話を聞くよ[月の視点]
星と晩御飯を作る準備をしているとスマホが鳴った。
「はい」
「安西だけど。」
「どうした?」
「藤堂と一緒にいてあげて欲しい。詳しくは、言えない。でも、一人にはさせられない。」
「わかった。すぐ行く」
安西は、場所をメッセージで送ってきた。
「星、栞と一緒にいてあげたいから…。ごめん。ご飯食べれない。」
「大丈夫だよ。気にしないで」
「ごめん」
俺と星は、家を出た。
安西の話の感じから、栞に何かがおきているのがわかった。
栞と並んで歩く。
「ごめん。二人の所、邪魔して」
「別にいいよ。ただ、晩飯食いそびれたわ。ハハハ」
「何か食べに行こうか?奢るよ」
「よろしく」
栞は、悲しい顔をしている。
言いたくなるまで、聞かなくていいかな…。
俺は、指にある指輪を見つめてる。
そう言えば、星も何か言いたそうにして明日にするって言ってたな。
「月、あのさ」
「何?」
「僕、元婚約者に会ったんだ。」
「そうか」
「安西といるの見せつけたら、連絡がきて嬉しいなんて思っちゃってさ」
栞の声が掠れる、泣いてるのがわかる。
「やりたいだけだった。なのに、キスされて舌いれられそうになって…。体触られて…。僕の体は、感じてた。」
気づいた時には、引き寄せて栞を抱き締めていた。
「ビッチだって言われた。そうだよな、ビッチだよな」
「そんな言葉、口に出すなよ。栞は、ビッチなんかじゃないよ。」
背中を撫でる。
「僕、実は彼を見つけてた。奥さんも子供も出来てた。気が狂いそうだった。その瞬間、僕は、まだ彼を愛してた事に気づいたんだ。あんなに酷い言葉を浴びせられたのに僕は、彼の子供が欲しかったんだよ。」
栞は、俺にしがみついて泣いた。
本当は、栞だって普通の人生を望んでいたんだ。
愛されていたかっただけだったんだ。
「さっきだって、嬉しくなったり泣いたり、グチャグチャな心を抱えて麻美に会えなかった。」
「栞は、どうしたい?彼にまた会いたいか?」
栞は、うんと小さく頷いた。
「体の関係になるのか?」
俺から離れた栞は、首を大きく横にふる。
「じゃあ、どうしたい?」
「気持ちを伝えたい。ちゃんと、僕の気持ちを…。」
「酷い言葉、言われるかもしれないよ。それでも、いいの?」
「それでも、いい。ちゃんと終わらせたい。でも、月が一緒にいてくれなきゃ無理だよ。」
「それは、構わないけど。安西と俺と二股してるように思われないか?」
「それで、いいんだよ」
栞は、悲しそうに笑う。
「ビッチだって思われて、終わらそう。月」
「彼もさせろって言ってくるかもしれないよ。」
「結婚してる人とは、出来ないって言うから…。月も演じてよ。悪い男」
「構わないよ」
俺は、栞に笑いかけた。
「そしたら、連絡してみる。」
栞は、彼に電話をした。
「どうだった?」
「まだ、帰ってなかった。カラオケBOX[日和]で待ち合わせた。まだ、晩御飯大丈夫?」
「お腹すいてる方が、悪い奴演じれるよ」
「そっか」
栞は、俺の腕に腕を絡ませる。
この場所から、数十分歩いた先にカラオケBOX[日和]が現れた。
中に入る。
「栞、新しい男か?」
酔っ払ってる。
「部屋を取ってくる」
栞が、俺から離れて部屋を取りに行く。
「行こう」
彼を立たせた。
フラフラしながら歩く彼を、俺は支えた。
失ってから、栞の大切さに気づいたのがわかる。
だけど、取り返しがつかないから体の関係だけでも欲しがったんじゃないだろうか?
俺も、真子を失って後悔したからわかる。
でも、もう引き戻す事は出来ない。
時間は、前にしか進まない。
戻る事は、けしてないのだ。
栞が、部屋の扉を開けて中にはいる。
「飲み物は、頼まなきゃ」
タッチパネルを持ってる。
「酒、飲ませろ」
「話をするのに、飲むなんて考えられないね。」
俺は、宇宙兄さんの真似をした。
あの人の冷静な話し方は、人の感情を引き出す。
「うるせー。飲まずにやってられるか」
「俺は、構わないけど…。栞に何を話しても酔っ払いの戯言にしか思われないけれど大丈夫?」
「何だと…」
彼は、俺の胸ぐらを掴んだ。
「やめてよ。」
栞の声に、その手を離した。
「俺は、お茶でいいよ」
「わかった」
栞が、タッチパネルで注文をした。
栞、今日終わらせよう。
俺と一緒に…。




