安西美矢[晴海の視点]
雷に打たれるように惹かれ合う。
まさに、その言葉通りだった。
何の言葉も交わしていない、安西さんを見た瞬間に一瞬で心を持っていかれそうになった。
反射的に手を掴み、駄目だとわかっていながら告白をしていた。
フラれてしまった。
るか君の話で、決意した。
そうだ、渚は俺にキスなどしてくれないのだ。
抱き締めてなどくれないのだ。
バックミラーで、るか君と星君がキスをしたのをチラッと見た。
そうだ、触れたいか触れたくないかなのだ。
店について、車を降りた。
兄貴達は、もうついていた。
華が、鍵を開けた。
俺は、安西さんのスーツケースを持った。
「大丈夫、重くないよ」
「いえ、持たせてください」
「ありがとう」
るか君に、言われたようにするんだ。
「安西さんは、食べ物は何が好きですか?」
「えっと、何だろうか…。生きるためにしか食べていないからわからない。ごめんね」
「それなら、何でも食べれるって事ですね」
俺は、笑いかけた。
「そんな綺麗な顔で、笑われると恥ずかしいね」
安西さんは、左目を隠そうとしてる。
「自己紹介、まだでしたね。美咲晴海です。詩音の弟です。後、栞ちゃんの従兄弟です。」
「あー。それで、よく似ているんだね。みんな綺麗な顔だね」
店に入る。
安西さんは、さっきと違って左目を隠そうとしてる。
やっぱり、るか君に言われたように意識をしてくれてるのではないだろうか?
華と兄貴と椚さんが、料理を作りに行ったようだった。
「何故、目を隠そうとするの?」
「こっちは、あまり見えないし。ほら、白内障になってしまってるし。綺麗ではないわけだから」
「俺に興味ないなら、気にしなくていいですよね」
わざと、顔を近づけた。
「美咲君に、好かれるような容姿をしていないよ。」
そう言って、逃げようとする安西さんの腕を掴んだ。
「美咲じゃなくて、晴海でいいです。後、人物画下手でも描いてくれるんですよね?描いてよ。安西さん」
俺は、安西さんをギリギリまで自分の方へ引き寄せた。
「あっ、うん。わかったよ」
ガシャン…
鞄から、缶のペンケースを落とした。
「慌てて、どうした?安西」
るか君が、ペンケースを拾って渡した。
「嫌、慌ててなどいないよ。」
「感情はなくしたんじゃなかったのか?」
るか君は、ニコっと安西さんに笑った。
「当たり前だ。」
そう言って、るか君から、ペンケースを奪った。
「もう少しだ、頑張れ」
星君を連れて、去る瞬間に俺の耳元で呟いた。
「今から、描いてもらえるんですか?」
「今からは、ほら難しいよ。親睦会だから」
安西さんは、俺から離れようとする。
「残念だな。俺は、今でもよかったのに…。」
安西さんは、胸のネックレスをギュッと握りしめてる。
その時に、傷があるのが見えた。
「先に乾杯しよう」
兄貴が、ワインとグラスを持ってきた。
「新しい仲間と、俺の店に乾杯だ」
「カンパーイ」
栞ちゃんは、麻美ちゃんに電話をかけにいった。
るか君は、星君と話してくれていた。
兄貴と華と椚さんは、キッチンに行った。
「それ、握りしめてるのは愛した人とお揃い?」
「あ、これね。うん」
片方の指輪は、歪な形をしている。
「俺ね、こんなにも人を二度と愛する事はないって思った人を亡くしてるんだよ。」
ワインを飲んだからか、指輪を見たからか、俺はそう話した。
「同じだね」
安西さんは、ネックレスを握りしめて言った。
「その人より一番に何かならないしなれないのはわかってるよ。でも、安西さんの痛みをわけて欲しい」
俺は、安西さんの左頬に触れた。
「裏切りだよ。晴海さんに触れられるのは…。」
そう言って、俺から目を反らした。
「触れられたくないなら、噛みついてよ。俺は、安西さんを見つけた瞬間からこうしたかった。愛する人を助けられなかった手で、安西さんに触れたくて仕方なかった。」
安西さんは、俺を見つめた。
涙を震えながら拭ってきた。
「晴海さんと同じ事を思ってしまった。自分が、汚くて醜くて、しかたないんだ。」
とめられなくて、キスをしてしまっていた。
安西さんは、俺の唇を噛みちぎらなかった。
「ごめんなさい」
震えてるのが、わかって謝った。
「晴海さんのせいじゃないんだ。霧人とさとに悪くて。」
安西さんは、床に膝から崩れ落ちた。




