表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

何やってんだよッ! 『俺』

「オレが誰だかわかるか?」


 突然の話の展開に、面食らう。


「何バカなこと――」

「いいから答えろ。オレはふざけてもいなし冗談でもない。だから、お前も真剣に答えろ。答えによっちゃあ、お前を警察に突き出す」


 そこまで言われちゃ、俺だって黙っているわけにもいかない。

 半ばやけくそで、皓太の質問に答える。


「お前の名前は平野皓太。七月十六日生まれのA型。小学校の時のあだ名はメガネザル。今はバスケ部の部長でポジションはシューティングガード。スリーポイントシュートは百発百中、なのにフリースローになるとからきしダメ。ダンクシュートも外すってマジありえねぇ~」 


 どうだと言わんばかりに言い放ってやった。


「メガネザルは余計だ、白ブタ」


 ぐぐっ、よくもそのあだ名を口にしたな。

 クスっと皓太が笑った。


「お前のポジションは?」

「シューティングガード。ダンクは俺に任せろ」

「でも左からのシュートは問題外」


 耳に痛い事を言う。


「うるせぇ~よ。目下特訓中だよ。そのうち、お前の十八番のスリーポイントもお前より多く入れてやるからな。覚悟しておけよ」


 ズバッと人差し指を突き刺してやった。どうだ、参ったか。

 って、皓太は今にも泣きだしそうだ。


 怒ったり泣いたり、コイツ情緒不安定か?

 それとも女にでもフラれたか?


 すると、いきなり皓太が俺に抱きついてきた。


「ぐぇっ……なんだよ。気持ち悪ぃ~な。男に抱きつかれても嬉しくね~よ」


「幽霊だろうと何だろうと、この際何でもいいや。ホントに朔哉なんだな……」


 しがみつく皓太を、俺は必死の思いで引きはがした。


「いったい何なんだよ。ったく、朝から線香のニオイがしたかと思えば幽霊だと? 人を勝手に殺すなよ」

「お前……もしかして……」


 皓太は目をパチクリさせて、驚いたように声をもらした。


「……気付いてないのか?」

「何を?」


 尋ねる俺の顔を、皓太は唖然と見つめた。


「まあ、突然っていやぁ~突然だったもんな。たまにそういうヤツがいるって聞いたことあるけど、まさかお前がそうなるとはな……。抜けてるところはあったけど、そこまで抜けてるとは思わなかった。ああ、だからちゃんと足もあるのか……」


 皓太の言っている事が、まったく理解できない。


「足があるって……当たり前だろ、幽霊じゃあるまいし」

「気付いていなみたいだからハッキリ言うけど、お前、一年前に死んでんだよ!」

「……」


 今、何て言った?

 俺が死んだ?

 それも一年も前に?


「バカ言うなよ……俺は死んでなんかない。こうしてピンピンしてんじゃんっ!」


「お前は死んだんだよっ! 一年も前に。子どもを助けようとしてトラックにはねられたんだよっ!」


 驚きをはるかに超える衝撃的な言葉に、俺は何も言い返すことが出来なかった。


 パラレルワールド。


 映画や小説ではポピュラーな世界。

『この現実とは別に、もうひとつの世界が存在する』


 理解はしていても、それが実際に存在して別の世界に来たなんて信じられるかよ。


「マジかよ……」


 高架下の土手に腰を下ろした俺の肩を、皓太がポンポンと軽く叩いた。


「お前がこの世界に来たのには、何かしら意味があるんだよ」

「どんな意味があんだよ。ちょっと歩いただけでみんな俺の事バケモンでも見たみたいな顔してんだぜ」

「仕方ないだろ。こっちの世界じゃお前死んでんだからさ」


 皓太はすでに受け入れてるのか、どぎつい事をサラッと言う。

 俺はジロリと皓太を睨みつけた。


「死んでる俺に何が出来んだよ。死人に口なしって言うだろ」

「でも、お前は実際には死んでいない。違う世界に迷い込んだだけだ」


 俺に何しろって言うだよ……マジで分けわかんねぇ。

 頭を抱える俺に、皓太は更に難問をぶつけてくる。


「そのカバン。美月ちゃんのじゃね?」

「誰、それ」


 さっきもその名前が出たけど、誰だよその子。


「そっちの世界で会ってねぇ~の?」


 どんなに記憶をまさぐったところで、その名前に覚えはない。俺は知らない名前に首を振る。


「お前の彼女だろ」 

「マジか……俺、こっちの世界じゃリア充かよ」


 おい、『俺』彼女いんのに死んでる場合じゃねえだろ。

 文句を言ったところで、虚しいだけだった。


「お前さ、練習試合でケガしたことあっただろ」


 あったも何も、まさに昨日の事。


「ケガっつっても、ただの捻挫だよ。ほら、大したことない」


 そう言って、足首をグルグル回してみた。少し痛みはあるが普通に歩ける。


「え? 離断性骨軟骨炎で手術しただろ」


 りだんせい……こつ……、舌噛みそう。


「手術してたら今こんなとこに居ないだろ。ケガしたの昨日だぜ」


 皓太の目が丸くなる。


「お前の昨日は何日だ?」

「九月二十九日」


 さらに皓太の目が大きく見開かれた。


「お前、今何年生?」

「何バカなこと――」

「何年だよ!」


 また、皓太が怒鳴った。

 ったく、今日はこいつによく怒鳴られる。温厚な奴だと思ってたけど、認識しなおさないと……だな。


「二年だよ。お前と同じクラスだろ。寝ぼけてんのはどっちだよ」

「それだ!」


 皓太が叫びながら立ち上がった。

 俺もつられて立ち上がる。


「いきなりなんだよ」


「お前は高二の時、練習試合でケガをして手術をしている。その時に美月ちゃんと会ったんだよ。でも、そっちの世界じゃただの捻挫だから、美月ちゃんと出会えなかったんだ。お前の世界と、こっちの世界で一年もずれてる。残念だがオレはもう三年だ」


「は? ウソだろ。でもその子に会えなかったからって何でこうなるんだよ」


「知るかっ!」


 え~、今『それだ』って、叫んだじゃん。


 こっちの世界じゃ彼女がいて、でも、『俺』死んじゃってて……何やってんだよ、『俺』



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ