会いに行く[栞の視点]
頭が痛すぎて、目が覚めた。
あー。あれから、月とこっちで飲んだんだ。
隣に寝てる月を見つめた。
昨日は、たくさん泣いた僕を月は慰めてくれていた。
ソファーに眠る月の顔は、綺麗だ。
僕は、起き上がってキッチンに行って水を飲む。
スマホを見つめながら、大貴にかけるべきか考えていた。
8時か....
僕は、部屋のベッドに座って大貴に連絡した。
プルルル
ワンコールで、出た。
「はい」
驚いて、スマホを床に落としてしまった。
「ごめん。」
「なに?」
「今、話せる?」
「ああ、今ホテルだから大丈夫」
「昨日、帰らなかったの?」
「うん。帰りたくなかった」
「僕、今日会いたいんだけど」
「もう一泊するから、ホテルにくる?」
「いいよ、構わない」
「じゃあ、好きな時にきて。住所送るから」
そう言って、大貴は電話を切った。
僕が、リビングに戻ると月は起きていた。
「僕、用意したらいくよ。ホテルに泊まったみたいだから…そこに」
「頑張れよ。」
月は、そう言って頭を撫でてくれた。
「これ、鍵。ゆっくりして帰ってよ」
「嫌、俺も一緒に出るよ。星を家で待ちたいから」
「わかった。じゃあ、用意してくるよ」
僕は、冷蔵庫から水を取って月に渡した。
部屋に入って、服を着替えた。
今までの僕で会うって決めたんだ。
洗濯機から、月の服を取って渡した。
「玄関にいるよ」
「わかった」
僕は、大貴に渡すものを紙袋に詰めて、玄関で月を待っていた。
「ごめん。パジャマ置いててよかった?」
「うん」
「洗濯かごにいれたから」
月は、ポケットにパンツをつめていた。
「置いててもよかったよ」
「それは、何か違うから」
そう言って、笑った。
「駅まで、歩こうか?」
「うん」
僕は、月と並んで歩く。
「ちゃんとお別れしてくるから」
「うん」
「指輪も返すよ」
「うん」
「多分…いや、絶対泣く」
「そうだな」
駅についた。
「月は、太陽町だろ?僕は、花町に行くから」
「じゃあな」
「うん、バイバイ」
切符を買って、僕達は別れた。
反対ホームに、月が立ってる。
大貴に出会うまでは、僕の中の一番は月で。
月といれば、幸せで、楽しくて、満たされた。
月は、手を振ってくれた。
電車がきて乗り込んだ。
扉から、僕に手を振ってガッツポーズをした。
バイバイ、月
月で、埋められたらよかった。
電車がやってきて、乗り込んだ。
大貴が、花町方面に住んでいるのを知らなかった。
会えば、抱きついてしまわないだろうか?
うまく話が、出来るだろうか?
新品のスケッチブックを一冊いれてきてしまった。
どうせ最後なら、描きたかった。
今の僕が見てる大貴を…
あのケーキ買ってこればよかったかな。
僕達の想い出の味
大貴は、僕をどう思うかな…
あの頃と変わらないって言うのかな?
僕は、大貴にそう言えるのかな?
もう遅いって、諦めていた。
なのに、また会いに行く
下らない話をして
意味もなく、お互いを食べた。
いつか、一つの人間になってしまうんじゃないかって感じる程
ピッタリだった。
引きちぎったのは、僕だった。
愛してないって言われたくなかった。
お前なんかいらないって言われたくなかった。
酷い言葉を浴びせられても、大貴を全身で嫌いになりたくなかった。
こんなにも、愛していたのを忘れていた。
花町の駅についた。
駅から、歩いて数分の場所にホテルは立っていた。
体からも心からも、いなくなって欲しい。
本当のさよならをしたい。
スマホを見ながら、部屋番号を確認した。
ここだな。
ベルを鳴らす。
「はい」
大貴が、でてきた。
緊張で、ドキドキする。
何も言えずに、固まっていた。




