。兄さんのその両手にどのくらい持てるのか楽しみだよ」
アクセルはそう言って笑っているが、なんで【アイテムボックス】を持つ俺にそこまで強気になれるのだろうと弟の頭を心配してしまう。
こうして教会でのスキル付与という一大イベントは納得できない形で終わりとなり、俺達は帰路へとついたのであった。
さて、帰りの馬車に揺られながら俺はいろいろと考えた。
まさかこれほど多くのスキルを取得しておきながら家を追い出されることになるとは思わなかった。
父や弟だけが認識できていないわけではなく、どうやら教会の人間や付き人も同じように認識していない。
そのため呪いか幻惑魔法の類ではないと考えられた。何故ならスキル付与の儀式はかなり神聖なものであり、この時だけはどんなに協力な魔法や呪いでも影響は受けないと聞かされていたからだ。
大昔に実際に実験をしてみたらしいが、結果は言い伝え通りだったとされている。
試しに俺が取得できたスキルを使ってみても父や弟の態度は変わらない。
「(スキルでも解呪できない強力な呪いなのか? うぅん。分からない!)」
では、ここで暴れても彼等の考えは変わらず、俺に対する状況が更に悪化してしまうと考えたのである。
つまり、とりあえず家を出て原因を探り、その解決をしようと思い至ったのだ。
「(ふざけんなよ神ぃぃぃいい!!)」
一応原因は考えてはいた。
もしかして、スキルが大量に付与され過ぎて、周囲が認識できていないのではないか?
つまり、あまりにも大量のスキルが付与された事が原因で何かしらの問題があの儀式で起き、俺以外の人間の頭がおかしくなってしまったという考えだ。
つまり悪いのは神ではないか?
当然そんな事は口に出して言えない。自分のスキルに関して神に文句を言えばたちまち異端者として裁かれてしまうからだ。
「着いたぞ。さっさと降りろ」
「え? あ、はい」
馬車の中で絶望しながら思考を張り巡らせていると、いつの間にか自宅である屋敷に到着したようだった。
「まったく、兄さんはスキルだけじゃなく日常生活に支障が出るほど無能だなんて思わなかったよ」
などとアクセルは得意気な顔で俺を馬鹿にしてくる。
「いや、スキルに関してはお前よりも有能だと思うんだが?」
ちょっと腹が立ったのでそう言い返してやると、
「ハッ! 兄さんったら、ショック過ぎて頭がおかしくなっちゃったのかい? たかが【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】――――」
「それはもういいっつーの!」
壊れた機械のように再び俺のスキル一覧を述べようとしていたアクセルの口を俺は慌てて塞いだ。
「「「お帰りなさいませ」」」
出迎えには屋敷の執事、メイド等の使用人がずらっと並んでいた。
彼らもきっと俺達のスキル付与の結果をいち早く知りたかったのだろう。
なにせ俺はこのフォールト侯爵家の嫡男だ。もうその立場も無くなってしまっているだろうが、未来の家長が素晴らしいスキルを手にしていれば安泰であると考えているのだろう。
その証拠に家令であるセバスチャンが真っ先に質問をしてきた。
「お帰りなさいませ旦那様。坊ちゃまたちのスキルはいかがでしたでしょうか?」
何気ない質問だったのだろう。
セバスチャンは期待を込めた笑みを俺達兄弟に向けてきた。
「はっはっは。それがねぇ、聞いてよセバスチャン。兄さんったら――――」
「ちょっと待った!!」
俺は慌ててアクセルの口を塞ぎ、
「実は【剣王】のスキルを手に入れたんだ! その他にも沢山スキルを付与されたよ!」
と、俺の方か真実を告げてみたのだ。
これは実験である。もし俺の方から周囲に自分のスキルを伝えるとどう反応するのかだ。
もし【剣王】というスキルがゴミスキルであるという認識になっているのであれば、きっとセバスチャンもガッカリとした表情になるはずだ。いや、それもちょっと怪しいかもしれない。雇い主の息子にそんな態度を見せる可能性は低いか。
なら周囲の使用人達の反応はどうだ?
「け、剣王ですと!? すごいではありませんか! ライゼル坊ちゃま!」
と、予想以上にセバスチャンの反応はすごかった。
それどころか周囲の使用人たちも喜んでいるようすだ。
「さすがはフォールト侯爵家のご嫡男」
「【剣王】だけではなく他のスキルも付与されたなんて……。神にどれだけ愛されているのでしょうか」
などという声が聞こえてくる。
すると口を塞がれていたアクセルが我慢ができなくなってきたのか無理やり俺の手を振り払い、
「ふざけるなよ兄さん! みんな違うんだ聞いてくれ! 兄さんは自分が侯爵家にはふさわしくない屑スキルを付与されたことを隠したいだけなんだ。本当は【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】――――」
「えぇい、黙ってろ!」
再びアクセルの口を塞ぐタイミングがズレてしまった。
その為アクセルが大半の俺のスキルを口にしてしまう。
「ど、どういう事でしょうか? 旦那様……」
なぜ兄弟げんかをしているのか? と言いたげにセバスチャンは父を見る。
「ふん。アクセルが言いかけたことは本当だ。ライゼルのスキルは【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】のみ。よって本日でライゼルはフォールト侯爵家にふさわしくない身として廃嫡することを決定した。今日よりフォールト家の名を名乗ることも許さん」
俺はアクセルを抑えることに必死になり父上の"ライゼル全スキル早口暗読"を止めることができなかった。
「【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】のみ……それは」
するとセバスチャンもライゼル全スキル早口暗読を行った後、憐みの視線を送ってくる。
セバスチャン……。お前もか。さっき【剣王】はすごいとか言ってたじゃないか。
父上が今言った俺の全スキルを覚えて口にするというのはすごい技のように見えるが、やはり不自然すぎる。
なにか見えない強制力のようなものが働き、自動的に彼らに言わせているような気がする。
「まぁいい。ライゼル、弟とのじゃれ合いは程々にして、早く出ていく準備をしろ」
「はい……」
はっきり言って彼らに働いている謎の力は異常なものだ。
思い入れも大してないこの家からさっさと出ていきたい気持ちもあったため、俺はすぐに自室へと入ったのであった。
「はぁ……。目に付いたものは全部入れたけど……」
自分の服や書籍、金庫だけではない。本棚や机、ベッド等目に付いたありとあらゆるものをアイテムボックスへと収納させた。
今は第二倉庫の物資も全て収納し、何もない自室で一人寂しく座っているだけである。
どうやら俺の【鑑定】スキルによると俺のアイテムボックスはこの侯爵家全体を取り込んでも余裕があるくらい容量があるようだ。
さすがに屋敷全部を丸ごと収納する気にはならないため、そのようなことはしない。
しかし、自室全ての物を消し去ったため、とんでもなく広い空間が出来上がってしまっていたのだった。
「これからどうしようかな」
このまま野垂れ死にするつもりはない。いや、収納した物資を売ればそんな事にはならないだろうけど。
だが、この家で得た物を売って一生を過ごすのではなく、こうなった原因を探らなくては。
周囲は謎の強制力により話が通じなくなってしまっている。
ならば、どのように行動すれば強制力から逃れることができるのだろうか。
この国に留まり続ければ父の影響で状況が悪くなる能性が高い。何せこの国の侯爵だ。今日俺が得た多くのスキルを使って活躍すればするほど悪目立ちするだろう。
となると、やはり国外に出てこの国と全く縁が無い国に逃亡すればいいのではないかと思い至った。もっとも、上手くいけばの話だが……。
「ん?」
そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
俺がそう返事をすると扉が開き、そこにはセバスチャンの姿があった。
「どうしたセバスチャン。何かあったのか?」
「坊ちゃま……」
セバスチャンは目を潤ませている。
「坊ちゃま……。まさかこのようなことになってしまうとは……。スキルの数や内容でライゼル坊ちゃまがこの家を去ることに私は胸を痛めております」
「あぁ、悲しんでくれているのか。ありがとう。そう言ってくれるのはお前だけだよ。
だが、その言葉は人に聞かれる場所で言うんじゃないぞ? 父上の考えに批判していることになるからな」
なんと、セバスチャンは俺を見下すことなく、俺が出ていくことに悲しんでくれているようだ。
そこで、セバスチャンは俺に味方をしてくれているような雰囲気だったため、ちょっと確認をすることにした。
「なぁ、ちょっと確認したいことがあるんだがいいか?」
「えぇ、どうぞ。私に答えられることであればなんなりと」
セバスチャンがそう言ってくれたので、俺は【鑑定】スキルを発動させ自分自身の手のひらを見る。こうすることで自分を鑑定できるのだ。
というか、そうでもしないと自分のスキルを全て把握することができない。
「仮に……これは仮の話だぞ? もし仮にこの国の貴族の侯爵家嫡男が【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】というスキルを取得したとしよう。何か問題があるのか?
当然俺じゃない。別の国でもいいしこの国の他の侯爵家の人間でもいい。とにかくこのスキルを手にしたらその家の者達はどう思う?」
と、聞いてみた。
これでどんな回答が返ってくるか見ものである。
「えっ? えっと、そんなにスキルを得た人物が現れた場合でございますか?」
「うん。そうだ」
「それは……」
と、セバスチャンは一瞬答え辛そうにした後、
「それはとても名誉な事かと思われます。スキルが10個以上というのはいまだかつてないほどの神に愛された人間という事になります。教会……いえ、国ですらも黙ってはいないでしょう。
それが侯爵家の人間に与えられたとなれば、国を大きく発展させる身として期待させることでしょう」
そう答えたのだ。
「そう……だよな? そうだよなぁ!? 俺の認識間違ってないよなぁ!?」
「へっ!? そ、そうでございますね。そのような人物が現れればとてつもない事件となるでしょう」
「だよな! だよな!? だから俺がそれなんだって!」
「そ、それとは?」
俺の勢いに圧倒されセバスチャンが仰け反って聞いてきた。
「だから、俺がその……はぁ、これ全部言うのめんどくさいなぁ。【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】のスキルを持っているんだ!」
そう自分自身を鑑定しなおしながらそう伝えると、
「はぁ!? いえ、坊ちゃまは【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】だけでございましょう!?」
と、驚いた顔をして言ってきた。
「いや、だから合ってるじゃん!? 一言一句間違えてないよ? 【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】――――あぁあああめんどくせぇええええ。さっき俺が言ったスキルを全部持ってるんだって!」
「ど、どういうことでしょうか? 旦那様が仰っていたことが間違いだったと?」
「ぎぃいいいいいい!!」
会話が通じねぇええええええええ!!
俺が会話のキャッチボールができないことにイラついていると、
「ふふふ。兄さん、自分が無能だからってセバスチャンに当たり散らすのはやめてもらいたいなぁ」
と、嫌らしい笑みを浮かべたアクセルが部屋に入ってきた。おい、ノックは!
「兄さんは父上が仰られた通りのスキルしか持っていない。つまり、兄さんが今言ったスキルは一つも持ってないのさ!」
「うぅぅ……。アクセル。お前、いったいどうしちまったんだ……」
幼少期から共に仲良く育ってきたはずだ。
なのにスキル付与の件からアクセルは人が変わったかのようになってしまった。
そりゃ、多少は成長するにつれ権力争いはあると覚悟していたさ。
だけど一応それなりに悪く思っていないアクセルが全く話が通じない人間になってしまったため、悲しくもあり恐怖も感じてしまった。
ってか、これホラーだよね?
「ほら、無能な兄さん。準備が終わったらさっさと出て行ってよね! この部屋にあるものは今日から僕の物なんだから!」
俺、弟にそんなに嫌われていたのかよ……。
イジメたり厳しくした記憶なんてないんだけどなぁ
「この部屋の物って……もう何もないんだけど」
アクセルの発言も気になり、椅子一つ、ベッドも消え去り殺風景となった部屋を見て俺はそんな質問をしたのだが、
「はっはっは。兄さん、何も持って行かない気かい? 意地になっていたって仕方がないんだよ? 何も持っていかなければ明日には死んじゃうだろうねぇ!」
と、まさに何も見えていないかのような発言をするアクセル。
もうだめだ。遂にアクセルは幻覚も見えてしまっているようだ。アクセルと一緒に話していたら俺の頭もおかしくなってしまいそうである。
「じゃ、じゃぁ、もう俺は行くよ……」
願わくばこれがアクセルの本心ではなく外部の何かしらの要因でありますように。
だから俺は家をでて原因を探るのだ。
待ってろよアクセル。今からお兄ちゃんがお前を救って見せるからな!
「ぷーくすくす。そうだね。その方が僕も嬉しいね。
バイバイ【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】――――――」
「うるせぇえええええ!!!」
「ひぶふぅ!?」
「ライゼル坊ちゃま! 落ち着いてくださりませ!」
だめだ。つい手が出ちゃった。
気味の悪い早口を言う弟を強制的に黙らせ、俺は両親へ挨拶をした後屋敷を出ていくのだった。
その後俺は手始めに隣国の『ゼリック王国』へと向かった。そこで冒険者として活躍することになる。
どうやら謎の俺が無能なスキルしか持っていないという強制認識とはここの地には効果が薄いらしく、
「冒険者としての登録ですね? わかりました。まずはステータスを確認しますので手をこの水晶に当ててください。軽くでいいですよ」
と、受付の女性に言われて素直に鑑定能力がある水晶に手を触れた際、
【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】
まぁ、当然ながら俺が持つ59個の全てのスキルが表示された。
これに対し、受付の女性はがっかりするどころか、
「え……うそ。10……いえ、50個以上のスキル? ぎ、ギルドマスター!!」
ギルドマスターを呼ばれて面談が始まり、あれよあれよという間に各方面に引っ張りだことなってしまった。
それからは人生でこんなに働いたことが無いのではないかというぐらい働きまくった。
冒険者としてモンスターを狩り、錬金術にて薬学の知識を使ってポーションを作り、新しい料理を普及させたり、新しい道具を普及させたり、大道芸を披露し子供たちを喜ばせたり、海産物を取りまくり売ってみたり、商人と打ち合わせたり、他の冒険者と行動を共にし難関クエストを突破したり、聖獣と友達になったり、他者の呪いを払ったり、魔法で土木建築をしたり、工場長をやってみたり、商人をやってみたり、王子の危機を救ったり、魔王の使者名乗る怪しいやつをぶっ殺したり、冒険者の強さを競う大会に出場してみたり……。
わずか2年で『ゼリック王国の賢者』とまで呼ばれるようになってしまった。
今では大金を保有する俺は、ゼリック王国では俺の名を聞かない者はいないとまでされている。
本当はこの国よりももっと遠くに行く予定だったが、この国の人達に認められ、優しくしてくれたことで居心地が良く居座ってしまったのだ。
しかし、ここまできてもそれとなく父や弟達の症状や原因にたどり着くことは無かった。
色々調べたりそれとなく高名な学者や魔導士に聞いてみたりはしたんだけどなぁ……。
そんなある時である。
「え? 王城から呼び出し?」
俺は活躍に活躍を重ね、王国より子爵の地位を与えられ、『ライゼル=シュドルツ』と名乗っていた。
基本は自由の身である俺であったが、王城から呼び出されることは珍しくない。
しかし、呼び出される理由の大半はとても面倒な内容であったため警戒をしていた。
「はい……、なんでも勇者案件だとか」
「勇者案件かー。え? まさか私が勇者になれとかそういう話?」
勇者とは魔王を倒す為に存在する人間の事だ。
基本は【勇者】というスキルを持つ人間が勇者になる。だが、複数のスキルを保有する俺でも【勇者】スキルは持っていない。
「いえ、それは私の方では分かりかねます。伝令も急いでいたようで詳しい情報は何もありませんでした」
「それでいいのか伝令……」
家令にそう言われ、渋々王城へと向かった俺は、予想外の人物と出会うことになる。
案内された場所は王城の会議室であった。
「おぉ、ライゼル。よく来てくれた!」
「ライゼル兄さん! あんたとんでもないことをしてくれたなぁ!」
歓迎する声と罵声が同時に聞こえてきた。
歓迎の声はこの国の王様。罵声はなんとも懐かしき顔である弟のアクセルからであった。
「国王陛下。呼び出しに応じ参上いたしました」
ライゼルの登場に驚きつつも、礼節を優先し国王陛下に挨拶を優先した。
「兄さん。あんたのせいでフォールト家は無茶苦茶だぁ!」
俺が国王へ挨拶をしていると、それに構わず俺に文句を言ってくるアクセル。
「フォールト伯爵。子爵は我が国の貴族ですぞ。いくら血のつながりがあるからと言え、いきなりそのような物言いをするのはいかがなものでしょうか?」
さすがの態度にゼリック王国側の貴族が文句を言う。あの方は確か外務副大臣だ。
ちなみにゼリック王国の国王陛下や国の重鎮達には俺の生い立ちを話してある。
まぁ、どこの誰かもわからない他国から流れ着いた冒険者が国一番の活躍しまくれば、色々と調べられるよね。
結果俺がフォールト家から放逐された人間だという事がバレ、一時スパイ容疑もかかったが、なんとか国に貢献しまくる事により誤解は解けたのだ。
それからは俺の家族達に起きた不思議な出来事を調査してもらえるようになり、ゼリック王家や貴族達とは協力関係にある。
「ふん。そんな余裕な態度をしているのも今の内だ! この国は魔王軍の幹部を貴族として迎え入れているのだからな!」
と、アクセルは顔を真っ赤にしてそう言い返すのだが、
「お、おいアクセル。一体何を言っている? フォールト伯爵? フォールト家は侯爵だろう。
それにお前が伯爵と呼ばれているのはどうしてだ!? 何か活躍して伯爵位を授かったのか??」
魔王軍の幹部という話も聞き捨てならないが、外務副大臣の言葉も気になりそう質問をした。
「兄さんが出て行った2年後、魔王軍の幹部に兄さんがなっていることが分かって降爵されたんだ! それに、父上は責任を取って処刑された! 兄さんは家を追い出された身だというのに、フォールト家が元凶と無実の罪を着せられてなぁ!
たかが【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】しかスキルが無い癖にぃぃいい!!」
久しぶりにその早口を聞いたなぁ。ほら、みんなびっくりしているよ?
ってか、父が処刑!?
「父上が処刑!? 私が魔王軍の幹部!? 一体何がどうなっている! 私は魔王軍の幹部ではないし、そんな事実無根の罪でモリス王国は父上を処刑したのか!?
ふ、ふざけるな! それ、絶対に父上が政争で負けて……いや、父上がそんなミスはしない……。なら何かの陰謀で殺されたんだろう!」
頭に血が上った俺は、そうアクセルに捲し立てる。
「シュドルツ子爵、落ち着いてください。
フォールト伯爵。ですから我々が説明している通り、シュドルツ子爵は魔王軍に属してなどおりません!
そもそもシュドルツ子爵は魔王軍の使者と名乗る輩を討伐しているのですよ?」
外務副大臣がそう俺をフォローするのだが、
「えぇい! 話にならん! その無能が魔王軍の使者を倒しただぁ!?
話に聞けばやれ新技術を開発しただの強力なモンスターを討伐しただの、食糧事情を改善したなどとおかしな話も聞こえてくる。
この無能がそんなことができるわけが無いだろう!」
アクセルが再びそう叫んだが、
「いい加減にしてもらおうか」
と、ここでゼリック王国の国王であるユルバ=ホル=ゼリック3世が言葉を放つ。
その一言だけでも威圧が強く、先ほどまで大声で喚いていたアクセルが顔を青くして黙ってしまう程だ。
静かになったこの部屋の様子を確認したユルバ国王は、
「先ほどからのフォールト伯爵の態度は目に余る。
余の国の外務副大臣からシュドルツ子爵は我が国の貴族であると伝えたはずだ。
貴国の外交の場では、証拠もないのに魔族の繋がりが疑わしいとされている他国の貴族に対し、そのような態度で話し合いをする常識があるのかな?」
「そ、それは……」
「魔王軍の使者からの接触があった事は確かであるが、その件はこの国の"創造神教会"から『接触はあったが撃退した』という認定を受けている。
この決定が不服なのであれば、直接【聖ノルリア教国】へ抗議するのだな」
聖ノルリア教国というのは、大陸全土に広がる宗教、創造神教の総本山である。
魔王と対決する姿勢を持つ国々の旗頭でもあるため、魔王軍関連の事件に対しては一番信用がある機関と言えるだろう。
つまり、アクセル……いや、フォールト伯爵家やモリス王国はノルリア教国の決定を無視して俺を悪役にしようとしていたのである。
「この件は教会にも報告しよう。今日はこれにてフォールト伯爵にはお引き取り願おう」
「し、しかし!」
「お引き取り願えるかな?」
「……はい」
王の圧はすさまじく、否定などできる状態ではなかった。
こうしてアクセルによる冤罪事件の回避はできたと思ったのだが、
「え!? 私が魔王軍への攻撃参加ですか!?」
「うむ。頼めないかの?」
いつもの好々爺に戻ったユルバ陛下は俺にそう頼んできた。
「なにも四天王を倒せとか、魔王を討伐せよという話ではない。
少しだけ戦いに参加してもらえれば良いのだ」
と、俺に激戦地へ行けという話ではないことを伝えてくる。
元々俺は魔王軍と関わりを可能な限り避けてきた。
一応国に様々な有益な事をする代わりの条件として魔王軍との接触を避けるような話をしてきたが、
「なるほど。モリス王国へのアピールですか?」
「あぁ、その通りだ。いくらなんでも無実とは言え、言われっぱなしでは国として信頼が落ちる。
子爵には恩もあれば、約束もあるが……。頼めないかの?
勿論拒否してもらっても構わん。可能な限り魔王軍と関わりを無くすという約束があるからな」
とは言え、国王直々にそうお願いされてしまえば、実質命令になるだろう。
俺がこれ以上活躍をしてモリス王国への俺の力を示してもいいものなのかは分からないが、まぁもう時すでに遅しだろう。やれるところまでやってしまうか。
「わかりました。その任務、喜んで受けさせていただきたく存じます。それにアクセル――――我が弟を見逃して下さった恩もありますし」
「うむ……。見逃した……か。まぁ、そう捉えられても不思議ではないな」
「感謝いたしております」
そう。ユルバ陛下はアクセルの横暴を見逃したのだ。
本来であれば外交の場で、いくら兄弟であっても他国の貴族を侮辱すればただでは済まない。最悪戦争だ。
だというのにユルバ陛下は俺の為にアクセルをあえて何も処罰しなかったのだ。
「アレは確かに呪いを疑ってしまうほど認識が固定されてしまっている。
こちらがどれだけ子爵の功績を称えようとも『無能にそのようなことができるはずがない』と聞かなかった。
それにあのスキル音読も異常だ。貴族でなければ芸人として食べていけそうな程の特技である」
「最悪の予想でしたが、あれだけの強制認識力がフォールト侯爵家だけではなく国全体にまで広がっているとは……。魔王軍討伐後、原因を速やかに調べたく思います」
「あぁ。魔王軍は任せた。その後はできる限り協力しよう」
こうして俺は魔王軍と戦う道を選んだ。
そして、当初は魔王軍の一部隊と戦い、その活躍を教会の人間に見てもらう事で俺が潔白であるという証明をしようとしたのだ。
しかし、どうせならと1000人の部隊を率いた俺は、できるところまでやってみようとした結果、四天王4人を討伐。そして最終的に人類各国の連合軍10万を率いて魔王も討伐という偉業を達成してしまったのだ。
そして、『創造神教会』から俺は正式に勇者に認定された。【勇者】スキルが無いのにね……。
これには聖ノルリア教国、ゼリック王国だけではなく大陸中の国々がお祭り騒ぎとなった。
――――モリス王国以外は。
『モリス王国出身の勇者。魔王を討伐!』
この知らせに、当初俺は自分の事を言われているのかと思った。
確かにモリス王国は俺の出身地であるが、モリス王国には父上を殺された身であるため、あまり印象はよくない。
ゼリック王国のユルバ陛下もこの文言に眉をひそめ、各方面に連絡を取り合っていたようだ。
調査の結果、この話の出所がモリス王国であることが判明したため、モリス王国は手柄を横取りしようとしていると捉えることができると、ゼリック王国は公式に遺憾を表明しようとモリス王国の大使を呼びつけたのだが、なんとモリス王国の大使はとんでもない人物達を連れてきたのだった。
「この方々達こそ、魔王を討伐した勇者パーティーですぞ!」
モリス王国のゼリック王国駐在大使は、意気揚々と4人の男女を紹介し始めた。
抗議の場に参加していた俺を含めたゼリック王国側の面々は、
「え? 誰?」
といった状態である。
「えぇと、勇者パーティーという事は、シュドルツ公爵の部隊に所属していた者達なのですかな??」
ちなみに俺は魔王を討伐した功績により公爵へと昇爵し、ゼリック王国の第1王女と婚約した。
ゼリック駐在大使が何を言っているのかよくわからないといった様子のゼリック王国の外務大臣がそう尋ねるのだが、
「何を言うか。彼らこそ魔王を討伐した主力メンバー。勇者カルノック。聖女パルマ。戦士ガストロ。魔導士イルである!!」
「「「「「?????」」」」
俺を含めたゼリック王国のメンバーは、こいつら何を言っているの? 状態である。
俺達が訳が分からない紹介に思考停止をしていると、駐在大使は、
「ふん、どうやらそこの無能と呼ばれている人物が魔王を討伐したなどというデタラメな噂が流れているようだが、真実はこうなのだ。
我が国の勇者パーティーが単独で魔王軍討伐をした。ゼリック王国軍千人で四天王を討伐した? 連合軍10万で魔王を討伐した? はっ、貴様らはそんなホラ話をしてまでも功績が欲しいらしいな。
まったくもって欲深い」
などと暴言を吐くではないか。
「無能とは……。私の義理の息子にずいぶんな事を言ってくれるな。大使よ」
まだ結婚していないですよ陛下。
「ほほう。ゼリック王国は知らないのでしたかな?
彼が【剣王】【魔道王】【弓王】【槍王】【鑑定】【アイテムボックス】【料理人】【動物使い】【魔物使い】【聖獣使い】【毒耐性】【精神異常耐性】【魔法耐性】【呪い耐性】【体力自動回復速度向上】【魔力自動回復速度向上】【空中飛行】【転移】【鍛冶王】【錬金王】【潜水】【翻訳】【商人】【農業】【大道芸】【博打王】【植物使い】【算術】【敵意察知】【気配察知】【思考速度向上】【闘士】【斥候】【罠解除】【聖騎士】【暗視】【マッピング】【分体】【熱気耐性】【冷気耐性】【水圧耐性】【科学】【薬学】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【体力向上】【魔力向上】【魔力消費低】【気象察知】【自動防御】【防御力向上】【攻撃力向上】【アンデット特効】【魔獣特効】【釣人】【養殖】【幸運大】【革職人】【紙職人】しかスキルが無い事を」
うぉい! 久々に聞いたな。その早口。
「いや、それだけあれば十分では?」
と、たまらずユルバ陛下がツッコむ。
「いい加減にしてもらおうか」
するとここで自分こそが勇者であると名乗るカルノック。彼は俺を睨みながら声を上げた。当然俺には睨まれるようなことを彼にした覚えはない。
「そこに居るのは卑しい魔族の協力者。我々は今回彼を討伐に来たのです。
おとなしく引き渡してもらいましょうか?」
などと、偉そうな態度でそんなことを言ってきたではないか。
「貴様。どこの馬の骨かもわからぬような輩が、まだそのような戯言をいうのか!!」
普段は温厚な外務大臣が、聞いた事が無いような怒声を勇者カルノックへ浴びせた。
しかし、外務大臣の怒りなどどこ吹く風な様子の勇者は、
「ならば真実を確かめる為に、決闘をさせていただく!」
と、言い出した。
「いい加減にしてもらおう。勇者と詐称する詐欺師になんの権限があるというのだ?」
そんな外務大臣の問いに待ってましたと言わんばかりに勇者は懐から一枚の丸められた紙を取り出し広げて見せてきた。
「ここに"聖ノルリア教国の創造神教会本部"の認定書がある。これによりこの決闘は正当なものとされる」
「「「創造神教会本部!」」」
この世界の宗教の総本山である聖ノルリア教国の宗教団体本部からの認定書。
これはよほどのことが無い限りたとえ一国の王であっても逆らう事は難しい。
もし無視をすれば周辺国から顰蹙を買うどころか敵視されることになるのだ。
「詳しく見せてもらおうか」
「どうぞ? よくご覧くださいませ」
外務大臣は勇者から受け取った書類を食いつくように見る。
俺も気になり席を離れて外務大臣の後ろに立って見たかったが、そんなマナー違反な真似はできないので、外務大臣からの言葉を待った。
「これは……」
ようやく外務大臣が声を出したかと思えば、非常に困惑した様子であった。
「ははは。理解できたか? 教会も……いや、この国以外の全世界がカルノック様が勇者であることを認めた証拠だぁ!」
と、大使は機嫌よく笑い始めた。
まさか本当に教会はカルノックを勇者認定したのか?
「陛下。シュドルツ公爵。こちらを」
「む? ……こ、これは」
「えっと、はい……」
助けを求めるかのように声を掛けてきた外務大臣は、立ち上がり国王の席へと向かいユルバ国王へ書類を見せる。そして次に俺を呼び、俺へと教国の認定書を見せてきた。
「えっ」
そして認定書に書かれていた内容を見て驚いた。
要約するとこうである。
『創造神教会がモリス王国へと派遣した司祭が諸事情で交代して間もなく、モリス王国の使者と勇者と詐称する一団がゼリック王国に居る本物の勇者である"ライゼル=シュドルツ公爵"を討伐したいと申請があった。
カルノックは確かに【勇者】スキルを保有するが、教会が認定した勇者はあくまで魔王を倒したシュドルツ公爵である。
聖ノルリア教国でモリス王国をきっちり絞めておくから、偽物勇者であるカルノックの討伐をよろしく!』
と書いてあったのだ。
「大使殿……。こちらの書類はしっかりと目を通されたのですか?」
「あぁ。もちろんだとも!」
外務大臣の問いに自信満々といった様子で答える大使。
何がどうなっているか分からない外務大臣は俺や陛下の方を見た後目を泳がせていた。
「し、仕方がない……。教会の指示だからな。公爵、頼めるか?」
「え? は、はい……。これも呪いの力なのかもしれませんが?」
「いや、教会からこう言われているのだから、仕方がないだろう……」
ユルバ陛下の頼みを断るわけにはいかないので俺はそう答えたのだが、内心【勇者】スキル保有のカルノックに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
多分こいつら、謎の強制力に踊らされているだけだ。
しかし、俺はここで死ぬわけにはいかない。
たとえ【勇者】スキルを保有する者だろうとも退くわけにはいかない。
死ねば神に会う事が出来れば文句を言えるかもしれない。だけど、今死ぬわけにはいかない。俺はこの国で大切な人が多くできていた。
できればこの世界でその大切な人達と共に暮らしていきたいのだ。
おそらくそれは勇者も同じなのかもしれないが……。今の勇者たち。いや、モリス王国の民たちはまるで幻惑魔法を掛けられたかのように真実が見えて居なくなってしまっていた。
「では、はじめ!!!」
こうして俺は勇者と戦う事になった。
1対1の真剣勝負。場所は国の闘技場。
観客は多く、そのほとんどが俺への声援であった。
それでも勇者カルノックは怯むことは無い。
「ライゼル。君は自分が無能だからという感情から魔王の手先に落ちた。だが、努力をすれば今持っているスキルを活かし、人々に役立つことが出来ただろう。それを怠ったのは己の未熟さが原因だ。
おとなしく打ち取られてもらおう」
などとカルノックは言う。
「俺、自分の事をそこまで無能だとは思っていないよ? むしろスキルだけでの判断なら超有能になってしまう。
最初は天狗になってたかもしれないが、だんだんとこの力はスキルによるもので、俺の実力じゃないんじゃないかと思っていたからさ。
だけど、ある時この国のお姫様に相談したんだよ。そしてら、『スキルがあるからと驕らないのは貴方の立派な長所だと思います』と言ってくれた。
それからこの功績を恥じることなく、驕ることなく、スキルの有無なんか関係なく人間として素晴らしい人物になろうと努力してきた」
俺がそう答えると、
「何の話をしている? 今の君は真逆の存在だろう」
と、不快な表情を浮かべる勇者。
「あぁ。そうなのかもしれないな。それに、今の俺のセリフはスキルを持っている奴が言ってもあまり響かないだろう。むしろ例えば【剣士】スキルだけならば言えたセリフなのかもしれないが」
モリス王国の民は何かしらのバグにより、『ライゼルは【〇〇】スキルだけ持っている無能』という部分だけが強く認識されてしまっているのだろう。
【〇〇】=複数のスキル持ち。
だとしてもモリス王国の民には関係ない。
『ライゼル』=無能であり魔王の手先。
という認識で固まってしまっているのだ。
「一瞬で終わらせる!」
「可能ならな」
「減らず口を!」
ついに戦闘が開始された。
確かに【勇者】のスキルは絶大だ。
【剣王】よりも剣術は高く、【魔法耐性】スキルよりも魔法攻撃耐性に強かった。
しかし、【空中飛行】や【思考速度向上】、【算術】スキルを持つ俺よりも動きの速さは遅く、次の一手が遅れた。
俺に【分体】を6つ出されたカルノックは、次第に圧倒されはじめ、
「くぅぅぅぅ!」
【魔道王】【魔力自動回復速度向上】【転移】【妖精に好かれる者】【移動速度向上】【魔力向上】【魔力消費低】の組み合わせにより短距離転移を繰り返しつつ素早くカルノックの懐に飛び込み、彼の首を刎ねた。
勝負の分かれ目はやはり、スキルによる数の暴力と戦闘経験の差であった。
「「「「「うぉぉおおおおおお!!!」」」」」
周囲からの歓声。
その喜びの声には勇者の仲間や大使たちも含まれていた。
彼らの喜びは勇者が敗れたことによる歓喜ではないだろう。きっと、彼らの中では勇者ではなく俺が敗れたことになっているのだ。そうでなければ彼らの物語が終わってしまうと言っているかのように……。
勇者の仲間達と大使は気分爽快な様子で国へ帰っていった。
彼らを討伐しなかったのは、教会から"勇者カルノックの討伐"のみを指示されていたからだろう。
大使も国交断絶を言いつけられたので国へと帰ったのだが、その時の様子は、
「はっ、これで貴国は周囲の国から完全に孤立するでしょうな」
と言って去っていった。
最後まで無礼な奴であったが、これから彼らの事を思うと可哀想にもなってくる。
案の定、教国から敵国認定されたモリス王国は孤立することになる。
教国が率いる連合軍に次々と王族が打ち取られ、国としては崩壊した。
俺がどうにかしようと各方面に駆け回ったが無駄に終わった。
しかし、アクセルの助命嘆願だけは叶い、アクセルとその婚約者は見逃された。
討伐は異様に簡単だったそうだ。
なぜか勇者も居ないのに、モリス王国国王は勇者と第一王女の結婚記念パレードを攻め込まれている最中も行っていた。
パレードの最中、モリス王国と一緒に王城へと向かう連合軍。
捕まったり打ち取られた貴族や王族は、剣を突き立てられても笑顔だったそうだ。
連合軍にも多少の被害はあった。
それは捕縛されても祝辞を読み上げる貴族。問いただしても歓声や祝いの言葉しか言わない平民。
同僚が殺されても何食わぬ顔をしている兵士。
呪いに掛かっているのかと連合軍に同行している教国の司祭が解呪を試みても一向に改善しない。
話が通じず、異常な雰囲気であったモリス王国に対し、精神異常になってしまう連合国の兵士たちが多数発生したのだ。
こうなった原因を俺も色々な人と共に仮説を考えた。
その中に普通では考えられないが、そう考えれば分かる。というものがある。
「この世界は神が作り出した物語なのでは?」
彼が言うには、その日を含めた数日間が『神が考えたエンディング』だったからだろう。
この世界は神が考えた物語である、神の物語では【魔王討伐編】のエンディングはハッピーエンドを予定していた。
誰も悲しみの涙を流す者もなく、全員笑顔で物語を終えたのだ。
しかし、それを俺という異質な存在が全てを変えてしまった。
しかしエンディングだけは固定されているので登場人物の動きは変わらない。
「それは面白い考えですな。ですが、それはないでしょう」
と、その人物の考えは多くの人に受け入れられはしなかった。
しかし、俺だけは彼の仮説が引っ掛かり、一生頭から離れなくなった。時が経つにつれその考えは薄れていったが、ふとした瞬間、彼の言葉が思い起こされるのである。
その後、モリス王国は消えなかった。
統治しようと動き出した国もあったが、住民の誰もが話が通じず、モリス王国の通貨や法律をそのまま当たり前かのように使い続けた。
統治の為派遣されたとある国の貴族は従わない住民をただ殺すだけで精神異常になりモリスの地を去った。
そのようなことが何度も続き、聖ノルリア教国は正式にモリス王国の地を『魔境』と定め、許可のない立ち入りを禁じた。
住民はそのままにされ、モリスの地と接する国は国境の警備を強固にした。
モリス王国が封鎖される前、一度アクセルにも会ったが、とうとう俺の存在すら認識してくれなくなっていた。おそらくは俺は勇者に殺されていると認識しているのだろう。俺がいくら声を掛けても触れても反応は無かった。
一応ながらこうして世界に平和が訪れた。
魔王が居なくなったからといって、それ以降人間の国々で争うという事は無い。
モリスは例外なのだろう……。
世界は次の魔王の発生を警戒し、同盟関係を強める。
俺も一国の公爵という立場から、国を豊かにするために奔走している。
そして、モリスに残ったモリスの民は、今日も笑顔である。
~『勇者ライゼルの物語』END~
――。
――――。
――――――――。
―数年前―
一柱の神が不機嫌な顔をしながら下界を見ていた。
彼は世界を管理する神の一柱だ。
「何故俺がこんなことを……」
彼は別の神の代わりにとある世界の管理をすることになった。
仕事を請け負った理由は、彼が今から管理する世界の本来の神が大怪我を負い管理どころではなくなってしまったからだ。
「夫婦喧嘩であんなに怪我をするって、あいつなにしたんだよ……」
そう愚痴を言いながら仕事を始める代理の神。
「えっ、今日はこの世界の魔王を倒すための【勇者】スキルを授ける日だったの? アイツ、こんな重要な日を代理に任せるなんて……」
それは一つの世界の行く末を決める重要な日だった。
だというのに、そんな重要な日を他の神任せにしてしまう運のなさに代理の神は呆れた。
「それと? どれどれ。――――うわっ。人間側に裏切者が出るのか。
裏切者の名前はライゼル=フォールト。へぇ、スキルが【剣士】しか授からなかったことにより絶望し、悪の道に染まる。か……。
そして魔王軍の幹部、四天王の一人の副官となる。しかし、ライゼルのとあるミスにより勇者カルノックが魔王軍部隊の情報を知る事になり、これにより魔王軍は追い詰められることとなる。
なるほど、ライゼルという少年には悪いが、世界を救うためのきっかけになるのか……」
これからスキルを授けるライゼルは大切な役割がある。少し気に入らないが、本来の管理者である神が設定した役割である為、代理である自分は変えるべきではないと考え、代理神はスキル一覧から対象の【剣士】スキルを探した。
「さて、これを付与すれば――――ヘックション! あ――――っ」
代理神はちょうどライゼルが教会でスキルを付与されるタイミングでくしゃみをし、手元の操作を狂わせてしまった。
「あぁあああ!! スキルがとんでもない事に!」
更に本来ライゼルに与えるはずであった【剣士】のスキルではなく、その他大量のスキルを付与してしまったのだった。
「間違えた間違えた!! やり直し! やり直しを要求するぅぅぅう!!
え? できない!? そんなっ」
そして残念なことにやり直しも効かず、代理神は絶望してしまう。
「そうだ! 今付与したスキル全て【剣士】だけ取得したという認識をさせればいいんだ!」
そうして代理神はライゼルが取得した全てのスキルを【剣士】のみ取得したという認識を教会に居る者。そしてモリス王国全体に広げていくが、
「いや、駄目だ。この方法だと異常に強い【剣士】スキル持ちが誕生するだけだ! 中止中止」
中途半端に認識を拡大させた結果、ライゼル本人とモリス王国以外の人間にはこの認識は適応されなかった。しかも途中で中止したせいで認識の仕方も変化し、【剣士】スキルのみ取得の認識ではなく、59個のスキルを取得しても無能という認識に置き換わってしまうものになってしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ。どうしよう、どうしよう! そうだっ! これによって未来は変わるのか調べよう!
時の神の未来視の装置では……よしっ、問題なく魔王を討伐している! 悪役のライゼルが討伐しているが、問題ない。うん。なにも問題などは無い!」
結果、世界が救われているので問題なしと判断する代理神。
「うんうん。勇者の国がおかしくなっているけど、世界の均衡は保たれた! 俺は悪くない!」
こうしてライゼルの物語が始まった。
ライゼルが世界を救う事が確定した瞬間であったが、同時に世界に――いや、モリス王国に重大なバグが発生し同国の異常に繋がる事になってしまうが、世界は守られたので結果良ければ全てよし。と、代理神は見なかったことにした。
その後、職務に復帰した本来の管理神と代理神の間で大喧嘩が発生したのは言うまでもない。
~END~
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連載中小説『我が家の人形達が動き出したんだが、呪われているのだろうか?』もよろしくお願い致します。
2022.12.28 誤字報告ありがとうございます!