泣いてるのは君のせい[星の視点]
帰宅して、ベッドに寝転んで指輪を見ながら泣いた。
るかがつけてくれた指輪をはずせずにいた。
僕だけ覚えていて、辛い。
月は、何も覚えていないのだ。
ノックの音がして、僕は涙を拭って出た。
コーヒーのカップを落としたのは、月の目が嫌悪感に満ちていたからだ。
不気味…。
その言葉は、僕の身体中を駆け巡った。
痛くて、死にそう。
コーヒーカップを見つめるしか出来なかった。
僕は、月が結婚する為の彼女を作るための、お手伝いする人なのか?
君の将来に課金しろといいたいのか?
僕ではない誰かの元に行く月の為に、僕はお金を貸すのか?
カップをキッチンに置いた。
部屋にはいって、つけていた指輪を投げ捨てた。
氷雨に会う。
僕は、氷雨に会ってやる。
もう、月なんかいらない
僕は、指輪のケースも投げつけた。
ジリジリと胸の奥が、熱くて苦しくて、胸が締めつけられる。
僕は、月と一緒にいたかった。
「ああー。」
枕に顔を埋めて、泣いた。
震える手で、僕は電話してた。
「もしもし」
「もう、生きていたくなどない」
「星、そんな事言うなよ」
「月が、マッチングアプリで女の子に会うために僕は金を貸すんだよ」
「なんだよ。それ?」
「僕は、月が結婚相手を見つけるまで課金してあげるんだ」
「星、大丈夫か?」
「貢いで、貢いで、捨てられるぐらいなら。いっそ殺してよ」
「まだ、記憶もどるかもしれないだろ?」
「男を好きな気持ちを不気味と言った。僕が、男を好きなのか聞いて、嫌悪感に満ちた目をした。月の記憶のどの部分が戻ればそうされなくなるの?」
「暫く、こっちに来るか?」
「ううん、いい。頑張るから」
「頑張ったら、星が壊れるだろう?」
「そうなったら、僕を殺してよ。時雨」
涙が、頬をボタボタと濡らす。
「星、壊れるぐらいなら氷雨に会えよ。氷雨で拭えなくても、会えよ。なあ。俺がその為の場所、用意してやるから…。なんなら、俺と氷河が住む新しい家に用意してもいい。だから、殺してなんて言わないでくれよ」
「時雨、僕は氷雨を利用するよ。傷つけるよ」
「構わないよ。氷雨だって、そうなってもいいって思ってるんだよ。ずっと…。だから、氷雨で埋まらないかもしれないけど。忘れられるなら、楽になれるなら、氷雨に会えよ。俺が、許すから。許可するから…。」
時雨が、電話の向こうで泣き崩れてるのがハッキリとわかる。
「必要な時は、僕から氷雨に連絡するよ」
「わかった」
時雨が泣いてくれてる。
それだけで、心が軽くなった。
コンコン
「はい」
「大丈夫?」
「うん」
「明日、俺出掛けるから。一人で大丈夫?」
「うん、デート?」
「マッチングアプリでマッチした人と会うんだ。」
「じゃあ、お金、机の上に置いとくよ。いくらぐらいいる?」
「三万はあるから、」
「じゃあ、二万置いとくよ」
「わかった、ありがとう。ゆっくり休んで」
「うん」
月が、いなくなった。
「ごめん、時雨。もう疲れたから休むよ」
「星、俺から氷雨に連絡しとくから」
「何で?大丈夫だから、必要なら、僕から」
「今が、その時だろ?わかるよ。俺は、ずっと星を見てたんだから」
その言葉に、涙がとめどなく流れた。
「もう、僕は月に二度と愛されないのかな。あんなに近くにいるのに、まるで別の世界にいるみたいだよ。指輪も投げ捨てちゃった。拾いたくなくてね。僕だけ覚えてるなんて、酷いでしょ。」
「星、氷雨に連絡しとくから…。いっぱい優しくしてもらえ。俺、何だって協力するから…。」
「時雨、ありがとう」
僕は、電話を切った。
涙が頬を流れては、落ちていく。
止めかたなど、わからなかった。
氷雨に会いたいわけじゃない。
きっと、優しく抱き締めて欲しいんだ。
愛してるって、言われたいだけなんだ。




