頼んでいた事[月の視点]
朝、目が覚めてコーヒーを飲んで家を出た。
駅前に歩いてきた。
「月、また会うと思うんだ。」
「そうならなかったのか?」
「うん、ならなかったよ」
「晴海君の事は?」
「聞いたけど、今は誰にも会いたくないって詩音から聞いてる」
「そっか、打ち合わせだろ?」
「月は、病院か?」
「うん、じゃあ。麻ちゃんと話せよ」
「わかってる」
俺は、栞と別れて電車に乗った。
どうするかな…。
朝七時過ぎに家を出てきたから、ゆっくり歩くか…。
月城病院近くの駅で降りた。
これいいな、カシャ、これも、カシャ、これも、カシャ…。
スマホ片手に写真を撮りまくる。
これも、いいな。カシャ
気づいたら、二時間は経っていた。
婆ちゃんと爺ちゃんとこ、早く行かないと…。
俺は、スマホの写真を送信した。
月城病院のロビーを抜けると、安西を見つけてしまった。
安西に、話しかけようと思ったのに梶屋と一緒に空いてる病室に入ってしまった。
話を全部、盗み聞きしてしまった。
梶屋が、天才眼科医なのは知ってる。たった、数年で難しいオペをいくつも成功させた。若きホープだ。
安西に、酷い事を言ってしまった。
考えなしに、あんな事言う奴じゃないのはわかっていたのに…。
「婆さんと爺さん、生きてるな」
宇宙兄さんに言われた。
「よかったよ。本当に」
俺は、婆ちゃんと爺ちゃんを見つめた。
「月の声、聞いてるから目覚ましたいのかもな」
流星が笑って言ってくれる。
「暫くは、安心だって、担当医も言ってたよ。」
「そうか、よかった。」
俺は、暫く婆ちゃんと爺ちゃんを見つめていた。
あまり長いする事が出来ないのが残念だった。
「行くか」
「うん」
「じゃあ、月。後でね」
「わかった。」
早いけど、ロビーに行った。
安西が、ロビーの椅子に座っていた。
「安西」
「橘、さっきはごめん」
「何かあったのか?」
安西は、晴海君を傷つけた相手にあった話をしてきた。
「何としても晴海の目を戻したいんだ。」
「ついてきて」
俺は、安西を連れて院長室にきた。
「きたよ」
「美矢君、来てくれてよかった。」
「宇宙さんと橘のもう一人のお兄さん」
「橘流星です。よろしく」
「流星さん、よろしくお願いします。」
さっき、俺が送った写真を宇宙兄さんはテーブルに置いた。
「美咲晴海さんの目を治したいんだろ?美矢君」
「はい、梶屋が治せるんでしょうか?」
「それは、無理だよ。」
宇宙兄さんは、安西の隣に座った。
「そんな…。」
安西は、自分の膝を殴った。
「美矢君、ここからは、月の兄としてお話をしようか」
「はい」
そう言って俺の撮った写真を見せる。
「美矢君の手の時に言われなかったかな?私達、医者が出来る事は僅かだと…。」
安西は、何かを思い出したような顔をした。
宇宙兄さんは、安西に続ける。
「ここからは、可能性の話をするよ。美咲晴海さんの目は、医学では100%不可能だと言うだろうね。でも、私は例え0.1%可能性でもかけてみて欲しいと思うんだよ。」
「宇宙さん、それって…」
「美矢君が、頑張るって事だ。君が、美咲晴海さんの主治医になるんだ。この写真を使いなさい。」
「これは、何ですか?」
「色鮮やかな写真を月に流星がたくさん撮らせた。美咲晴海さんが、見たいと思うものをたくさん見せてあげて欲しい。流星は、月に言われて色々調べた。その結果、もしかすると僅かな光を感じれるようになるかも知れないって事がわかった。医者としては、不可能としか言えない。でもね、可能性は0じゃないんだよ。美矢君。」
宇宙兄さんの言葉に、安西は俺を見た。
「橘、ごめん。僕は、橘が何も考えていないと思っていた。ごめん。」
「謝らないでいいよ。安西が、晴海君を助けたいと思うように、俺だって助けたかったってだけだよ。」
宇宙兄さんは、安西の肩を叩いた。
「晴海さんは、寂しそうにしていたよ。あの頃の美矢君のように、一人ぼっちになろうとしてる。この写真持って、会いに行っておいで。」
「ありがとうございました。」
安西は、そう言って出ていった。
宇宙兄さんは、それを見ながら笑っていた。




