突然の訪問者[星の視点]
インターホンの音で、僕は目が覚めた。
「はい」
玄関を開けると、栞さん、安西さん、晴海君、華君がいた。
「えっと?何かありました?」
「月に、呼ばれた。」
月?
「月が、戻ったんですか」
「わからないけど、連絡があった。」
「今、何時ですか?何日も経ったとか?」
「今は、夜6時だよ。」
「えっ?そんなに経ってないのに」
僕は、みんなを中にいれた。
「晴海と華は、店があるだろ?」
「七時には、帰るよ。9時に予約がはいってるから」
「わかった」
僕は、月の部屋をノックする。
コンコン
カチャ…。
「月?」
「星、会いたかったよ」
月は、僕を抱き締めてくれた。
この感じ、間違いなく月だ。
みんなで、リビングに行く。
「星、ワイン残っていたのを飲んでしまった。」
月は、そう言って頭を掻いた。
僕は、テーブルの上のものを下げて、麦茶をグラスにいれてもってきた。
「橘」
安西さんの声に、月は安西さんを見つめている。
「安西、久々だな。俺がいなくても、人と話すの大丈夫だったか?」
そう言われて、安西さんは頬を赤くした。
「お茶どうぞ」
僕は、みんなにお茶を渡した。
安西さんは、月に何かを聞きたいようだった。
「安西は、昔から何か悩んでるよな。その雰囲気が、人を引き寄せるんだよな。」
そう言って、月が笑った。
「橘、僕は従兄弟が亡くなってる。それからは、ずっと死神って呼ばれてる。母親は、精神を病んで僕が幸せになる事を許さない。」
安西さんは、どうにか自分の話を短く話そうとして頑張ってる。
「よくわからないけど、安西は幸せになりたいのか?」
「僕が、幸せになると母親が不幸になるんだ。母の入院費などをだしてもらっている。幸せになれば、入院費も出さないと言われている。橘、僕はどうしたらいいのだろうか?」
月は、優しい顔で笑った。
「安西、幸せになりたいんだな。幸せになればいいと思う。安西、一人が辛い思いしなければならない事はないんだよ。その髪や目は、愛してる人がいたんだね。俺はね、ずっと、安西に会いたかったよ」
「橘…」
月は、安西さんの手を握りしめた。
「安西の話す、天の川カフェの話が大好きで!俺は、ずっと行きたかった。でも、行けなかった。でも、やっと流星と行けた。あの絵は、安西の絵だろ?ずっと、考えてた。安西、もう充分に許されているんじゃないか?これ以上、謝る必要はないんだよ」
月の言葉に、安西さんは泣いている。
「僕も、ずっと橘には会いたかったよ。僕は、人殺しなんだよ。自分の手を下してなくても…。僕の行いで、何人もの人がこの世を去った。だから、僕は死神なんだよ。」
「安西は、死神じゃない。もう、これ以上苦しむ必要はないよ。例え、亡くなってしまったとしても、それは安西のせいではないんだよ。もう、自分を責めるなよ。起きてしまった出来事を変える事は、もう出来ないんだよ。」
月は、まるで自分にも言ってるように泣きながら話した。
「橘、僕は…ズルい人間だな」
「人なんてそんなものだろ?生きてる限り、ズルくて醜くて汚いもんだよ。所詮人間なんて、自分が一番かわいい生き物なんだよ。だって俺は、自分が苦しくて辛いから流星を捨てたんだよ。流星は、死まで意識する程追い詰められたのに…。俺は、何も知らずに星と幸せに笑っていた。最低だろ?でも、それが人間なんだよ。安西、そんな自分を認めろよ。」
月の言葉に、栞さんが話す。
「僕達が描く絵のように、人間は綺麗じゃないんだよ。安西も、綺麗じゃないんだよ。」
安西さんは、綺麗な人間でいたかったのだと思った。
だから、苦しんでいるのだ。
「安西も俺も、綺麗な人間じゃないんだよ。綺麗でいなければいけないと思えば思う程、自分を苦しめるだけだ。お母さんの事なんて、捨ててしまえよ。それで、どうにかなったならなった時だろ?安西が、幸せになって誰かが不幸になるなら、その時はまた考えればいいだろ?」
「僕は、幸せになりたい。」
安西さんは、月の手を握りしめて泣いていた。
綺麗でいたいと願えば願う程、自分の中にある汚さを認められないんだと思った。
自分を犠牲にして、母親の幸せを願う事が美しい事のように思っていたのではないだろうか?




