安西の母親[栞の視点]
「安西、僕がお母さんのお金を出すよ」
安西に縛られて欲しくなかった。
安西は、首を横に振る
「どうして?」
「叔母さん達が関わらなくなれば、美果君が来れなくなってしまう。」
「関係あるのか?」
「あるよ。連れて行ってあげるよ。その目で、見てみるといい」
安西は、そう言って誰かに電話をかけた。
里さんのお墓を後にした。
桶をしまって、安西は僕を見つめる。
「あの人に会えば、お金などで何も解決が出来ない事がわかるよ。僕もね、一度大金を稼げる機会があった。それで、母のお金を出そうとしたんだけどね。源さんに見せられた姿に、僕は叔母さんの家族を頼ろうと決めたんだ。」
車に乗り込んだ。
晴海が、車を出した。
「ここを右に曲がるとすぐにつくよ。」
[星丘精神病院]とデカデカと看板が立っていた。
安西と一緒に車を降りて歩く。
さっきの、美果さんが立っていた。
「今日は、調子が悪いけど大丈夫かな?」
「はい」
そう言って、病室を開けると個室だった。
「少し離れていてくれる?」
そう言われて、僕達は扉の近くに立つ。
「カーテン開けるよ、美鈴。」
そう言って、美果さんが、中のカーテンを開けた。
右目に包帯を巻かれている。
両手も、包帯を巻かれてる。
「美矢が、きたんだよ。」
お母さんは、手当たり次第に物を安西に投げつけた。
「美鈴、やめないか」
「死神、お前がまたきたのか、汚らわしい子、美樹と何をしていた。私は、ちゃんと見たんだぞ」
「美鈴」
美果さんが、お母さんを止める。
「やらせてやって下さい。」
そう言って、手を離すと安西に掴みかかる。
「お前なんて、産まなければよかった。お前の顔が、雅美さんに似てくるからバレたんだ。あの日、捨てて置けばバレなかったんだ。私は、義美さんを愛していたからあなたを産んだ。なのに、雅美さんに顔が似ていくなんて裏切り行為だ。美樹をたぶらかして、キスをしていただろ?お前は、それ以上もさせようとした。知ってるぞ、見ていた。私は、見ていたんだ。」
安西は、首を絞められ始めた。
「母さん、また目を抉ろうとしたのですか?」
「死神、お前のせいだ。」
ドンッと安西を押した。
「もうやめなさい。美鈴」
「義美さん、ごめんなさい。私は、義美さんを愛してるのよ。わかってるでしょ?私が、義美さんをどれだけ愛してるのか…。ねぇ?」
「わかってるよ」
何故か、安西の母親は美果さんを安西の父親だと思っているようだった。
「もう、休みなさい。」
「カーテンを閉めて、眠るわ」
「わかった。」
美果さんは、カーテンを閉めた。
看護婦さんが、現れた。
「よろしくお願いします。少し送ってきます。」
「わかりました。」
そう言って、美果さんは安西に手を差し伸べて起こした。
「少し話そうか?」
「はい」
「皆さんも、大丈夫ですか?」
「はい」
僕達を連れて、病院の外に出る。
「少し先に、公園があるのでそこで話しましょう」
そう言われて、ついていく。
ベンチしかない公園が、現れた。
自販機で、美果さんはコーヒーを人数分買って渡してくれた。
「母さんは、また目を?」
安西の言葉に、美果さんは頷いた。
「昨日、また美樹と美矢が夢に出てきたらしい。食事の箸を隠し持っていたみたいでね。目に軽く突き刺した。すぐに看護婦さんがきたから大丈夫だったみたいだよ。」
「そう」
安西は、苦しそうに目を伏せてる。
「叔父さんは、全財産持っていってしまっただろ?一昨日、連絡がきたんだけど。二度と戻るつもりは、ないって…。この町から出てるって、再婚相手が妊娠したみたいだよ。」
「そうなんだね、美果君。母さんのせいで、離婚させてしまってごめんね。ずっと、謝りたかった。」
「気にしていないよ。元々、会わなかっただけだよ。」
そう言って、美果さんは安西に笑いかけている。
美果さんは、時計を見つめてる。
「美矢、今度ゆっくり話をしよう。叔母さんの事も含めて。」
そう言って、晴海に向き合った。
「美矢の話を聞いても一緒に居てあげて欲しい。美矢をよろしくお願いします。美咲さん。」
「はい」
「美矢、叔母さんの所にもどるよ。最近、薬がきれるのが早くなってきてるから。ごめんね。また、ゆっくり話そう。晴海さんも…。」
そう言って、いなくなってしまった。
「藤堂、晴海さん、華さん、話をするよ。母親の事」
そう言って、安西は僕達を見つめながら話し始めた。




