終わらせよう[安西の視点]
「藤堂、行こう」
僕は、藤堂の手を繋いだ。
タイミングは、思ったよりバッチリだった。
「すみません」
ぶつかりそうになって、彼の奥さんがそう言った。
「いえ」
藤堂の声に、彼がこっちを見た。
「し…。」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
そう言って、立ち去って行った。
ドキドキした。
僕は、藤堂の手を引っ張った。
「僕の名前を呼ぼうとした?」
藤堂が、ポロポロ泣いている。
「藤堂、携帯鳴ってる」
ブーって音が、聞こえている。
「知らない番号だから、ちょっと待って」
藤堂は、急いで電話に出ていた。
麻美さんに何かあったのだろうか?
「安西……」
「どうした?」
「彼からだった。」
「何て、言ってきたの?」
「話がしたいって、今から…。」
「どうして?」
「わからない…。」
藤堂は、首を傾げている。
「藤堂の中に、まだ彼がいるんだろう?もう、終わらせるべきじゃないかな?僕が、言うのはおかしいけれど…。生きてるなら、ちゃんと終わらせれるはずだよ。」
藤堂の目から涙が溢れ(こぼれ)落ちる。
「殺したいぐらい嫌いになったと思っていた。なのに、彼と家族を見たら気が狂いそうになった。僕はね、彼の子供が欲しかったんだよ。あんな風に言われても、彼の子供が…。」
「藤堂、ちゃんと終わらせておいで。僕で良ければ、ついていくよ。」
「安西、もう捨てたいんだ。こんな気持ち…。彼を愛していた気持ちも、彼の子供が欲しかった気持ちも、もう必要ないんだ。彼と話せば終わるのかな?」
藤堂は、そう言って泣いてる。
こんな綺麗な藤堂に愛されても、いらないと言える男がいるなんて僕には、理解出来ない。
僕なら、藤堂に愛されただけで一生分の運を使い果たした気がするよ。
それぐらい、藤堂は綺麗だ。
藤堂の従兄弟達もだ。
僕は、晴海さんに愛されただけで残りの運は使い果たした気がするよ。
「わからないけれど、話すべきだよ。僕なら、藤堂に愛されただけで、一生分の運を使い果たした気がするから別れる事などしないけれど…。彼は、すごいね。」
僕の言葉に、藤堂は笑った。
「それを言うなら、安西に愛されても同じ事が言えるよ。安西は、昔から芸術作品みたいだよ。」
「そんな事ないよ。」
「そんな事あるよ。だから、彼が連絡してきたんだろ?安西みたいなイケメンと僕が付き合ってると思ったんだ。」
藤堂の言葉に、僕は笑った。
「彼が嫉妬してくれたのなら、僕の企みは成功したってわけだね。」
「安西、僕の為にしてくれたんだね。」
「藤堂が、また駅にこれるようになって欲しかっただけだよ。」
僕は、藤堂に笑いかけた。
「ここに、来てもらうよ。安西、こんな気持ちはもういらないよ」
藤堂の、心の奥底に彼への気持ちがあるのを感じた。
でも、その気持ちは藤堂を傷つけるんだ。
「安西、話が聞こえる場所にはいてほしい」
「わかった。」
藤堂は、彼に連絡をしていた。
「すぐ、来るって」
「そっか」
僕は、美樹君、霧人、里への気持ちを上手に終わらせられない。
でも、藤堂の彼は生きている。ちゃんと終わらせる事が出来る。
死んだ人は、いいことも悪い事も美化されるから終わらせられない。
でも、生きている人間はそうはならない。
だから、ちゃんと終わらせる事ができる。
「安西、ちょっとだけごめん。怖くて」
藤堂は、泣きながら僕に抱きついてきた。
「構わないよ」
僕は、藤堂を抱き締めた。
一分も経たないうちに、藤堂は僕から離れた。
「ありがとう、大丈夫」
藤堂栞は、高校の時と何も変わっていない。
僕は、藤堂の強い所を尊敬していた。
どんな事が起きてもすぐに前を向こうとする、それが藤堂だった。
彼が、やってきたのが見えて、僕は離れた場所に移動した。
「ごめん、話してくる」
「わかった。待ってるから」
僕は、藤堂にそう言った。
「ごめんな、栞。急に、連絡して…。」
藤堂に言われた通り、ちゃんと声が聞こえる。
「連絡先なんか、消してると思っていたよ。」
「消せないよ」
そう言って、彼は藤堂に笑いかけてる。




