思い出してあげてよ[栞の視点]
星さんが、みんなの元へ話しにいった。
あの日、すぐにでも旅行を中止にして帰宅すべきだった。
そしたら、月は…。
「栞さん、俺に彼女とかいましたか?」
「しらない」
「聞いてなかったですか?それとも、栞さんが好きだったとか?」
「近づくな。僕には、彼女がいる。」
「それって、女性が好きなのですか?」
「そんな嫌そうな顔しなくても、おかしいのなんて自分でもわかってるよ。」
「嫌そうな顔してますか、俺。なんか、そんな人に会った事なかったんで。なんか」
「いいから、言い訳は」
あの日、麻美との事を打ち明けた月は、そんな顔をしなかったよ。
「へー。栞の彼女?」
「はい、初めまして」
「いい子だね。栞を幸せにしてやってよ。」
「はい、頑張ります。」
月は、ニコニコ笑ってくれた。
「ひかないのか?」
「ひくわけないだろ?好きや嫌いに、男も女もないよ。栞が、幸せになるのが一番だよ。」
「ありがとう」
今の月は、好きじゃない。
「すみません。そんな風に顔に出してるとは思いませんでした。」
「謝らないでくれる。余計に傷つく」
「すみません。」
「それって、逆もひいちゃう?男が男を好きとかも」
「えっ?」
「やっぱり、ひくんだね。わかりやすいね。」
中身は、月と何もかわらない。
月は、素直だからすぐに顔や言葉に出してしまう所がある。
それが、誰かを傷つける。
「すみません。そんなつもりじゃなくて」
「つもりじゃなくても、僕以外には、そんな顔しない方がいいよ」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。誰かを傷つけるんだよ。そんな顔したら」
「わかりました。気を付けます」
「後さ、頑張って思い出してあげてよ。色々と」
「それは、勿論。頑張ってみます。」
「そう。ならいいんだ」
月、星さんを傷つけるのだけはどうかやめてほしい。
「後、月が働いてるのは僕とだから。来週から、星さんに場所連れてきてもらってくれる?」
「わかりました。」
そう言って、月は笑った。
「じゃあ、よろしくね」
そう言った後、星さんが戻ってきて月は帰っていった。
「どう?月君」
「麻美、今の月は酷い人間だよ。悪気はないけど、きっとみんなを傷つける」
「そんな、あんなに優しい人だったのに…。」
「そうだね。優しくて、いいやつで大好きだった。だけど、そんな月はもういない。今の月は、無邪気に人を傷つける」
そう話した僕に、詩音と華と晴海と椚さんが近づいてきた。
「みんなで、飲まない?」
「うん」
「詩音、月が星さんを傷つける。前みたいに星さんがそうなったら…。そう思うと僕は、どうすればいいかわからないんだ。」
「助けを呼んでくれる月君は、いないからね。」
「うん、いない。それに今の月は、同姓同士の恋愛にひいてる。」
「それは、一番辛いな。」
詩音は、そう言って目を伏せた。
「だったら、月君は出会いを探すよね」
華の言葉に、頷くしかできなかった。
「そんな…。そのまま結婚だってありえるだろ?年齢的にも…」
晴海の顔は、絶望の色に染まってる。
「その時は、僕が流星さんや宇宙さんにお願いするから」
「どうやって?」
「ブライダルチェックみたいな事だよ。」
「手術も覚えてないからだね。」
「うん、そしたら別れるかもしれないだろ?」
「そうだけど…。」
「月君の容姿ならすぐに女の子が、寄ってきそうだな。」
「だから、困るんだよ」
詩音の言葉に、僕は恐ろしい気持ちを抱えていた。
月が、星さんを置いてどこかに行くなんて事。
絶対にあってはならない。
あってはならないんだよ。
「栞、泣かないで」
「麻美、ごめん」
流れ落ちる涙を止められなかった。




