想い[るかの視点]
安西を連れてみんなの元にもどった。
栞は、華君を連れていった。
「晴海君、少しいいかな?」
俺は、安西の為に晴海君を呼んだ。
「橘も、煙草を吸いたいだろ?外に行こう」
安西に、そう言われて三人で外に出ることになった。
「灰皿、これ使ってよ。」
詩音さんに、小さな皿を渡された。
「ありがとう」
安西は、鞄から四角いキューブを握りしめた。
外に出る。
「そこに座りますか?」
テラス席を作る為に、置いてある椅子と机の場所に行った。
丸い机に三人で、座った。
俺は、煙草に火をつけた。
何も話さない、晴海君と安西。
気づけば、一本吸い終わった。
「あー。もう、何なんだよ。喋らないなら、もう帰るぞ」
安西は、俺をジッーと見て、手を握ってきた。
「何だよ」
「少しだけ、勇気が欲しい」
「わかったよ」
安西は、俺の手を強く握ってから言った。
「一週間後、霧人の月命日に晴海さんを連れて行かないと霧人を返さなくちゃいけないんだ。僕は、霧人を返したくない。」
そう言って、四角いキューブを置いた。
「これって、灰か?」
「左薬指の骨と灰だよ。」
安西は、眉を寄せながら切なそうにキューブを見つめている。
「それは、俺でも嫌です。」
晴海君は、そう言ってポケットから小さな小瓶を出して机の上に置いた。
「これは、何?」
「渚の灰です。」
「晴海君も、持ってるの?」
「いつもは、家に置いてあるんですが…。今日は、持ってきました。」
「そうなんだね」
俺は、二人と目の前の入れ物を交互に見ていた。
安西は、俺から手を離した。
俺は、煙草に火をつける。
「安西、ちゃんと伝えるべきじゃないか?」
俺の言葉に、安西は頷いた。
眉を寄せながら、晴海さんを見つめる。
「晴海さんへの気持ちが、霧人のお兄さんにバレてしまいました。前に付き合ったさとを亡くした時に、僕はもう誰とも付き合わないと決めていたんです。」
そう言って、安西は左手の袖を捲る。
「ここから、手首まで傷がこうはしっています。さとがつけた傷です。さとは、僕の腕の中で血だらけで眠りました。霧人のお兄さんが、やってきて…。僕達二人を助けてくれました。でも、さとは死んでしまいました。僕は、死神です。傍にいたら晴海さんもそうなってしまうかも知れない。それをわかっているのに、僕は晴海さんに惹かれてしまった。」
俺は、煙草を小皿に押し付けて消した。
「俺も同じようなものですよ。それでも、安西さんに惹かれてしまったんです。渚への気持ちごと、安西さんに愛されたい。そう思ってしまったんです。」
俺の胸を二人の痛みが突き刺してきて、涙が止まらない。
「僕も、霧人への気持ちとさとへの気持ち。その気持ちごと、晴海さんに愛されたいです。晴海さんと、付き合ってみたい。でも、怖い。僕が、晴海さんの人生を壊してしまう気がする。それと…」
安西は、顔を赤く染める。
言いづらいからか、また俺の手を握ってくる。
「僕は、体が老人でね。そのね、言いにくいんだが、たたないんだ。さとと付き合った時も、五回やって一回できる?ぐらいだったんだよ。勿論、あれだよ。晴海さんが、する方なら、僕がたたなくても問題はないと思うんだよ」
俺の手を握りながら、何を言ってるんだろうか?
「あの、安西。離してくれないか?」
「あっ、また、ごめん。昔から、僕は、橘の…」
その言葉に、記憶の片隅で映像が浮かんだ。
[安西先輩が、好きです。]
[そうだね。僕は、気持ちに答える主義だから…。一度だけなら、そうなっても構わないよ。]
[嬉しいです。]
美術部の部室の扉の前で、告白される安西は、何故か俺の手を握りながら話していた。
[何なんだよ。安西]
[橘の手を握っていたら、落ち着くんだ。だから、ごめん。]
[何だよ、それ]
[僕の従兄弟の手に似ている。]
?マークが、飛んだのを思い出した。
そして、今、また俺の手を握っている。
「俺は、そういうの気にしませんよ。どっちがっていうのも気にしません。ないなら、それでも生きていけますから…。無理にはしたくないですよ」
晴海君は、そう言って笑った。
安西は、さらに俺の手を握りしめる。
何なのかわかんないんだよな。
この手…。




