嫌われたね[栞の視点]
「こんなに素敵なお店なら、通いたいぐらいだよ」
坂月さんは、笑っていた。
華がワインを持ってきた。
写真の話をすると、坂月さんの周りの雰囲気はもっと変わる。
キラキラして、まるでダイヤモンドみたいだ。
化け物がついていないから、華は人見知りしてるのではないだろうか?
魚料理を持ってきて、華がいなくなった瞬間に坂月さんは、ため息をついた。
「はぁー。嫌われてしまったみたいだね」
「大丈夫だと思いますけど」
「そうかな…。まさか、美咲華君があんなに可愛らしい人だと思わなかったから、正直ドキドキしてる。」
そう言って、坂月さんはワインを飲んだ。
「藤堂さんも美人だから、その従兄弟はどんな人だろうと思っていたけれど…。あんなに可愛いと思わなかった。」
タクシーの中で、従兄弟だと話した。
「華を好きになったのですか?」
「一目惚れなんて、本当にあるんだね。口から心臓が飛び出そうな程、ドキドキしてる。」
魚料理を食べ終わった坂月さんは、胸を撫でながら言っていた。
「こちら、お口直しにソルベをどうぞ」
何故か、椚ちゃんがやってきた。
「ありがとうございます。」
「お下げいたします。」
椚ちゃんは、お皿を下げて行く。
「やはり、嫌われたみたいだね。」
坂月さんは、ソルベを食べている。
「お料理も雰囲気も、素晴らしいから通わせてもらいますよ。藤堂さん」
「はい、お願いします。」
あんなに頬を赤く染めていたのに、嫌ってるはずない。
「お待たせしました。」
椚ちゃんが、お肉料理を持ってきた。
「少し、失礼します。先に、食べて下さい。」
「はい、どうぞ」
坂月さんは、そう言って笑った。
キッチンに行くと、華が詩音の手伝いをしていた。
「華」
「なに、しおりん」
「坂月さんの事、嫌い?」
「初めて会った人に嫌いとかないから」
「誰、それ?」
「一緒にきてる人。るか君の友達なんだ。」
「るか君の?」
詩音は、驚いた顔をしながら僕を見つめた。
「華になんか関係あるのか?」
「それは、別に関係ないよ。写真家さんだから、写真撮ってもらったらと思って」
華に合う人だから連れてきたなんて言えなかった。
「もう、戻るよ」
「栞ちゃん、俺も行くよ。一緒に」
椚ちゃんが、戻ってきた。
「詩音」
「華、火見ててね」
詩音は、僕についてくる。
「何で?」
「俺に任せて」
そう言って詩音は、テーブルにやってくる。
「初めまして、美咲詩音です。」
詩音の事を見て坂月さんは、お肉を食べる手を止めた。
「失礼しました。坂月伊吹です。」
名刺を渡した。
「写真家さんなんですね。どんな写真を撮られてるのですか?」
「はい、こちらになります。」
小さなブックレットを差し出す。
「これは、素敵な写真ですね」
「ありがとうございます。」
「これは、もらってもいいでしょうか?」
「はい、どうぞ。大丈夫です。」
「では、ごゆっくり」
詩音は、頭を下げてキッチンに戻った。
「すみません。」
「いえ、お肉料理も素晴らしいですね」
「お口に合ってなによりです。」
「藤堂さん、私はまたこのお店にきますよ。藤堂さんのお友達として」
そう言って、坂月さんはワインを飲んだ。
僕も、お肉料理を食べる。
どうにか、坂月さんと華がうまくいく方法はないのだろうか?
「藤堂さん、どうかされましたか?」
「いえ」
「美咲華さんのお兄さんですか?美咲詩音さんは?」
「はい、そうです。」
「やはり、美形な家系ですね。」
「あっ、あの、写真を撮って欲しい人がいるのですが…。」
「構いませんよ。お時間が合う時でしたら」
「また、連絡させていただきますね」
「はい、大丈夫です。」
坂月さんは、ニコッと微笑んだ。
その笑顔から、本当に優しいのがわかる。
まるで、月みたいだ。




