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みんなの愛らぶyou(仮)  作者: 三愛 紫月
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それなの?[安西の視点]

一日考えたけれど、答えは出なかった。


僕は、スケッチブックを持って晴海さんに会いに来た。


晴海さんの病室に向かう途中で、声をかけられた。


「みーやー君」


その声に、驚いて顔をあげた。


「梶屋……。」


「先生って、つけないとダメだぞ」


そう言った、目は笑っていなかった。


「ちょっとこっち」


無理やり、空き個室に引っ張られた。


「何?」


「最近、診察に真面目にこないから、こっちから来てやったんだよ。ありがたく思えよ。」


梶屋は、僕の髪をかきあげて右目を見つめてきた。


「やめてくれ」


「その言い方、なに?診察には、これないのに…。彼氏の為なら、ここに来れるんだね。」


僕は、梶屋に苛立ちを覚えた。


「だったら、晴海の目を治せよ。僕の目なんかどうでもいい。あげたっていい。天才って言われる眼科医なんだろ?だったら、治せよ」


ガンって、壁に力任せに押しつけた。


「美咲晴海さんの目…。それは、無理な話だよ。あんなに殴られてやってきたんだよ。目が、残ってるだけでもありがたいと思ってもらわなくちゃ」


「ふざけるな」


「美矢君、離してくれないか?」


僕は、梶屋から手を離した。


「一回寝ただけで、何でもお願いが叶うと思ったら大間違いだよ。」


爪をカチカチと鳴らす癖は、高校の時と何もかわっていない。


「美矢君が、星の森高校にいるのがわかったから、医大付属高校を蹴ってまで、傍にいったのに…。なのに、一度しか抱いてくれないんだから」


「天才眼科医で有名なら、治せるだろ?無理な事なんてないだろ?」


梶屋は、爪をカチカチ鳴らす。


「無理だよ。だけど、美矢君が私のお願いを聞いてくれるならどうにか出来る方法を調べてあげてもいいよ」


「それで、治せるのか?」


「治せるかどうかは、わからない。私は人間で神様ではないよ。ただ、調べてあげるって言っただけ…。でも、彼を裏切る事になってもいいのかな?」


ジリジリと近寄ってくる。


「か、か、考えさせてくれ」


「構わないよ。美矢君」


梶屋は、鼻で笑って部屋を出ていった。


梶屋は、天才眼科医として有名だった。


晴海の目を、どうしても元に戻してあげたかった。


「お前のやりたかった事ってそれなのか?安西」


個室の病室を出ると、橘が立っていた。


「関係ないだろ、橘に」


「それは、晴海君を裏切って、梶屋のものになりますって話しか」


「梶屋は、天才眼科医なんだよ。橘だって、知ってるだろ?」


「だから、何だよ。目が治れば、安西の人生はどうでもいいのかよ。俺だって、晴海君の目を治してやりたいよ。」


「どうでもいいよ。僕の人生なんて!わざわざ、こんなとこまで、僕を追いかけて説教する気だったんだな。」


「ここに来たのは、婆ちゃんと爺ちゃんに会いに来たんだ。そしたら、安西が見えたから声をかけようと思ったら…。梶屋と話していたから…ちょっとこい」


橘は、僕の腕を掴んだ。


「離してくれ。説教なんて聞きたくない。たかだか、男が抱かれるくらいたいした事ではない。そんな簡単な事で、愛する人の目が治るならば、僕は何だってするよ」


バチン…


橘は、グーで殴りたい気持ちを堪えて平手で僕の頬を叩いた。


「お前、最低だな。二時間経ったら、ロビーに来い。安西に話したい事がある。」


橘は、苛立ちを必死で押さえながら去っていった。


最低だった。


「聞いちゃいました。」


華君が、立っていた。


「あの、これ晴海に渡してもらえますか?僕は、今日は会えない。」


「僕も会いたくないと晴海に言われてますから、渡せません。気が向いたら行ってあげて下さい。」


「そうだったんだね」


「安西さん、何かあったんですか?」


晴海に似てる華君の目には、誤魔化す事が出来なかった。


「さっき、美咲さんの店の絵の打ち合わせをしてきたんだ。一時間だけだったから、そのまま晴海に会いに来ようと思って歩いていたら声をかけられた。彼は、晴海の事を傷つけた相手だった。」


「何か言われたんですか?」


「どうやら、右目が見えなくなってる確信があるようだった。今日僕を見て、それが確証に変わったと言った。」


華君は、涙を流している。


「よかったって、僕を映す瞳の一つを壊せてよかったって、笑ったんだ。晴海があんな事になったのは、僕のせいだと言われた。だから、どうしても晴海の目を元に戻してあげたかった。」


「そんな酷い事を言われたんですか…。安西さん、晴海のために」


「ごめん、華君。また、後で来るよ」


「わかった」


僕は、ロビーに向かって歩きだした。


晴海の目を元に戻してあげたい。


あの人の笑った顔が、頭にこびりついて離れなかった。



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