なぜだろうか?[安西の視点]
僕は、昔から緊張したり、告白の返事を返す時に、橘の手を握りしめていた。
初めて橘の手を、握ったのは、高一の夏休みだった。
夏休みの課題が、[手]だったのだ。
橘と藤堂と組んで、手の絵を描いた。
感覚を掴む為に、橘の手を握った時に安心感を感じたのを今でも覚えている。
一ヶ月前に、従兄弟が亡くなった。
絵の材料を買いに行った帰り道。
僕の目の前で、バイクに跳ねられた。
小さな頃は、いつも手を握ってくれていた。
この日も、危ないと僕の手を引っ張った従兄弟が、僕のかわりにバイクに跳ねられてしまった。
[やっぱりお前は、死神だ]そう従兄弟の家族に言われた。
大好きな従兄弟の死後、僕は人に深く関わるのが怖くなった。
そんな日々の中で、橘の手を触ったんだ。
懐かしくて、嬉しくて、安心した。
だから、橘の手を…。
「安西?聞いてるのか?」
「また、ごめん。」
「安西さん、一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい」
「どうして、さっきから、るか君の手を握るのですか?」
「それ、俺も気になってた。」
二人に、見つめられて恥ずかしさで胸が一杯になる。
「橘の手を握ると安心する。従兄弟の手に似ていて。だから、従兄弟が死んだ後…。緊張したり、告白の返事を返す時は、橘の手を握らせてもらってた。」
「そうだったんですね。」
「へー。じゃあ、俺と会わなくなって大変だったな?」
るか君は、そう言って僕を見つめる。
「橘と会わなくなってからは、霧人が居た。霧人がいなくなってからは、人との関わりをさけていたから…。それで…」
「だから、指輪はめてるのか?」
るか君に言われて頷いた。
「じゃあ、もう、俺の手は必要ないだろ?晴海君、手出して」
「はい」
晴海さんの手を、僕に握らせた。
「あっ」
「どうしました?」
るか君は、煙草に火をつける。
「橘の手と似てるの気づいてました?」
「本当ですか?気づいてなかったです。」
「僕は、晴海さんの手に安心します。」
僕は、涙が止まらなかった。
やっとちゃんと泣けたのを感じた。
「月君が、好きだったんですか?」
「橘というより、従兄弟の美樹君を愛していたんだと思います。」
そう言って、僕はスマホの中にある写真を晴海さんに見せた。
るか君も見てる。
「綺麗な人ですね。」
「物心つくまで、僕はお姉さんだと思っていましたから…。僕が、死神と呼ばれたのは、美樹君が死んでからです。」
「何で亡くなったか聞いてもいいですか?」
「はい。少し早い僕の誕生日プレゼントに絵の材料を買ってくれたんです。僕は、その日色々考え事をしていました。ボッーとしてた。信号がかわった瞬間歩き出そうとした僕の手を突然美樹君が引っ張った。僕は、その勢いで道に尻餅をついて座り。美樹君は、目の前でバイクに跳ねられた。信号無視のバイクだった。」
晴海さんの手をギュッと握った。
僕の不安な気持ちや痛みを感じたのか、橘が反対の手を包み込むように握った。
この話をすると震えと涙が止まらなくなる。
「僕の身体中に美樹君の血が、かかったのを今でもハッキリ思い出せる。周りの人の叫び声が、小さく聞こえて…。僕は、必死で美樹君の元に言った。血だらけで、今にも息が止まりそうな美樹君の手を握った。救急車が来るまで、美樹君は、僕を愛していたと言ってくれた。美矢が、生きていてよかったって…。血が口から溢れてるのに、キスをされた。その時に、僕は、ずっと死神って言われ続けていた理由をハッキリと思い出したんだ。」
そう言って、僕はゆっくり深呼吸をした。
「7歳の時、美樹君が僕にキスをした。美樹君は、僕より5歳年上だった。そのキスを見つけたのは、祖父だった。祖父は、それから呪いだとか何とか言って、頭がおかしくなっていって2ヶ月後自殺した。その後も美樹君とは、キスをしていた。僕は、美樹君が大好きだったから、嬉しかった。」
僕の目から涙が流れる。
「僕達のキスを次に目撃したのは、美樹君の父親だった。祖父の死から一年後だった。大騒ぎになって、僕の母親は自殺未遂を繰り返すようになった。美樹君の父親は、その2ヶ月後、転落事故で亡くなった。呪いだと言われた。美矢はやっぱり死神だって。それはね…。僕が、美樹君の父親と僕の母親の間の子供だったからなんだよ。」
僕は手の震えが、止まらなかった。
晴海さんが、僕の手をしっかりと握りしめてくれる。




