誰かの不幸のうえに[星の視点]
僕は、月に抱き締められていた。
こうされたかったし、こうして欲しかった。
「月がいない間に、氷雨に会った。僕は、また氷雨を不幸にするんだよね。」
「それでも、星が幸せになる為には仕方ない事なんだよ。」
月は、そう言って僕を抱き締めてくれた。
ママが幸せになった日、僕は人生のどん底だった。
みんな一緒に幸せを感じるなんて、ただの幻だ。
きっと、誰かが妊娠を喜んだ日に、月は男性としての機能を失ったんだと思うんだ。
「月、僕達は誰かよりも幸せになりたいって思ってしまうんだよね。」
「そうだな。隣にいる誰かよりも幸せになりたいって思うんだよ。でも、それは仕方のない事なんだよ。誰だって、人より少し幸せになりたいんだよ。」
「月、僕達は、結婚しても何も手にはいらないんだよ」
「それは、子供が欲しいって、俺がまだ思ってるって気がしてる?」
「わからない。」
僕は、わからなくなってきたんだ。
何が、月にとって幸せなのかが…。
「俺は、星を手に入れれるんだよ。それだけで、充分だよ。」
月が、僕を抱き締めてくれた。
「この先、羨ましいって思う出来事が増えてくるかもしれないね。結婚をすれば、特にそうなると思うんだ。それでも、俺は星といる事が幸せだよ。何も手に入れれてない事なんてない。星を手に入れてるんだから…」
「ずっと、言わなかったけどね。僕だって、昔は結婚して子供って思っていた時はあったんだよ。小さな時だけどね。美咲さんが話したみたいに…。僕も性別は関係なくそうなれる気がしていた。」
月は、僕のおでこにおでこをくっつけてくれる。
「それは、本能だよ。だから、仕方ないんだよ。」
「月、だからって僕は今は違うんだよ。ただ、月がよく悩んでいたから…。僕もそうだったって伝えたかった。」
「ありがとう、星」
男を好きになる事は、諦めなければいけない事もたくさんある。
それでも、僕は月と生きていきたい。
「昔、僕のお客さんだった女の人が、旦那さんが不妊だったんだ。だから、僕に子供を作って欲しいとお願いしてきた。もちろん、断ったよ。だけど、あの人は今も苦しんでいるのかな…。」
「星が、そうしたら旦那さんとは別れていただろうね。みんな、一番大切なものを忘れちゃうんだよね。その人は、子供が欲しいから結婚したのかな?それとも、旦那さんを好きだから子供が欲しくなったのかな?どっちなんだろうね?星にそんなお願いをしたって事は、誰でもよかったのかな?」
僕は、月の言葉に考えてしまった。
「難しいよね。その人はきっと忘れちゃったんだよ。子供が欲しい気持ちでいっぱいになっちゃって。本当は、旦那さんが好きだから結婚した事をね。もしかすると、もう離婚してるかもしれないね。」
「愛してるのに、子供が出来ないって事だけで、離ればなれになってしまうのは悲しいね。」
僕の言葉に、月は抱き締めてくれる。
「子供が出来ないのは、辛い事だって俺もわかるよ。それでも、別れるのは悲しいね。」
「別の人と一緒になったら、子供出来たりする人もいるでしょ?何か、その人といたのが間違ってたみたいに感じて僕は何か嫌なんだよ。」
「そうだね。神様は、意地悪だね。どうして、みんな出来ないんだろうね。俺みたいな人間は、別としてね」
「そうだよね。って、何でこんな話してるのかな?僕達には、関係ないのに」
「それもそうだな。」
月は、笑って僕を強く抱き締めてくれる。
僕達のように、悩んでる人がいる。
それでも、前を向いてる人もいる。
無理な人もいる。
「僕は、月といれるだけでいいよ。他には、何もいらない。」
「俺もだよ。これから先どうなるかわからないけど。星の願いを全部叶えよう」
「うん。叶えよう。月の願いも…。」
「そうだな」
月は、僕にキスをしてくれた。
今、この瞬間も誰かが不幸になっている。
たとえそうだとしても、僕は月に抱き締められて幸せを感じていたい。




