幸せになるために…[晴海の視点]
ジャリ、ジャリ、石が敷き詰められた道を歩く。
華が、まだ寝てるのをわかって始発に乗ってやってきた。
花が綺麗だな。
「また、来てくれたんだね」
「朝一なのに、いるんですね?」
「毎日きてるよ」
俺は、並んでその人と、歩く。
「あの事なら、もう許してるよ」
そう言いながら、お墓を洗ってるのは渚の父親だ。
「お父さん…」
「晴海君は、男の人しか愛せないんだろ?」
「すみませんでした。」
「何で、私に謝ってるの?」
お墓を綺麗にして、線香をたいた。
「だって、俺が渚に…。」
「渚は、晴海君を愛していたよ。本当に、愛していた。それは、渚の意思だから…。晴海君が、引き入れなくても渚は晴海君を好きになっていたよ」
お父さんは、俺に笑いかけた。
手を合わせた、「渚、俺と幸せになろう。俺と…。」
「渚から、もう自由になっていいんだよ。」
お父さんは、立ち上がった。
俺も、ついていく。
「渚が、俺を縛りつけてるわけじゃないです。俺が、渚と一緒に幸せになりたいんです。」
俺の言葉に、お父さんは目を軽く開いてみせた。
「渚に、似てるか?私は…。」
「はい」
俺は、泣いていた。
お父さんと渚は、双子みたいによく似ていた。
「妻と離婚した私に、晴海君が告白してきた時は正直驚いたよ。」
「あの頃は、気持ちがついていけてなくて」
「本気にしてたら、どうしたの?」
渚のお父さんは、桶をしまってる。
「付き合ったと思います。」
「ハハハ、面白いね。晴海君。コーヒーでも飲まない?」
「はい」
俺は、並んで歩いてる。
「あんな風にキスをされて驚いたよ。まさか、また会う日がくるなんてね。」
「すみません。朝一なら、会わないと思っていました。」
「別に、怒ってなどいないよ。私も再婚した。渚そっくりの、男の子を育てている。凪人って言うんだ」
お父さんは、俺にスマホの待受を見せた。
本当に、渚だった。
「似てるだろ?渚が、見せた小さな頃の写真に瓜二つだろ?」
「はい」
「晴海君、そろそろ本当の意味で前に進んでいいと思うよ」
お父さんは、俺に向き合った。
眼鏡を外せば、やはり年をとっても渚だ。
「渚なら、こう言うよ」
お父さんは、眼鏡を外した。
「晴海を許す。これからは、自分だけの幸せを見つけてね。」
俺の目から、涙が溢れ落ちてきた。
お父さんは、涙を拭ってくれた。
「渚だと思って、キスをしても構わないよ。」
ニコって微笑まれて、思わず抱き締めてしまった。
「渚に会いたいです。渚に会いたい。」
「ごめんね。会わせてあげられない」
俺は、お父さんから離れた。
「俺が、殺したんです。」
まだ、あの感覚を覚えているんだ。
「晴海君、心を奪われる愛を覚えなさい。渚を愛してる気持ちごと奪われる愛を覚えなさい。」
「それが、何になるんですか?」
「なるよ。私も、そうだった。渚を愛してる気持ち全てを今の妻は受け止めてくれた。晴海君に話してない事が一つあってね。私は、あの日渚と喧嘩したんだ。」
「喧嘩ですか?」
「渚の将来を渚の母親が心配していたから、話をした。渚の腕を掴んだ。振りほどかれた腕をまた掴めなかった。でもね、あの日からずっと私はあの手の感覚に支配されていたよ。晴海君も同じだろ?」
俺は、自分の手を握りしめた。
「放したくなかったのに、放れたんだよね。」
「はい」
「もういいじゃないか?渚を殺したと自分を責めるのはやめて」
「でも、俺は…」
お父さんは、俺の両手を握りしめた。
「今度は、この手で愛する人を幸せにしなさい。渚を好きな心ごと持っていかれてしまう人に出会いなさい。私は、出会えた。だから、もう二度とこの手に握りしめた幸せは放さないと決めたんだ。晴海君も、そんな人に出会いなさい。」
お父さんは、自販機でコーヒーを買った。
「いや、出会ってしまったから来たんだね。だったら、コーヒーはこれにしておこう。」
そう言って、缶コーヒーを握らせた。
「酷いですよね」
「酷いのは、渚の方だよ。晴海君を縛りつけてる。」
「でも、それを俺は」
「望んでいたのは、その気持ちを奪ってくれる程の愛が欲しかった事だろ?」
「違います。俺は、渚と」
「違わないよ。渚ごと愛されたいって気持ちは、その気持ちも全て奪って欲しかったんだよ。晴海君も私も…。人は、寂しさと痛みに弱い生き物だと私は思っているよ」
お父さんは、俺を抱き締めてくれた。
「思い切り、愛されなさい。渚なんて、思い出にかわる程。その手の感触が消える程。晴海君も、その人を愛しなさい」
お父さんは、俺から離れて歩きだした。
追いかけられずに、その場に崩れ落ちた。
渚…ごめんね。
俺、安西さんを愛したいです。




