誰かに似てる(華の視点)
しおりんと星君が、去った後。
僕は、月君を見ていた。
僕への恐れや嫌悪はない。
あるのは、にこやかな笑顔だけだ。
化け物を感じられない。
でも、ルル君やるか君ではない。
嫌、あの日クルクルと入れ替わった人格のどれでもない。
ただ、吸収すれば破滅する気がしていたのになぜ感情を感じれているのだろうか?
さっき、水を取りに行く時にみんなには記憶がないことを話しておいた。
だから、誰も近づかない。
どうやったら、もどせるだろうか?
長期間になるときっとこのままだと…。
短期間で、取り戻さなければいけない。
例え、それがさっきのるか君であっても…。
短期で記憶が、消えたのは晴海だった。
数ヶ月だったから、全てを思い出した。
長期で、記憶をなくしたのはこの頬の相手だ。
そうだ。
「ねぇー。僕が面白いって思ってる話をしてもいい?」
「うん、どうぞ」
晴海の時も、使ってみた話。
「じゃあ、話すよ。これはね、友達に聞いた話なんだ。」
月君は、目を輝かせながら聞いてる。
「彼はね、男の子が好きだったんだ。でもね、ある日結婚をする事が決まった。それは、親の都合で彼が望んだ事じゃなかった。」
「うん」
「彼は、男の子に別れを告げたよ。その子は、とても聞き分けがよくてね。すぐにわかったと言ってくれた。」
「うん」
「その瞬間だった。脳内でパァンと銃声が響いた。フラッと彼は倒れた。意識を失った。」
「撃たれたの?」
「ううん、撃たれてはいないよ。現実にはね。」
「頭の中で、撃たれた気がしたの?」
「そうだよ。」
「話を、続けて」
月君は、興味をもったようだった。
「目が覚めると何もかも覚えていなかった。彼の事も、自分の事も」
「まるで、俺みたいだね。」
「そうかもね。」
「彼は、思い出したの?」
「うん、思い出したよ。全て」
「彼とどうなったの?」
「記憶を失った五年間、彼は新しい恋人と付き合った。女の子。結婚をして、子供を授かった。記憶がなくても生きていけた。それは、奥さんが出産の為に帰省をした日の出来事だった。」
月君は、食い入るように僕を見つめた。
「TVを見てると、ある俳優さんの声が懐かしい誰かの声に似ていた。引き金がひかれたのを感じたと言った。パァン、パァン。二発の銃声が響いた気がした。」
「うん」
「全てを思い出した。彼は、家から飛び出して、愛する者を探した。」
月君は、キラキラした目を僕に向けている。
「見つけた彼には、もう新しい人がいた。」
「えっ?」
「五年は、長すぎたんだよ。」
月君は、悲しそうな顔をした。
「許せなかった。待ってくれていると信じていた。彼は、ある日その子を呼び出した。「僕を愛する事が出来ないのなら、消えてくれない?」何故かそう思った彼…。でも、出来なかった。かわりに、彼の顔に傷をつけた。誰にも愛されないように…。自分を忘れないように…。」
「それで、彼は?」
「今も幸せな結婚生活を送っているよ。」
話し終わると晴海がやってきた。
「そんな、愛する者は別なのに。それで、よかったの?」
月君の言葉に晴海は、何の話をしていたかすぐに理解した。
「よくないだろうね?今も矛盾を抱えてるって話だ。」
と笑って言った。
「長すぎたって事?」
「そう、長すぎたんだよ。記憶は、きっといつだって彼の近くにいたんだ。だけど、彼は見ないフリをした。それは、彼にとっていい事ばかりじゃなかったから…」
「痛みも苦しみも悲しみも…。全て、受け入れる覚悟がなかったんだな。彼は…。」
「俺は、受け入れれるだろうか?」
「どうだろう?月君、次第じゃないかな?」
「やってみるよ」
月君は、ニコニコ顔で笑った。
しおりんと星君が、帰ってきた。
僕と晴海は、立ち上がった。
「詩音、晴海、向こうにいこうか」
「ああ」
少しでも、向き合って欲しかった。
星君に…。




