生きて欲しい[詩音の視点]
打ち合わせが終わり、悩んでいた。
この絵を初めて見た日に、晴海は安西さんに恋をした。
ずっと、渚君に囚われていた晴海に、そんな気持ちが沸き上がった事が兄として嬉しい反面複雑だった。
「詩音さん、迎えにきたよ」
「優君、帰ろうか?」
「はい」
そう言って、店を出た時だった。
「晴海のお兄さんですよね?」
「誰だ?」
いきなり男に声をかけられた。
「少し話せる?」
そう言われて俺は、店にいれた。
「コーヒー買ってくる」
優君は、そう言って行ってしまった。
「晴海のお知り合いですか?」
「いや、晴海の元彼だけど」
「あんたが、晴海を…」
「まあ、まあ、怒らないでよ」
そう言って男は、俺を見つめた。
「晴海の前には、二度と現れないんじゃなかったのか?見逃してもらったんだろ?」
俺の声に、優君がコーヒーを落とした。
「ごめんなさい。」
「見逃してなんて頼んでないけど。」
「だったら、警察に行くんだな」
「行くわけないだろ?」
男は、嬉しそうに笑う。
「なら何で、俺に近づいた」
「あんただけじゃないよ。あの男とも話した」
「何でだ、これ以上晴海を傷つけないでくれ」
「晴海は、目が見えなくなったんだな?」
そう言って男は、楽しそうに笑った。
「腕もだろ?肩のいい場所を刺した。どっちに転ぶかはかけだったけど…あんたの反応とさっきのやつの反応見たら、うまくいったみたいだな。」
「ふざけんな」
「詩音さん、駄目」
殴ろうとする俺を優君が押さえた。
「晴海は、俺から全部奪ったのに…。自分だけあいつと幸せになろうとする。そして何より一番をあいつにあげようとした。許せなかった。わかるよね?一番は、ボイスレコーダーの彼なわけだろ?なんで、あいつには一番が奪えるんだ?おかしいだろ?間違ってるだろ?」
「だから、晴海を傷つけたのか」
「晴海が、二つの目であいつを見れないようにしただけだよ。二つ共、見えなくしてもよかったんだけど…それじゃ楽しくないからね」
男は、楽しそうに笑ってる。
「楽しいって、どういう意味だよ?」
「これから、晴海が人生に絶望するのを見届けるんだよ」
「もう、晴海に近づくな」
「嫌だね、最後まで見届ける責任があるんだよ。」
「あんた、頭おかしいのか?」
「晴海が、人生を壊した責任はとってもらうから…」
「それって、晴海が死んでもいいって事か?」
「そうなるなら、一緒に行くつもりだよ。お兄さん」
そう言って、そいつは出ていった。
「詩音…」
いつから聞いていたのか、華がいた。
「あの人、とんでもないのといたんだけど…。」
ガタガタと華が震えていた。
「晴海を傷つけたやつだ」
「詩音さん…。どうするの?これから…」
「わからないよ。わからない」
晴海には、会えないし…
変なのが見張ってるから動けないし…
「晴海、殺されちゃうのかな?」
「華、縁起でもない事を言うな」
「でも……。」
昨日の晴海を思い出して泣いてしまった。
「目や腕が使えなくなった事をあんなに楽しそうに話されるなんて。なんで、あんなの庇うんだよ。」
机を殴り付けた。
「詩音さん、店のopenは遅らせよう」
「わかってる。」
「詩音、ごめんね。」
「華が謝る必要はないよ」
「安西さんが、晴海の力になってくれるって僕、感じるんだ。だから、僕達は、見守ろう。ね、詩音」
「わかってるよ」
華も優君も俺も、涙が止められなかった。
「あんなのに、晴海が傷つけられて、人生を奪われた事が許せない。」
俺は、守ってやれなかった。
兄貴なのに、何も出来なかった。
渚君の時も、華の時も…。
「詩音は、何も悪くないよ。」
華は、そう言ってくれるけど俺は、俺を許せない。
「もう、目が見えないんだよ。腕だけでも、何とかしてあげたい」
「そうだよね」
「詩音さん…。」
「どうにかしてやりたい。晴海には、生きていて欲しい」
華と優君が、俺を抱き締めてくれる。
晴海には、生きていて欲しい。
なのに、さっきのやつが…。
どこまでも、晴海を苦しめる気がするんだ。




