るか君だね?[栞の視点]
次の日ー
月と星さんと待ち合わせをしていた。
「遅くなってごめん」
「いや、僕もさっきついた。この後、詩音たちに会いについてきてくれるかな?」
「いいよ。」
「新しい店を始めるんだ。安西美矢には、その壁の絵を僕と共同で描くのをお願いしてる。」
「でも、ここって」
「天の川カフェだよ。ついてきて」
僕は、そう言うと二人を連れていく。
ラブホテルに入る。
エレベーターに乗って、部屋に案内した。
コンコン
「藤堂きたか」
「ああ、月も連れてきたよ」
「久しぶりだな、橘。元気だったか?」
「ああ」
るかは、少し戸惑っていた。
星さんと僕は、安西の姿に驚いていた。
「安西、彼氏は元気?」
「死んだよ。」
「そうだったんだね。」
「事故だった。」
安西は、悲しそうに目を伏せた。
「美術部の人から聞いたよ。一気に老けたってさ」
「そうなんだよ。左目は、白内障になってね。頭も、左半分だけ白髪だよ。面白いだろ?僕は、芸術の人間として、このままいることに決めたんだ。」
安西は、笑いながら絵を描く準備をしてる。
コンコン
「はい」
「美矢君、コーヒーをもってきたよ。みんなのぶん。」
「ありがとう」
「じゃあ、よろしくね」
「はい」
そう言って、天の川カフェのオーナーさんは出ていった。
「10年前に、死んだ。霧人は、さっきの正人さんの弟だったんだよ。どうぞ、コーヒー飲んで。」
「ありがとう」
るかも、星さんも、お辞儀をした。
「僕はね、このカフェを高校生の頃から気に入っていた。霧人と出会ったのは、高校の頃からだよ。最初は、二人の両親がやっていたんだ。」
そう言いながら、コーヒーを飲む。
安西とは、電話でしか話していなかったから僕は正直驚いていた。
あんなに美しい安西が、こんな風になるなんて…。
「醜くなって驚いたかな?藤堂、橘」
「いや」
「驚いた」
僕は、正直に言ってしまった。
「藤堂は、相変わらず綺麗だもんな。」
安西は、クスッと笑った。
「それって、彼を凄く愛してたって事だよな?」
「化け物に食われるより怖い事はね。愛情と感情を根こそぎ奪われる事だよ。」
安西は、髪の毛を触りながら言った。
「安西は、感情と愛情を失くしたのか?」
「だから、ここで絵を描いてる。正人さんが、どうしても描けってしつこくてね。だけど、欠落したままだよ。僕はね、ずっと…。橘も似たような感じなんだな」
安西は、るかを見て言った。
「俺の何かを、気づいてるのか?」
安西は、るかをジッと見つめてる。
「そうだな。気づいてる事を話していいのなら、話すよ。まず、今の橘は高校生の時に会った橘ではない。だけど、橘はここにいる」
そう言って、安西は自分のこめかみを叩いた。
「どうやって、連れ戻せる?」
るかは、安西に必死で聞く。
「描け。下手くそでもいいから、絵を描け。橘は、いつでもそうしていた。今は、るか君なんだろ?」
「えっ?」
「やっぱりそうか。橘が、高校の時に話した事があった。二人きりで、部室に残った時。」
「何を、俺は話していた?」
「自分の中に、何人もの人格がいるんだと言っていた。入れ替わらないようにするには、描くしかないんだと言っていた。ある日、僕はるか君に会ったんだよ。」
そう言って、安西はコーヒーにミルクを注ぎだした。
「橘は、絵を描けなくなっていた。藤堂も知ってるだろ?恋をしてから、橘はその人の絵ばかりしか描かなくなった。」
「知ってる」
「そしたら、現れたんだよ。君が…。美術室で、絵を描いてる僕の前に。君はね、僕の絵を刺した。橘、やめろって言ったら。俺は、るかだと名乗った。その時に、僕が描いていた作品が気に入らなかったようだった。あれは、何だったかな…」
安西は、コーヒーを飲みながら考えている。




