壊したのは、僕達家族[安西の視点]
僕は、缶コーヒーを開けた。
「美果君が、なぜ母を見てくれてるのかを先に話すよ」
僕は、三人の顔を見つめる。
「父親が出ていって半年が過ぎた頃、僕は叔母さんに呼ばれて家に行ったんだ。僕がきた瞬間に、叔母さんは僕の頬を叩いた。そして、こう言ったんだ。「安西美鈴が、美果のお嫁さんが寝ている横で美果を襲いました。」ってね。」
三人は、僕の話を黙って聞いている。
「何故母がそんな事をしたのか、理解できなかった。その日は、母が退院してきた日だったようで…。眼鏡をかけてる美果君を父と間違っていたと言われた。美果君は、その1ヶ月後に離婚した。母の病室に行くと、母は美果君とキスをしていた。抱きついて、義美さん、義美さんって言っていた。4年前、美果君は、12年の結婚生活を捨てて母の面倒を死ぬまでみると約束してくれたんだ。」
僕は、思い出すだけで震えと涙が止まらなくなる。
「僕が、美果君の人生を壊した。母が、精神病院に入院するようになったのは、僕のせいだから。その原因になった、僕と美樹君の話をしよう」
そう言った僕の手を晴海さんが握りしめてくれる。
「僕の初恋は、美樹君だった。物心ついた時、僕は美樹君に告白をした。受け入れてくれたよ。7歳の時にキスをして、それからは何度もした。美樹君が、二十歳になった日。お願いをされた。僕と肌を重ねたいと…。」
僕は、晴海さんから手を離した。
「美樹君と肌を重ねた。その時は、美樹君が僕の初めての相手になってくれた。その後、美樹君は僕にしたいと言ったんだけど…。僕は、怖くて無理でね」
僕は、涙を流す。
「何度もチャレンジして、やっと出来たのは亡くなる一ヶ月前の出来事だった。それでも、全部じゃなかった。でもね、僕は、嬉しくて幸せだったよ。美樹君も同じ気持ちだった。そしたら、何度もそうしたくなるだろ?美樹君は、僕を何度も求めてきた。事故に合う前日、いつも美樹君の部屋やホテルを利用していたんだけど…。その日は、お互いの両親がいなくてね。僕と美樹君は、僕の部屋でそうしようとしたんだ。」
あの日を思い出すと涙と震えが止まらなくなる。
晴海さんが、手を握ろうとしてくれるけど僕は自分で自分の手を握った。
「美樹君の絵を描いてる僕にキスをしてきた、ゆっくりと僕と美樹君は先に進む。その時、扉から誰かがこっちを見ていた。僕は、驚いた声をあげた。美樹君が、僕のズボンに手をいれて先に進もうとしていたその手を止めた。右目だけで見ていたその人は、その手を止めた瞬間に僕の部屋に入ってきた。」
涙が、止まらなかった。
「母だった。部屋に入ってきて美樹君と僕を引き離した。母は、僕の事を殴った。「だから、お前はみんなにそう呼ばれているんだ。何をしてる、お前から誘ったんだろう」そう言われた。美樹君は、自分からだと何度も言ってくれたけど…。母は、汚いものを見る目で僕を見て。「お前なんて死ねばいい」と言ったよ。」
晴海さんは、避ける僕の手をしっかり握りしめた。
「たった一人の息子は、母にとっての恥でしかない事をしった。「死神」そうハッキリと言われたのは美樹君が亡くなった後だったけど。僕は、ずっと前から知っていた。死神って呼ばれてる事を…。あの日、寸前でやめてしまった事を僕は後悔した。だから、僕に好意をもってくれる人とは一度だけ必ず肌を重ねるようになったんだ。本当は、美樹君と本当の最後までしたかったんだと思う。でも、いつも、僕は半分までしかいれられなくてね。臆病でね。途中で、毎回震えて泣くんだ。美樹君は、その度にやめてくれて、美矢は、向いてないんじゃないか?って言われたけど。僕は、美樹君が欲しかった。僕がする方は、嫌だったんだ。だって、あんなに優しい美樹君が僕を独占し欲しがる姿が、とても綺麗で…。その顔を見るのが、なによりも幸せだった。僕がした時の、乱れた顔よりも好きだった。だから、僕は向いていなくても抱かれる方がよかった。美樹君を失って、僕は誰かに抱かれるのをやめた。僕のこんな話聞きたくないよね。」
晴海さんは、首を横に振る。
「続けて、俺は安西さんの事知りたいよ」
「安西、話せばいいよ。心がぐちゃぐちゃなら話さなくちゃ」
「僕も、知りたいよ」
僕は、三人に優しく見つめられる。




