忘れようとする程に[栞の視点]
「ごめん、月」
僕は、月から離れた。
「お腹すいたな」
月の言葉に笑った。
ブー、ブー
「星から、メッセージきたわ。安西の家に泊まるらしい」
「麻美もだって」
「三人でいるんだな。」
「そうみたいだね。タクシー呼んで、家に帰る?」
「栞の家か?」
「うん」
月は、少し考えて頷いてくれた。
僕は、タクシーに電話した。
カラオケの部屋から出た。
「びしょ濡れだね」
「うん、ビール臭いな」
「ハハハ」
僕が、お金を払おうとしたけど月が払ってくれた。
カラオケBOXをでると、タクシーが待っていた。
タクシーで、僕の家まで連れてきてもらった。
「お邪魔します。」
月は、久しぶりに僕の家にくるからそう言っていた。
「適当に作るから、座ってて」
「久々だな。栞のご飯」
「美味しくはないけどね」
「じゃあ、俺が作るよ」
キッチンに行って、冷蔵庫を開ける。
月が、隣に立っただけなのに、やけにドキドキしてしまう。
「ち、近いよ」
「何で、前からだろ?」
「今日の僕は、何か変なんだよ」
「俺も同じだ。」
月が、そう言って笑った。
普段だったら、意識なんて絶対しない距離感なのに…。
何故か、脳裏をかすめるのはあの日途中までした月の姿だった。
「パスタだったら、簡単に食べれるよ。ほら、パスタソース。麻美が市販の買ってくれてて」
僕は、テンパっている。
「それでいいよ」
その唇で、僕の記憶を塗り替えてしまってよ。
大貴何か追い出してよ。
それが出来るのは、僕の初恋の月なんだよ。
「向こうに座ってるよ」
「うん、そうして。お酒?お水?」
「水でいいよ」
月は、お水を持っていった。
心臓が飛び出る程、ドキドキした。
今日の僕は、本当におかしい。
パスタを湯がきながら、涙が頬を伝った。
大貴とのキス…。
相変わらず、唇の感触が好きだった。
吸い付くみたいに僕にくっつく。
僕の初めては、大貴だった。
体の相性がいいとか、そういうのはわからなかった。
ただ、心と体がピッタリ寄り添っていて…。
感じた事のない快感が、体を貫いて
「あっつ」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
僕は、パスタを鍋から取り出した。
麻美が、買ってくれていたソースを絡めた。
「たらこパスタしかなかった」
「何でもいいよ。いただきます」
月は、そう言ってパスタを食べてくれる。
「栞、泣いてるよ」
ティッシュを渡された。
「ごめん。」
僕に、たらこパスタを教えてくれたのは大貴だった。
一口で虜になった。
味覚も嗅覚も触覚も、欲しがるものが全部似ていた。
「栞?大丈夫か?」
「大貴を忘れてしまいたい。」
「パスタも、彼との想い出の味なのか?」
「うん」
「何か、別の作るか?」
「大丈夫。パスタに罪はないから」
僕は、泣きながらパスタを食べる。
いつもは、美味しいのに…
今日は、苦しい
月も、泣きながら食べてくれた。
「ごちそうさまでした。何か、胃袋に入れるだけの食事になってごめんね」
パスタのお皿を下げようとした、僕の手を月が掴んだ。
「栞の力になりたい」
「離して、僕は、月とはしないから」
そう言ったら、手を離してくれた。
僕は、お皿を下げにいく。
さっき掴まれた場所から、ドキドキが広がっていく。
忘れたいと思えば、思うほど…
あの日の月が現れる。
それと同時に、胸や舌に残る大貴の感触のせいで体が熱を帯びるのを感じる。
「シャワー借りていいか?ベタベタでさ。」
「うん」
月に声をかけられて、ビックリした。
「父が来る時の為に買ってるパジャマや下着でもいいかな?新品だから」
「ありがとう」
「じゃあ、後で持ってく」
「わかった」
いつもなら、月とちゃんと目を合わせて話せる。
ドキドキだってしない
なのに…。
僕は、高校生の時に戻ったみたいだった。
あの頃は毎日、月にドキドキしていた。
指が触れるだけで、隣に立つだけで、声をかけられるだけで…
って、何、考えてるんだよ。
僕は、パジャマと下着を取りに行く。




