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お前は何者だ?

ピロピロピロピロ……。


  スマホのアラームが鳴った。

 アラームを止めようと枕元に手を伸ばしても、目当ての物が見当たらない。

 仕方なく起き上がって探してみると、何故か机の上に置いてあった。


 昨日枕元に置いて寝たはずなのに……。


 不思議に思いながらもおもむろにカーテンを開けると、眩い光が目を刺した。

 閉じた瞼をゆっくりと開けると、青い空が目に飛び込んできた。

 大きく伸びをすると、ブルっと身震いした。


「さむっ……」


 昨日は汗ばむくらいに暑かったのに……。


 もう一度布団に潜り込みたくなるが、時計を見ると七時三十分を過ぎていた。


「ヤバ」


 慌てて制服に着替える。

 ふと違和感を覚え、部屋を見渡してみる。

 妙に部屋が片付けられているのが気になって、記憶をまさぐる。


 確か、昨日の夜は愛読している小説の新刊を、夜遅くまで読んでいた。ベッドに横になっていたから、本は枕元に置いて寝たはずなのに、何故かきっちりと本棚に収まっている。


 それに床の上に置きっぱなしにしてあった通学用のリュックも、机の横のフックにかけられている。


 そして、何と言っても不愉快なのが、俺の写真が机の上に飾られ、その写真の横に花が飾られている。ご丁寧に大好物の豆大福まで供えられている。


 まるで俺が死んだみたいじゃないかっ! 嫌がらせにもほどがある。


 俺は写真立てを倒し、豆大福にかぶりつくと部屋を出た。


 昨日、母さんと喧嘩をした。

 最後に『うるせぇ~クソババアッ!』って捨て台詞を吐き、部屋に閉じこもった。


 だからってこんな仕打ちはないだろ。

 腐っても、一応ひとり息子だぜ、俺。

 高二の男子って言えば、思春期真っ只中なんだから、ちょっとくらいイキがったってバチは当たらないだろ。


 部屋から出ると、家の中がいつもと違うニオイがした。

 はじめは何のニオイか分からなかったけど、階段を下りていくうちにニオイが濃くなって、このニオイが何なのか分かった。


「何だよこれッ!」


 鼻をつく線香のニオイに、顔をしかめた。

 そこまでやるか?

 悪趣味としか言いようがない。


 両親は、俺が学校へ行くよりも早く家を出て仕事へ行く。

 だから、平日の朝はいつもひとりで朝飯を食う。

 でも、今日はその朝飯すら用意してなかった。当然、弁当もない。

 母親の意趣返しに頭きて、俺は支度を整えると家を飛び出した。


ったく、何なんだよっ!

 部屋を片付けろとかスマホばっか弄ってないで勉強しろとか、口うるさくガミガミ言うからちょっと口ごたえしただけじゃんか。


 ムシャクシャして、頭をガシガシとかいた。


「あ~、ハラ減った」


 さすがに豆大福一個じゃ腹の足しにはならない。

 ちょうど自販機の前を通りかかったから、炭酸で空腹を満たそうかと立ち止まった。


 ドクン……。


 心臓が大きく脈を打った。


 その時、ちょうど後ろでドサッと言う鈍い音がした。

 振り向くと、宇宙人でも見たかのような驚いた顔をした女の子が立っていた。


 あたりを見回しても俺以外に誰もいないし、もちろん宇宙人もいない……はず。


「……なんで……」


 驚きに声がかすれたのか、か細い声が女の子の口から洩れた。

 そして、女の子は踵を返し走り去った。カバンをその場に落としたまま。


「え? ――っちょっ……カバン!」


 俺はカバンを拾って、慌てて女の子の後を追おうとした。

 ズキッと足に激痛が走る。


 ……そう言えば昨日、練習試合でケガしたんだった。


「ハァハァ……あれ? どこ行った?」 


 足を引きずるように走って追いかけたけど、女の子の姿を見つけることが出来なかった。


 何で?

 何で逃げんだよ。

 俺、何かした?


 見たこともない女の子に突然逃げられ呆然としていたけど、ハッと我に返りスマホを見た。


――――八時十五分。


「やっべ、遅刻する」


 慌てて来た道を戻る。


 学校へと近づくにつれて、周りの人の視線が妙に気になった。

 はじめは気のせいかと思ったけど、明らかに視線が痛い。チラチラと見られているとかのレベルじゃない。


 容赦なくジロジロ見られ、挙句に俺を見てはヒソヒソと話をする。

気味の悪いモノでも見るかのように、青ざめるヤツもいるし、そうかと思えば、二度見した上に脱兎のごとく逃げ出すヤツまでいる。


 いったい何なんだよっ!

 俺の顔になんかついてんのか?


 口の中で悪態をついたところで、ようやく知っている顔を見つけた。

 平野皓太(ひらのこうた)。俺の親友。


 って、あいつ何であんなに怖い顔してんだ?


「目的は何だ? 今更何をしようっていうんだ?」


 ドスの効いた低い声で凄む皓太。皓太の顔はこれまで見たこともないくらい、怒りに歪んでいる。

 ムードメーカーで淀んだ空気を一気に明るくさせる皓太。人間空気清浄機って言われるくらいいつも穏やかな皓太が、怒り狂っている。こんな皓太を見るのは初めてだ。


「皓……太?」


 名前を呼ぶと、信じられないとでもいうように驚きに目を見開いた。

 すると、突然俺の腕を掴んで学校とは逆の方へと引っ張っていく。


「っちょ、どこ行くんだよ。学校は? サボんのか?」


 聞いても皓太は何ひとつ答えない。仕方なく皓太に従った。

 人気のない高架下まで連れて来られると、皓太は乱暴に俺の腕を振りほどいた。


「いったい何っ――」


 バシンッ!


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。けれど、次第に右の頬が熱を帯びてきて、ジンジンと痛みが湧いてきた。


 そこでようやく皓太に殴られたのだと気付いた。


「いってぇ~なっ! 何すんだよっ!」


 皓太の胸ぐらを掴み、勢い任せに拳を振り上げた。

 でも、皓太の哀しみに満ちた瞳に、急激に殴る気力が失せてしまった。


「ったく、何なんだよ、朝から。マジ分けわかんねぇ~」


 掴んでいた胸ぐらを、怒りとともに解放した。


「お前は何者だ?」


 皓太が静かに聞いてきた。


「は? 何者か……だと? 俺は朔哉だよ。谷村朔哉(たにむらさくや)! 小学生からのダチだろ。そんなのいちいち説明しなくたって知ってるだろっ! あ~も~、いったい何だっていうだよ。今日はエイプリルフールか? ハロウィンにしちゃまだ一ヶ月も先だろ? 新手のイジメかよ」


「お前、今何て?」


 目を丸くして尋ねる皓太の声は、明らかに動揺していた。


「あ? 新手のイジメか?」

「違うその前」

「エイプリルフールか?」

「違う! その後だ」


 皓太が少しイラついたように言葉を急かす。


「えっと、何だっけ……ハロウィンにしちゃまだ一ヶ月も先……だったかな」


 頭をガシガシとかじりながら答えると、皓太はポカンと口を開けて俺の顔を見た。


「お前、本当に谷村朔哉なのか?」


「そうだよっ! そんなことウソついてどうすんだよ。俺の顔は昨日と違うのか? ひと晩寝ている間に、誰か俺の顔に細工でもしたってのか? ……そういや、俺の顔見て宇宙人でも見たような顔して逃げ出した女の子がいたな」


「美月ちゃんに会ったのか?」


 皓太の口から知らない女の子の名前がでた。


「誰だ? お前のいう美月ッて子かは知らんけど、俺の顔見るなりカバン落として逃げ出した」


 そう言って、俺は女の子が落としたカバンを目の前にかざした。

 皓太は信じられないと言うように、首を振った。

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