寄ってから行くね[栞の視点]
朝から、麻美はバタバタとして、母親のお見舞いに行ってしまった。
「華と晴海の家に寄って、渡してから行くよ。」
僕は、詩音との電話を切った。
昨日の帰りに、華と晴海に渡そうと思っていた麻美からのプレゼント。
酔いすぎて忘れていた。
たまには、電車もいいかな?
乗り間違えた。
乗り換えして、疲れた。
時間が、かかってしまった。
ブー、ブー
華からの電話だった。
ちょうど、華に会えた。
華は、ポロポロ泣いている。
「どうしたの?」
僕に、葉書を渡してきた。
【華へ。気持ちは、嬉しかった。だけど、華とはいれません。また、傷つけてしまうのがわかるから、ごめんなさい。実家に帰ります。お見合いをする事にしました。華の夢を奪って、ごめんなさい。死ぬまで、傍にいたかったです。約束を守れなくてごめんなさい。華も愛する人を見つけて、幸せになって下さい。今まで、ありがとう。さようなら。愛していました。】
「勝手な人だね。だから、駄目だって言ったんだよ」
華は、僕に抱きついてきた。
「晴海が、僕の為に安西さんの事を諦めようとしてる。それが、許せなくて喧嘩したんだ。僕は、一人なんだよ。詩音も晴海も幸せになっちゃうんだ。」
「華…。あの人を愛していたんだね。」
「うん、しおりん。僕は、まだ彼がもどってくるって信じていたんだよ。」
華の気持ちが痛い程、僕に流れ込んでくる。
「ごめん。安西と絵を描く約束してるから、詩音の店に行かなきゃ行けない」
「僕は、行かない」
「一緒に行こう」
嫌がる華を僕は、置いてなどいけなかった。
「しおりん」
「大丈夫、僕がいるから」
そう言って、タクシーを拾って華を連れて行った。
タクシーから降りると、安西とるかと星さんがいた。
「何で?」
「晴海君は?」
「きてないよ」
「安西じゃあ、一人ではいれるじゃねーかよ。」
るかは、安西をバシバシ叩いてる。
「そうみたいだね」
安西は、るかに笑った。
るかが、華に近づいてきた。
「何かあったのか?」
「何もないよ」
「大丈夫だ」
そう言ってるかは、華を抱き締めた。
華が、泣き出してしまった。
「僕は、少しあっちにいるよ」
華が泣いたのを見て、安西はキャリーケースをひいて少し離れた場所に歩いていく。
「華君、何かあったんだね?」
星さんの言葉に、頷いた。
「僕だけ、一人ぼっちになっちゃったんだ。僕だけ…」
華は、るかにしがみついて泣いている。
「なってねーよ?俺達がいてやるから」
「みんな、付き合ってるよ。僕だけ、愛する人がいないんだよ。」
「誰かに愛されたいのか?」
「えっ?」
「誰かに愛されたいのか聞いてるんだ。」
「どういう意味?」
華は、るかの言葉に固まっていた。
「僕は、彼がもどってくるって信じてたから」
華は、また泣き出してしまった。
「安西、ちょっと来い」
そう言われて、安西がもどってきた。
「安西、あの人を華君に会わせてやって欲しい。」
「いらないよ。そんな、僕は」
「愛されたいんだろ?誰かに」
「誰でもよくないよ。僕は、彼がよかったんだよ。」
「安西、悪いけど。今の話なしだ」
「わかった。」
安西は、意味がわからないって顔をして戻っていった。
適当な事を言ったんだな。きっと
「誰でもよくないなら、自分が好きになれる相手を見つけなよ。時間がかかっても…」
るかは、華の頭を撫でる。
「でも、それまで僕は一人ぼっちだよ。みんなは、愛されてるのに…。」
「みんな、華君を愛してる。愛の形が違うだけだろ?そんなの気にするなよ。一人ぼっちじゃないよ。だから、そんな風に言うなよ」
るかは、華を抱き締めた。
「こうされたいなら、いつでもしてやるから…。」
華は、泣いてる。
「僕もしてあげるよ」
星さんは、るかと華の間に手をいれて抱き締めた。
「僕だってするよ」
僕も、るかと華を抱き締めた。
「みんな、ごめんね。僕、一人だとか我儘言って」
華がそう言った瞬間、走ってきた。
「華」
やっぱりだな。
僕は、振り向いた。




