幸せを…[栞の視点]
華は、るかに抱き締められて泣き止んだ。
「もう、大丈夫。ありがとう」
「うん」
華は、るかから離れた。
「俺だって華を守りたい」
詩音は、華を抱き締めた。
るかは、それを見て僕の隣にきた。
「あのさ…。」
「何?」
「栞が、晴海君に安西を会わしただろ?」
「何で、知ってんだよ。」
「安西の話聞いた時に、俺も晴海君とうまくいったらいいなって思ったんだ。何か、似たようなの抱えてるって気づいたから…。で、俺も華君に会わしたい人がいるんだけど」
「誰?」
「それはね……………。もし、華君がまた誰かを好きになりたいって思ったら会わせてあげてよ。それと、俺がいなくなったら彼に伝えてくれない?栞にしか頼めなくて」
その言葉に、僕は少し驚いていた。
「るかも、友達いたんだな…」
「出来たんだ。二十歳の時にね。だけど、月は知らないから。会うのは、俺が現れた時だったけどね。」
「その人は、それは、知ってたの?」
「知ってたよ。だって、あっちも精神で通ってたから…。でも、向こうは俺と違って睡眠障害。まあー。話し聞いたらわかるけど。そいつも、華君と同じものを抱えてる。」
そう言って、るかはスマホでメッセージを僕に送ってきた。
「これから、絵を毎日描くようになったら月が現れるかもしれないだろ?いつ俺と月がかわるかなんてわからないから…。だから、お願い。楽しかったって伝えてくれる?後、月と仲良くして欲しいって事も」
「わかった。伝えるよ」
僕の言葉に、るかは喜んでくれた。
華に会わしてみたい人か…。
気になる。
「そろそろ、下絵描くだろ?」
詩音に言われて、ハッとした。
「華は、もう大丈夫?」
「うん」
「晴海と仲直りするんだぞ」
「二人では、無理だよ。」
「だったら、今から呼ぶ」
そう言って、詩音は華の肩を叩いた。
僕は、三人全員に、幸せになって欲しい。
だから、安西を会わせたのだ。
安西の噂は、八代から聞いていた。
もしかしたら、晴海と惹かれ合うのでは?と思っていた。
華は、彼を忘れていなかったから…。
なのに、このタイミングで華がこうなるとは予想してなかった。
「しおりん、ごめんね。お騒がせして」
「ううん。」
いつもの華に少し戻った。
よかった。
「安西、描こうか」
「うん」
安西は、俯きながら歩く。
指輪、はめたんだな…。
「華、いつでも呼ぶんだよ。僕の事」
「うん、ありがとう」
華がやっと笑ってくれた。
「藤堂、鉛筆で描く?それとも、塗り直せばいいから絵の具で描く?」
「うーん。詩音は、どっちがいい?」
「鉛筆じゃ見えにくいから、絵の具で見せてよ。上から、白いペンキ塗ればいけるでしょ?壁紙貼るのもありだし!」
「確かに、何とでもなりそうだね。じゃあ、安西。絵の具で」
「わかった」
そう言って、安西はスケッチブックを持ってきた。
「僕は、これを描きたいんだけど…。藤堂は、決めてきた?」
「酔っぱらいながらも描いたよ」
僕は、小さく折り畳んでいた紙を広げた。
「これなら、悪くないね。」
「後は、混じり合う部分は考えてなかったけど。安西ならいけそうだなって思って」
「そうだね。後さ、どうなるかわからないけど…。真ん中部分の色を橘にお願いしたい。」
「でも、今は月じゃないよ」
「もしも、橘が戻ってきたらでいいよ。」
そう言って安西は、僕に笑った。
「安西も、月の色彩感覚好きだったのか?」
「うん。橘は、絵は普通だったけど色使いが素晴らしかった。だから、真ん中部分に橘が色をつけたら…。想像するだけで、ドキドキとワクワクが押し寄せてこない?藤堂」
「そうだな。僕と安西が描く絵に月が色をつけるって考えたら、胸が締め付けられる。」
「そうだろ?僕は、初めて橘の色付けを見てから恋してる。藤堂もそうだろ?だから、一緒に働いてるんだろ?」
「そうだよ」
「やっぱり。じゃあ、始めようか?」
「うん」
安西も月の色の付け方に、恋をしていたんだ。
恋愛なんかじゃない。
ただ、月の絵についた色を見た瞬間、胸が鷲掴みされた。
僕は、麻美が、病院に向かう前に詩音に預けた道具を広げていく。




