また会いたい[栞の視点]
大貴に抱きしめられたまま、僕は朝を迎えた。
「結局、栞が期待した事を出来なくてごめんな」
大貴は、僕に水をくれる。
「こっちこそ、ごめん。」
僕は、指輪を箱にしまった。
それを、大貴に返す。
「また、会いたい。最後に会う日に返してくれ」
大貴は、僕に笑いかけた。
「優しくされると、辛い」
「それでも、優しくしたいんだ。」
大貴は、僕の頭を撫でてくれる。
「栞、少しだけ俺に時間をくれないか?我儘なのは、わかってる。それでも、栞が麻美さんとの未来に進む、協力をしたい。駄目かな?」
僕は、首を横にふった。
駄目なんて言えば、この関係は終わる。
終わらせたくない。
僕は、また大貴に会いたい。
もっと、触れて欲しい。
心の中から、消えるまで燃やし続けてよ。
大貴……。
「栞、泣くなよ。俺、栞の中からちゃんと消えるから…。約束するから」
そんな約束をされるなんて思わなかった。
「わかったよ、大貴」
僕が望んだ事だったのに、胸が苦しい。
「今日も、ここに来てくれないか?待ってるから…。」
「わかった、じゃあ行くよ」
大貴は、僕にキスをしてくれた。
ホテルを出て、電車に乗った。
スマホの電源を入れた。
詩音からのメッセージを読んだ。
晴海が、怪我をした事、誰にも会いたくない事が書いてあった。
駅で、月に会って話をした。
僕は、そのまま詩音のお店に向かった。
「栞ちゃん、何かあった?」
「椚ちゃんは?」
「海の華に仕込みに行ってる。」
「そっか。あのね、詩音、僕、大貴に会ってね」
詩音は、僕を見た。
「忘れられなかった?」
「うん」
「仕方ないよ。結婚したかった人なんだから…。」
詩音は、僕の肩を叩いた。
「あっ、でも、麻美ちゃんにはちゃんと話すんだよ。彼女なら、わかってくれるから」
「わかってる」
僕と詩音が、話し終わった頃に安西がやってきた。
「ごめん、遅くなった」
「全然、大丈夫」
僕と詩音と安西は、店に入る。
「詩音は、どんな感じがいいの?」
「そうだな、ここに天使は欲しいかな。でも、まだ少しだけ考えたい。駄目かな?晴海の事もあって」
「大丈夫だよ」
結局、一時間で終わった。
「僕は、帰ります。」
「僕も、麻美と話すのに帰るよ。詩音は?」
「椚が来るまで、ゆっくりしておくよ」
「わかった。じゃあ」
「じゃあ、バイバイ」
そう言って、安西と一緒に外に出た。
「じゃあな。藤堂」
「うん」
僕は、麻美に電話をかける。
安西も、一緒に帰ればよかったのに…。
誰だろう?あれ?
安西は、誰かと話していた。
「栞、帰ろうか」
「麻美、うん」
僕は、麻美の車に乗った。
「昨日は、楽しかった?」
「えっ?うん」
麻美は、僕を見ない。
「麻美、僕。」
「大貴さんが、忘れられないんでしょ?」
麻美の言葉に、僕は答えられなかった。
「別に、私は何も思わないよ。栞が、子供や結婚に縛りつけられてる気がする。それを拭えるのが、月さんか大貴さんのどちらかでしかないのなら…。私は、見守るつもりだよ。」
麻美の言葉に、胸が苦しくなる。
「ごめん。」
「謝らないで、私は栞に入院していた時の絵を描いて欲しいの…。」
「麻美…」
「栞の気持ちが、救われるまで待ってるから」
「僕は、麻美を幸せにしたい」
「栞は、いつも私の幸せばかりを優先して…。自分は、後回しだった。だから、今回は自分を優先にして。大貴さんとの事、ちゃんと終わらせてきなよ。」
「麻美、芸術家と付き合ったからとかいう理由なら、やめてよ。本当は、嫌でしょ?」
「嫌なのは、栞の寝言だよ」
麻美の言葉に、僕はビックリした。
「寝言?」
「大貴さんの名前を呼んでるのが、嫌なの。お願いだから、ちゃんと彼を栞の中から消してよ。」
コンビニの駐車場で、麻美は車を停めて泣いた。
「ごめん。ちゃんと消してくるから…。」
「それまで、家に帰ってる。お母さんの看病もあるから…。栞、抱かれて忘れられるなら抱かれてもいいんだよ。私なんか捨てたっていいんだよ」
「僕は、麻美がいなくなったら生きていけないのに…。わかってるのに、ごめんね。ずっと、大貴を追い出せなくて」
「彼がいるのに、愛してるって言われるのが嫌だった。栞にとって、結婚も子供も諦めたくなかったのわかるよ。だから、大貴さんとちゃんと終わりにできたら迎えにきてよ。それまで、待ってるから」
麻美は、僕にキスをしてくれた。
幸せを掴みかけたら、離れていってしまうのは、僕がちゃんと大貴を消せていないからだ。




