表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんなの愛らぶyou(仮)  作者: 三愛 紫月
73/100

忘れられない理由[栞の視点]

(るい)は、僕の話を聞いてくれると言ってくれた。


「僕と大貴(たいき)が、出会ったのは太陽町にあるケーキ屋さんだったんだ。そこは、タルトが有名でね。僕は、一人のクリスマスを過ごす為に買いに行ったんだ。そこに一つだけ残ってたいちごタルトを指差したのは、僕と大貴(たいき)だったんだ。」


(るい)は、僕の話を優しく頷いて聞いてくれる。


「僕はね、違うタルトにしようとした。そしたら、大貴(たいき)が一緒に食べない?って聞いてきたんだよ。僕は、頷いた。コンビニでコーヒーを買って、寒空の下近くの公園で二人でいちごタルトを食べたのがきっかけだった。」


懐かしくて、嬉しくて、涙が流れるのに笑顔が浮かぶ。


「僕達は、それからも会って美味しいものを食べたんだ。付き合うなんて、口にしなかった。言葉なんていらないぐらいに、お互いに惹かれ合ってるのがわかった。1ヶ月程経って、初めてキスをした。した瞬間から、ハッキリとわかった。僕の唇の形にピッタリとはまって、くっついた。最初から、僕達は、一つだったみたいに感じた。」


涙が流れてくる、僕はそれを拭う事もせずにビールを飲んだ。


「放れられなくなる。キスだけでそう感じた。大貴(たいき)のつけてる香水の匂いは、僕が好きな香りで。また、1ヶ月が経った頃。僕達は、肌を重ねた。パズルのピースをはめるように、カチッと全てがはまったのを感じた。体も心もはまった。この人とは、放れられない。そう強く感じた。」


胸が締め付けられてくる。


大貴(たいき)に、()れられた部分が痛い。


「抱き合えば抱き合う程、僕と大貴(たいき)の結びつきは強くなっていった。絡まった糸のように強く強く結びついた。だから、あの日、ほどけなかった(きもち)を無理やり引きちぎった。それから、ずっと血を流してるのを感じてる。」


僕は、立ち上がってスケッチブックを取り出した。


「入院中、ずっと、子供の絵を(えが)いていた。(るい)、僕はもうこんな絵を()けないんだ。」


僕は、(るい)にスケッチブックの絵を見せた。


「病気の子供達に、絵を(えが)くのが僕の入院生活の幸せだった。そこにいる、家族が喜んでくれる。それが、幸せだった。なのに、退院した瞬間。()きたくなくなって…。家族連れも見たくなくなったんだ。見ると苦しくて、辛くて…。息の仕方も忘れてしまうんだ。」


僕は、(るい)の腕にしがみついた。


「栞、わかるよ。その気持ちわかるよ。」


(るい)、それでも僕はまたこんな絵を()きたくて堪らないんだ。」


(るい)は、僕の絵を見て泣いた。


「こんな鳥肌が立つほど美しい作品を、もう二度と栞が(えが)けないなんて…。苦しいだろ?」


そう言って、僕の頬の涙を拭ってくれる。


大貴(たいき)に、()れられて脳裏に浮かんだのはこの絵達だった。(えが)ける。大貴(たいき)()れられたら…。そう思った瞬間。麻美に対する罪悪感が沸きあがった。(るい)、僕の中に大貴(たいき)への愛が血を流してるんだ。止め方がわからずに今日まできてしまったんだよ。」


「栞、俺が止めれないか?」


苦しみから自由にしてあげたいと強く(るい)が、思ってくれてるのを感じる。


「無理だよ。だって、僕はずっと。大貴(たいき)と結婚して、子供が欲しかった。気持ちに蓋をしてたから…。ずっと、気づかないフリをしていたから…。(あふ)れだして止まらないんだよ。」


(るい)は、僕を引き寄せた。


「彼に、抱かれてもいいんだよ。麻ちゃんが駄目だって言っても、俺が許す。世間が何て言おうと俺が許す。そんなに苦しいなら、もう一度触()れてきたっていいんだよ。もしかしたら、あの頃と違うかもしれないだろ?」


(るい)…。でも、わざとあんな事したんだよ。嫌われる為にしたんだよ。大貴(たいき)の中で、僕を(きたな)い存在にしてもらいたかったんだよ。想い出は、綺麗なままになるから…。破壊したかったんだよ。全部…全部」


僕は、(るい)から離れて立ち上がった。


(るい)、わかったよ。あれを置いてるから忘れられないんだよ。」


僕は、涙を拭って立ち上がった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ