わかるだろ?[栞の視点]
知らない番号から、かかってきて電話をとると彼だった。
彼の名前は、飯沼大貴。僕より一つ上だった。
安西と話して、彼にきてもらった。
「どうして?もう、私なんて大嫌いだと思ってたよ。」
久しぶりに私を使った。
「栞を嫌いになる事なんてないよ。あの時は、酷い言葉をたくさん言ってごめんね。」
無意味な優しさに胸がザワつくのが嫌だった。
「私も病気になんてなったから…。ごめんね。」
「病気になったのは、栞のせいじゃないよ。あの時は、若くて。俺、受け止められなかった。今なら違ったと思うんだ。」
今なんてないのに、優しくされて悲しくなる僕が堪らなく嫌だった。
「大貴が、幸せならそれで充分だよ。でも、何で急に連絡なんてくれたの?」
大貴は、言いづらそうにしながら話す。
「栞は、男は俺が最後だと思ってた。でも、違ったんだな。あんなイケメン連れて…。」
「どういう意味?」
「そのままの意味だよ。男を知るのは、最初も最後も俺だって信じてた。だから、俺。栞が、どこで何をしていても…。あの女の子と幸せならそれでいいって思ってたんだよ。」
「それって、ヤキモチ妬いたって事?」
「妬いたよ。俺、あんな風に終わらしたけど…。やっぱり、栞以上の人はいないんだよ。わかるだろ?」
結婚して、子供がいる男が何を言っているのだ?
「わからないよ。大貴は、もう新しい幸せを見つけてるでしょ?子供だっていたじゃないか?私が、手に入れられないもの…。あげれないもの…。全部持ってるのに、何言ってるの?」
「そんなの栞よりたいしたものじゃなかったんだよ。俺は、馬鹿だったんだよ。結婚して、子供出来たら、幸せになれるって思ってた。だけど、違った。栞以上に思える人はいなかった。やり直そう?大人だからわかるだろ?」
やり直す?大人だからわかる?
大貴は、そう言うと僕を抱き締めてきた。
何で、涙なんかでるんだよ。
何で、嬉しいなんて思うんだよ。
「離して」
「嫌だよ。」
「体だけが欲しいって意味なんだよね?」
そう言った私に、キスをしてきた。
舌までいれられそうになって、突っぱねて飛ばした。
「何するんだよ。」
「結婚して、子供もいるのに何してるの?」
「栞、わかるだろ?俺には、栞しかいないんだよ」
また、抱き寄せようとしてくる。
「ただ、やりたいからって、優しくなんてすんな。ぼ、私の事、愛してるわけじゃないでしょ…。やりたいだけでしょ?だって、妊娠しないから…。そういう事だよね?大貴」
何で、こんな奴の為に、涙がポロポロ流れてくるのかな
大貴は、僕を抱き締めてきた。
「やめて、離せ」
「泣いてるって事は、栞だって俺に未練があったって事だろ?」
「違う」
「別の男を知ったって、俺とのエッチが忘れられなかったんだろ?」
「違う」
そう言われて、僕が思い出したのは、月の事だった。
そっか、中途半端だったけど、月がちゃんと書き換えてくれていたんだ。
「栞。俺達、大人だろ?そんな子供みたいな事言ってないでさ。気持ちいい事を、楽しむ関係でよくないか?」
そう言って、僕の服に手を入れてこようとする。
「やめて、離せ。触らないで」
「口ではそう言っても、体は受け入れようとしてるよ」
胸を触られた。
「僕の彼女にやめてくれないかな?」
安西が、その手を掴んだ。
「お前、聞いてたのかよ」
「当たり前だよ。栞と元婚約者、二人きりで話をさせるわけないだろ?」
「栞、俺を騙したのか」
「騙してなんかいないよ。」
「まだ、続ける?」
「お前みたいな女、幸せになれねーよ。お前から誘ったくせに…。くそビッチが。」
吐き捨てるように言って、大貴は、走っていった。
「暗い場所にいてよかったよ。大丈夫?」
安西は、僕の頭を撫でてくれた。
「僕、ビッチだな。あいつの言う通り。優しくされて喜んで、キスされて触られて感じてた。気色悪いな。最低だな。僕は…」
また、涙がとまらなくなった。
安西は、泣いてる僕を抱き締めてくれる。




