一人じゃない[詩音の視点]
晴海から、連絡がきた。
俺は、心配だった。
栞ちゃんが、華達の家についてるはずなんだけど…。
なかなか、来なくて心配になって店の外に出たらみんなが来ていた。
「華、華」
俺は、店をでて走った。
栞ちゃん、るか君、星君が、華を抱き締めてくれていた。
「よかった。」
「兄さんが、きたぞ」
るか君と星君が、華から離れた。
「華、晴海と喧嘩したって聞いたから心配したよ」
華は、俺に葉書を見せてきた。
「僕だけ、愛されないんだって急に思って不安で悲しくて」
「華の事、愛してるよ。ちゃんと、愛してる。」
「わかってるよ、詩音」
華は、俺に抱きついて泣いた。
「晴海に好きな人が、出来たから不安になったのか?」
「わからないよ。わからない。この葉書を見るまでは、僕はみんなの事を応援していたんだよ。だけど、見たら急に悲しくて、僕だけ一人だって…。でも、るか君や星君やしおりんが違うって。僕を抱き締めてくれるって。だから、僕は大丈夫だよ。」
「俺だって、華を抱き締めるよ」
華は、子供の時みたいに泣き出した。
「僕は、彼を愛してた。もどってきてくれるって、信じてたんだよ。なのに、何で?僕じゃ駄目なの」
華は、そう言って泣いていた。
「ゆっくり思い出にしていったらいいよ。会いたいなら、探して会いに行けばいい。俺が、ついていってやるから…。」
「僕は、彼にはもう会わないよ。彼は、きっと結婚して子供を作って幸せになるんだよ。僕があげれない幸せを全部手に入れるんだよ」
華の言葉に、涙が流れた。
「ごめん。」
華は、俺から離れた。
「初めて、子供が作れない事を辛いと思った。どうせ子供の出来ない体なら、女の子になれたらよかったのかも知れないね」
華の手をるか君が握りしめた。
「何?」
「悲しい事言うな。そのままの華君を全部受け止めてくれる人が必ず見つかるから、そんな悲しい事を言うな。」
「るか君……。僕の為に泣いてくれてるの?」
るか君は、ボロボロ泣いてる。
やっぱり、るか君は月君なのだとわかる。
「痛みに敏感なだけだから…。誰の幸せも願えない日があったっていいんだよ。それでも、自分の性別まで否定するなよ。ちゃんと華君を愛してくれる人が、見つかるから…。だから、悲しい事、言うなよ」
るか君は、華の涙を拭ってる。
「僕は、彼を愛してたんだよ。こんな葉書一枚で終わらすなんて酷いよ。僕は、僕は、捨てたのに…。」
華は、腕を押さえながら崩れ落ちた。
「あー。あー。僕は、彼の為に捨てたんだよ。なのに…なのに…」
俺は、怖くて動けなかった。
涙が溢れてとまらない。
あの日の華が、頭に浮かんで足が震える。
るか君が、華を抱き締めた。
「全力で愛したのに、受け取ってもらえなかったんだな。」
そう言って、華の背中を擦ってる。
「僕が、何か悪い事をしたの?」
「してない。華君は、何も悪くない。」
るか君は、そう言って華を強く抱き締めてる。
「るか君も愛をもらえなかったんでしょ?」
「うん、星に出会うまでもらったことはなかった。いつも、月だけがもらえた。だから、華君も必ず誰かが現れるから信じて待つんだよ。」
「僕の愛は、重すぎるんだよ。」
「そんな事、気にしない人は必ず現れるから…。大丈夫だから」
るか君の言葉に、華は泣いていた。
「華、お別れを言いたいなら俺が探すよ。その人の事…」
華は、泣きながら首を横にふった。
「今なら、見つけられるよ。」
「詩音、これ以上辛い思いをしたくないよ。この葉書の気持ちをそのまま言われたくない。言われたら…僕は…。僕は…」
「それ以上、言っちゃ駄目だよ」
るか君は、抱き締めながら華の背中を擦ってる。
華が、言いたい言葉はわかってる。
でも、言わないのは俺を悲しませたくないからだとわかってる。
「華君、大丈夫だから」
るか君が、華を泣き止まそうとしてるのを見て
いつもは、俺や晴海がやっていたのにと思った。
華は、月君と星君に最初から凄く興味を持っていた。
だからかな?
るか君に抱き締められてるだけで、本音をポロポロ話して涙も、もう止まりそうで…。
なんだろう…
兄として、凄く寂しい気持ちだ。




