星生きててくれよ[時雨の視点]
俺は、星からの連絡に涙が止まらなかった。
月君は、女の人と結婚するのか?
そして、迷う事なく星を捨てるのか?
最悪じゃねーかよ。
描いた未来は、破滅の方へゴロゴロ転がってるじゃないか
俺は、星と電話を切って氷雨にすぐかけた。
「兄さん、どうしたの?」
「氷雨、今話したい。一人になったら連絡くれ。」
「待って、部屋に行くから」
氷雨は、部屋にあがってく。
「大丈夫だよ。」
「星を助けてやって欲しい」
涙がとまらない。
「僕が、助けられる?」
「やれなくても、やってくれ。星が、壊れてしまうんだよ。生きてたくないって言うんだよ」
うまく言葉を繋げずに、泣いてしまう。
「兄さん、何を言ってるの?」
「月君の記憶がなくなって、出会いを探し始めた。結婚相手が見つかるまで、星が月君にお金を貸すらしい。見つかったら、捨てられるって…。俺に殺してって」
「そんな何で、星が悪いことをしたわけじゃないでしょ?」
氷雨が、泣いてるのを感じていた。
「氷雨、今の星に必要なのは愛されてるって感じれる気持ちだよ。だから、明日星に会ってきてくれないか?」
「何時?」
「時間は、しらないけど。氷雨から連絡してやってくれよ。場所、俺が用意しとくか?」
「いい。僕が、星を連れてくから」
「利用したくないって言ってたけど、利用されていいんだろ?氷雨は…。」
「いいに決まってるよ。僕は、星の役に立ちたいんだ。これから先もずっと…。」
「よろしく頼んだぞ」
「わかってる」
そう言って、電話を切った。
氷河の時も思ったけど、神様なんていないな。
いるなら、記憶をとっとと戻せよ。
星を幸せにしてやってくれよ。
ガンッと机を叩いた。
悲しくて、悲しくて、堪らなかった。
「もしもし」
「どうした?」
「星から、連絡あって」
「そんな、酷い事あるの」
「だろ?氷雨に会いに行ってくれって頼んだ。」
「矢吹、大丈夫かな?俺、栞さんに連絡しておくよ」
「よろしく頼むよ。」
「わかってるよ。時雨、俺たちで矢吹の命は守ろうな」
「わかってる」
「じゃあ」
「ああ」
まやたくと電話を切った。
今は、星に出来ることをしてやりたい。
それが、正解か間違いかなんてわからない。
ただ、今の星は愛を失くした。
月君が、星に与えていたあの穏やかな愛を失くした。
どこにいっても、あの愛は手に入らないのがわかる。
誰に頼んだって、貰えやしないのもわかる。
俺は、今、氷河の愛を受け取っているから星の気持ちが痛い程にわかるんだ。
だから、あの愛のかわりなんてない。
でも、氷雨に愛されてるって思うだけで少しは違うだろ?
星、少しは心が救われるだろ?
月君の記憶を一日でも早く戻せよ。
星をまた愛してやってくれよ。
俺に見せてくれた二人の愛をまた見せてくれよ。
たいした願いも叶えてくれない神様なんて、いてもいなくても一緒だよ。
ブー、ブー
「もしもし」
「あ」
「氷河か?」
「う」
氷河は、さっき言葉を話せた。
「し、し、」
「いいよ、無理すんな。」
俺は、氷河に寝る前にお話をするのが日課だった。
「今日のお話は、何がいいかな?」
あの日から、大量に絵本や小説を買った。
氷河が、言葉を話せるように眠る前にお話をする。
「これかな?」
「な、な、いて、てる?」
「えっ?」
「な、な、な、いてる?」
「気づいたの?」
「う」
「そうか…氷河は、すごいな。俺の事ちゃんと見て愛してくれてる。でもさ、今、俺この愛を失くしたら生きていけないよ。わかるんだよ。それぐらい愛されてるから」
氷河が鼻をすする音がする。
「泣いてんのか?愛してるよ、氷河。」
何も話さなくたって、氷河が俺を愛してるのがわかるんだよ。
眼差しや行動や鼓動や体温や、電話の息づかいや…。
だから、大丈夫だよ。氷河。
「じゃあ、今日は俺が氷河を愛してる話しでもしようか」




