言わないで[華の視点]
「今日は、忙しかったな。」
夜中の3時を回った頃に、海の華は、終わった。
「詩音とくぬりんが、いなくちゃ大変だったよ」
「よかった。」
「じゃあ、ちょっと飲むか?」
「看板下げてくる」
「はい」
晴海が、外に出て行った。
「僕、信じますよ。」
詩音に突然の宣言をくぬりんがした。
「声が大きいよ。華は、何も知らないんだから…。」
詩音は、頬を赤く染めながら照れてる。
「ラブラブは、二人の時にやってよね。」
僕だけ、一人身なのに気遣って欲しい。
「ごめん、華。」
詩音は、そう言ってグラスを取りにキッチンに言った。
「華君にも素敵な人が、絶対に見つかるから」
くぬりんは、僕の髪をワシワシ撫でた。
「だったら、チョコレートケーキ作ってくれるなら許す」
僕は、ムスッとして見せた。
詩音は、グラスを持ってきた。
「華、晴海、遅くないか?」
「確かに…。見てくるよ」
「うん」
看板を下げに行っただけなのに、10分以上も経っている。
僕は、店の外に出た。
「あれ?晴海」
どこ行ったんだろう?
いないし。
看板も下げてないけど…。
看板を片付ける時に、階段についてる赤いものに気づいた。
何だろう?
「これって、血?」
僕は、看板を持って店に戻る。
「詩音」
「なに?」
「晴海がいない。血が落ちてる」
詩音は、ワインを床に落とした。
「ごめん」
「そんなのどうでもいいよ。晴海を探してくる」
僕は、店を飛び出した。
「晴海ー、晴海」
夜中の町は、静まり返っていた。
考えろ、そんなに遠くない。
絶対に、近くにいる。
あそこかも知れない。
僕は、走った。
「晴海ー。」
「華?」
やっぱり、ここだった。
「何し…」
近づいた晴海の姿に驚いた。
「その顔、どうしたの?」
「大丈夫だから」
「病院行かなきゃ…。大丈夫じゃないよ」
どれだけ殴られたのか、目が腫れてる。
「ごめん、歩けない。」
「何で?」
「足、何かなってる。階段から、引きずられたから…ごめん。」
「待って、詩音呼ぶから」
僕は、詩音に電話をした。
「感覚ある?」
「ない、ごめん」
晴海の料理を作る右手のカッターシャツが、血で真っ赤に染まってる。
「どこ、刺された?」
「ここかな?」
晴海は、肩の辺りをさした。
「華…」
「華君」
詩音とくぬりんも固まってる。
「誰にやられた。晴海」
「とりあえず、病院連れていこう。歩けないって」
「くぬりん運転できる?」
「まだ、お酒飲んでないから大丈夫。車、回してくるよ」
くぬりんは、走っていった。
「晴海、何があったの?」
「彼がいた。最後に付き合っていた彼が…。」
「それで?」
「看板をたたもうとしたら、腕を引っ張られて…。その時に、足がおかしくなった。無理やり立たされて、突然殴られて肩を刺された。よくわからない。けど…。酷く酔っ払っていた。」
「どうして、晴海をこんな目に合わせたの?」
「安西さんと話してるのを見たって…。ほら、詩音と椚さんの店の前で。晴海の一番が、死んだ奴じゃなくて安西さんに変わっていくのを感じたって…。許せなかったって」
「何で、右目こんなに殴られたの?」
「両目だと可哀相だからって、目を抉ってやるって言われたから抵抗した、そしたら殴られ続けて。我慢したのは、安西さんを殺すって言われたから」
くぬりんが、走ってやってきた。
「行こうか」
詩音と二人で、晴海を支えて車に乗せる。
「安西さんには、言わないで」
「晴海…」
「安西さんの人生をこれ以上悲しいものにしたくない」
「だすよ」
月城病院に向かって、くぬりんは車を走らせた。
「そいつの事、被害届けだすよな?」
「ださないよ」
「晴海」
詩音の言葉に、晴海は首を横に振った。
「俺だって、彼を愛していたんだ。嫌に決まってる。彼は、たぶん仕事や恋がうまくいってなかっただけなんだよ。」
「そんな優しい事言ってたら、また来るだろうが」
「もう、こないよ。華の声がした時に、逃げてって言ったから。」
「そんなのわかんないだろ?晴海」
詩音の怒ってる声も、晴海には届かなかった。
月城病院についた。
受付をすると、月君のお兄さんが現れた。
「これは、酷いね。すぐに、手当てします」
そう言って、晴海を連れていった。




