美矢の手紙[晴海の視点]
美矢は、また明日来ると帰ってしまった。
美矢は、スケッチブックを置いて行ってくれた。
美矢が、昔に書いていた絵。
俺は、スケッチブックを一枚、一枚、ゆっくり捲る。
美矢が、大好きだ。
一緒にいたい………。
こんな目じゃなかったら…。
捲ったスケッチブックに手紙がはさまっていた。
[美矢へ]
引き寄せられるように開いてしまう。
[美矢の一番になりたかったわけじゃないよ。僕は、僕なりに美矢と生きて行く方法をずっと探していた。でもね、見つけられなかった。ごめんね。美矢の目の変わりになれなかった。それでも、美矢を愛してる。だから、右手は残してあげる。僕と一緒に逝ってくれるなんてありがとう。嬉しいよ。僕は、美矢とずっといたい。でもね、もしもどちらかが生き残った時は、新しい人を幸せにしてあげようね。 さと ]
さとさんは、美矢の前の彼だ。
読んじゃったよ。手紙…
俺は、そっと挟んだ。
次のページを捲った。
[絶望してるなら、描け。霧人との約束は、ちゃんと守れ。生きていけよ。どんな体でも…]
霧人さんのお兄さんのメモかな…
俺は、次のページを捲った。
真っ黒の絵を描いてる。
美矢は、もう失いたくないんだよね。
でも、俺は美矢に酷いことを言った。
ごめんね、美矢。
俺は、右目を触る。
美矢をいろんな所に連れていってあげたかった。
明日、包帯がはずれる。
美咲晴海は、どんな顔になっているのだろうか?
目の見え方は、きっと変わらない。
はずれたところで、何も嬉しくなどない。
スケッチブックを捲る。
美矢も苦しかったんだよね。
俺に会うまで、どれだけ絶望を重ねた?
苦しみを重ねた?
俺に出会って変わったのかな?
美矢の人生を幸せにできてる?
スケッチブックを捲った。
[死神だ。また、人を殺した。]
美矢が書いた字なのだろう…。
また………。
俺の事も、そう思ったのかな……
黒い絵が、続いてる。
残りのスケッチブックのページは全部真っ黒だった。
小さなスケッチブックを置いて行ってくれたのも広げる。
[晴海とやる事リスト]と書かれている。
俺は、それを見つめる。
ブー、ブー
「はい」
『ごめんね。ゆっくり出来なくて』
「美矢…。」
『今は、何してる?』
「美矢が、置いていった小さなスケッチブックを開いているよ」
『晴海とやる事リスト見ちゃった?』
「うん」
美矢は、嬉しそうに笑ってる。
『それは、まだ一部なんだけど…。鞄にいれたはずなのに、なかったから忘れたかどうか聞きたかったんだ。』
「わざと、忘れたんでしょ?」
『そんなわけないよ。それは、恥ずかしいスケッチブックだから』
美矢が、真っ赤になっているのがわかる。
スケッチブックを見て言う。
「美矢、空市の仕事のお手伝いって何をするの?」
『天使の絵を描きに行くんだ。晴海には、僕のサポートをしてもらいたい。駄目かな?』
「駄目じゃないよ。」
美矢の声に、泣いてる。
『泣いてる?大丈夫?』
「うん…。あのね、美矢の手紙を見ちゃったんだ。」
『あー。さとからの手紙と霧人の兄の手紙を取るの忘れていたよ。読んでも構わないよ。』
美矢は、そう言って笑ってくれる。
「美矢は、死神なんかじゃないよ。俺は、美矢のせいでこうなったんじゃない。俺がやってきた事で、こうなっただけだよ。美矢のせいじゃない。それだけは、わかってね」
『晴海…。でも、僕に出会わなかったらそんな事されなかったんだよ。彼が、ハッキリ言ったから僕にはわかる。』
「美矢に出会わなかったら、俺はずっと一人ぼっちで生きていたよ。わかるんだ。渚以上の存在なんているはずないって思ってた。だけど、美矢に出会って俺は全てを捧げたいと思った。美矢が、いない人生は嫌だと思った。」
美矢が、泣いているのがわかる。
『今の晴海と僕は一緒にいたいよ。そのままの晴海と生きていきたい。』
「美矢、俺、何もなくなっちゃったよ。料理もギターも目も腕も…。全部なくなっちゃたよ。何もかも…。」
『何もない事ないよ。僕がいる。命だってある。晴海を愛してくれてる人だって沢山いる。だから、何もないなんて言わないで。』
「一人でいるとおかしな事しか考えない。苛立ちで、みんなを傷つける。だから、一人でいたい。なのに、一人でいるのが怖くて…。美矢、どうしたらいい?」
『僕が、傍にいるよ。』
美矢を愛してる。
何もない俺でも美矢に愛されていたい。




