きたきた[詩音の視点]
栞ちゃんと月君と星君がやってきた。
「待たせたね」
「大丈夫だよ。安西君は?」
「30分後にやってくるよ」
「優君、ちゃんと愛は残っていたみたいだよ。」
月君と星君の指輪を見て言った。
「あー。るかに戻ってるよ」
栞ちゃんの言葉に優君は、納得したようだった。
「ここに描いてもらいたいんだ。」
俺は、栞ちゃんを連れていく。
「安西君に連絡してくれてありがとう。俺は、この絵を凄く気に入ったんだ。」
月君が、教えてくれた教会に描かれている絵を見せた。
「安西は、こんな絵をもう描けないかもしれないよ」
「構わないよ。それでもいいんだ。」
華と晴海もやってきた。
「兄貴、結構いい感じだな」
「晴海、この壁に栞ちゃんと安西君に絵を描いてもらうんだよ。」
「安西君って?」
「もうすぐ、来るよ」
晴海に笑いかけた。
華と晴海は、月君と星君と話している。
スーツケースをひいて、半分白髪の男が現れた。
「安西が、きた。」
栞ちゃんに見せてもらった写真の安西君とは、驚く程、別人だった。
「遅くなりました。安西美矢です。」
「初めまして、美咲詩音です。」
「よろしくお願いします。」
安西君は、壁を見つめていた。
斜めに下げた鞄の中からスケッチブックを取り出した。
鉛筆を持って、サラサラと何かを描いてる。
その姿に、引き寄せられるように、華と晴海は後ろに立った。
栞ちゃんにスケッチブックを見せながら話し始めた。
老人のような姿に見えたけれど、絵を描くと別人だった。
「藤堂は、こっちを描くだろ?ここで、混じり合うのが、いいと思うんだけど…。どうかな?」
「僕も、それを思っていた。」
「そうだね。それで…。えっと、手を掴まれたら描けないんだけれど…」
「すみません。」
晴海が、安西君の右手を掴んでいた。
「君の絵も、描いて欲しいの?人物画は、やってないんだけれど…。下手でも、許してもらえるかな?」
「俺と付き合ってみませんか?」
えっ?
「えぇー。晴海、何を言ってるんだ。初対面じゃないのか?」
「初対面だよ、兄貴」
「その何で、いきなり…。そんな風に言うんだ?何が、あった?」
「兄貴、テンパりすぎだよ。落ち着いて」
「落ち着けるわけないだろうが、な、何で急に会ってすぐの人に告白なんてするんだ。馬鹿なのか?晴海」
「反対って事?」
「反対してるわけじゃない。突然、そんな今まで晴海は、そんな気持ちに」
「だから、テンパりすぎだよ。詩音。」
華に肩を叩かれた。
「仕方ないじゃん。晴海のここが共鳴しちゃったんだから?」
そう言って、華は、自分の胸を叩いてる。
「共鳴したのか……?」
「わからないけど、安西さんの傍にいてあげたい。」
晴海は、涙を流し始めた。
「気持ちは、嬉しいけれど…。僕には、そんな資格はないよ。涙まで、流してもらったのにごめんね」
安西君は、そう言って栞ちゃんとまた話しをし始めた。
共鳴って事は、晴海と同じで誰かを亡くしたのか?
「それで、一度下絵を描いてみようか?」
「明日は、どうかな?」
安西君は、鞄からスケジュール帳を取り出した。
「予定は、3日後だから…。いけるよ。明日、やってみよう」
そう言って、俺の前にきた。
「美咲さん、また明日よろしくお願いします。では、今日は、失礼します。」
「ま、ま、待って、今日はみんなで、お酒でも飲まないかな?親睦会って事で…。華と晴海の店で、どうだろうか?」
「僕は、時間はあるので、構いませんよ。」
何故、俺は安西君を引き留めたのだろうか?
「じゃあ、それで。」
安西君は、月君に話かけていた。
「詩音、反対してたんじゃないのか?」
栞ちゃんが、近づいてきて話しかけた。
「安西君も、恋人を亡くしているのか?」
「うん、さっき聞いた。」
「晴海が、惹かれるのはわかっていたの?」
「安西と仕事を始めればそうなるかと思ってはいた。だけど、こんなに早いとは夢にも思わなかったよ。」
栞ちゃんは、柔らかい笑顔で晴海を見た。
「安西なら、晴海の全てを受けとめてくれる気がした。その逆もだよ。晴海なら安西の全てを受けとめる気がした。僕は、どちらにも幸せになってもらいたいんだよ。詩音」
そう言って、栞ちゃんは俺に笑いかけた。




